10/02/06 05:29:29 WOtrqvdH0
これは大学の友人Tから聞いた話。
今年の夏、Tは家族と一緒に、香川の山奥にある父方の実家に帰省した。
香川は雨が少なく昔からため池が多いが、父の実家もため池に挟まれた道を通った奥、坂道を登り切った先にあった。
実家に向って左側のため池は、他と比べていくらか大きく、真ん中に四畳半くらいの小さな島があった。そして島の上には石碑があった。
石碑は村を救った雨乞い師の墓だと聞かされていた。
江戸時代のある年、何ヶ月も雨が降らず、作物にやる水どころか自分たちが飲む水すら乏しくなった時、流れの法師が村を訪れた。
村人たちの哀願を受けて、その法師が祈祷を行うと、数日のうちに村を雨が降り注いだという。
帰省してから数日後、昼間に寝過ぎたTは夜の村の散歩に出かけた。
心配する祖母に適当な事を言い、懐中電灯片手に村を巡った。
さすがに田舎の村は街灯が少なく、懐中電灯がないと足下が危なっかしかったが、風が涼しくなかなか心地よい散歩となった。
行きに来たとおりにため池に挟まれた道を通っていると、ふと左側に異変を感じた。
池の真ん中の島に石碑が建っている。
その上に人影が見える。
行きしに石碑を懐中電灯で照らした時にはそんなものはなかった。
ふいと、その人影がこちらを向いた。
「貴様は、あの家の者か?」
とあごで実家の方を指す。
距離があるにも関わらず、すぐ側から囁かれたように声が響き、思わずTはうなずく。
「そうか」
人影が何度もうなずいた。
懐中電灯を向けていないのに、人影の輪郭ははっきり捉えられた。あるいは人影自身が発光しているのかもしれない。
その姿は山伏に似ていたが、頭の小さな帽子以外に装飾らしいものは何一つなく、衣類の色は茶系統に見えた。
雨乞い師の霊?
盆でもあるし、そういう事もあるかとTが思っていると、不意に雨乞い師がこちらを向いた。
(続く)