09/09/22 23:56:10 A81kAZyR0
布団の上で大の字になり、目を瞑る。お風呂で一度は決意したもののまだ迷いが残っていた。
果たして私という人間が彼女の秘密を覗いてしまって良いのだろうか。『理解しようとする勇気はある?』美里の言葉が頭をグルグル回る。
ここまで来て何を悩む必要があるんだ。理解してやるさ。それであなた達の心が少しでも軽くなるのなら。
意を決して起き上がり私は革の日記を取り出してページを捲った。
日記は10月から始まっていた。しばらくは日常の事が書かれており、その話題の殆どは美里と保健医の佐山先生の事だった。
そこから少し読み進めると、ある人物が浮かび上がる。もう一人の「先生」だ。名前は書かれておらず、ただ先生と書かれている。
内容から美咲が「先生」に憧れていて恋心を抱いていると確信した。更に読み進めるとその想いが徐々に強くなっていき、12月から先は美里や佐山先生の話題を抜いて殆どが「先生」の内容になってきた。
12月20日
先生を屋上に呼んだ。私の想いを伝える為に。受け入れて貰えないのはわかっているけど、もうどうしようもない。先生が来てくれた時、それだけで満足してしまいそうになった。
私は勇気を出して先生に好きですと伝えた。少しの沈黙の後、先生は静かに首を横に振った。わかっていたけど、涙が止まらなかった。先生は教師で、私は生徒だ。叶うはずがない。悲しいけどわかっていた事。
中略。
12月24日
先生に呼び出された。恥ずかしくて顔を合わせたく無かったけど、気付くと屋上に向かっていた。先生は既にそこに居た。
突然、先生に抱きしめられる。一瞬何が起こったかわからなかったけど、暖かかった。自分の気持ちを誤魔化しきれない、俺もお前が好きだ。先生は確かにそういった。嬉しくて涙が出た。つい先日は悲しくて泣いたというのに。
先生の唇が私の唇を塞ぐ。私のファーストキスは美里に奪われているけど、ごめんね、先生。ありがとう。
中略。
196:屋上の幽霊 喪中 ◆bfuvSRTZj6
09/09/22 23:56:53 A81kAZyR0
12月31日
友達と初詣に行くとお母さんと美里に嘘をついた。ごめんね、美里。スーパーで材料を買い、先生のアパートに。狭くて散らかっているけど、先生の匂いがした。
私が作った鍋を食べながらビールを飲む先生。その姿を見ているだけで幸せ。除夜の鐘が鳴る頃、私と先生は一つになった。想像以上に痛くて血が出たけど、優しい言葉をいっぱい貰ったので我慢できた。
中略。
1月1日
まだ少し痛いけど、愛し合う内に大分慣れてきた。今日は家に帰らなければ。私の胸で眠る先生が本当に愛しくて、子供みたいで可愛い。
中略
1月5日
初めてホテルに入った。制服を持ってくるように言われて少し焦ったけど先生が望むなら大丈夫。一緒にお風呂に入って
中略
1月14日
佐山先生に彼氏が出来たと報告した。先生も喜んでくれて嬉しい。でも、先生との約束だから名前は明かせないのです。私が卒業したら多分、大丈夫かな。
避妊について色々教えてくれたけど、私は先生の子供なら欲しい。
中略
1月16日
放課後に準備室に呼ばれた。入るといきなり鍵をかけられて焦った。かなり強引なキス。そして先生の前に跪かされ
中略
ちょっと待って。知らない間に食い入るように読んでいた。顔が赤いのが自分でもわかる。赤裸々すぎる。
経験の無い私には刺激が強すぎ。パラパラとページをめくるが、・・・・毎日だ。求められたら答える。決して拒まず、受け入れる。加えて日を追う毎にエスカレートしている。
日記というかこれは言わば日誌だ。美咲も美咲だが、この先生は何者なんだろう。
2月3日
A組の桐島さんに校舎裏に呼び出された。そしていきなり叩かれる。先生は桐島さんと付き合っているから近付くなと言われた。そんな訳ない。私と先生は深く愛し合っているんだ。
桐島さんは嫉妬してそんな事を言ってるに違いない。そう思うと可哀想になり、何も言い返さなかった。念の為に先生に尋ねたがキスで答えてくれた。
中略
2月14日
今日はバレンタインデー。先生のついでに美里にもチョコを作ってあげた。そんなに喜ぶとは思わなかったので嬉しい。ただ、先生は他の生徒からもチョコを結構貰っていて嫉妬・・・。
先生にチョコを渡す。食べさせて欲しいと甘えるのでチョコを口に含み先生の
中略
197:屋上の幽霊 喪中 ◆bfuvSRTZj6
09/09/22 23:57:34 A81kAZyR0
3月9日
今日も授業中に抜け出した。誰にも見つからないように例の屋上へ。先生に全部脱ぐように言われる。見つかったらどうしよう。
私もだけど、先生もただでは済まないハズだ。それだけ深く私を愛してくれているからだと信じ
中略
3月20日
先生のアパートへ。制服のまま両手を縛られ目隠しをさせられる。何度やってもこれは怖い。先生が写真を撮っていいるのがわかった。
それでも先生が望む事だから私は喜んで受け入れる。
中略
4月6日
3年になって先生の要求はどんどん過激になる。大人の恋愛とはこういうものなのだろうか。でも先生が喜ぶなら
中略
4月19日
先生のアパートに行く。信じられない事に先生と桐島さんが裸で抱き合っていた。悪夢を見ているようだ。先生に中に入れと命じられる。脱げと命じられる。
私は従うしかない。最後に微笑んでくれるのが私だけであれば、それでいい。
中略
これは。読み進める内に吐き気がしてきた。美咲がこの男を溺愛しているのを良い事に、この男は美咲をまるで性奴隷のように扱っているのだ。
こんなものがまともな恋愛の筈が無い。こんな教師がこの学校に居るというのか。
4月25日
生理が遅れている。もしかして、と期待しつつ検査薬を買って帰った。反応は陽性だった。心の底から嬉しかった。先生も絶対に喜んでくれるに違いない。明日、先生に話そう。
中略
4月26日
死にたい。
4月27日
母さんに検査薬の箱が見つかってしまった。うっかりしていた。かつてこんなに怒られた事は無かった。先生には堕せと言われたが私は産むつもりだった。
その事を伝えたら父さんに殴られた。母さんは味方になってくれると信じていたけど、頭を冷やしなさいと言われた。でも先生の事は言わなかったよ。約束だから。
中略
5月1日
佐山先生に相談をした。先生と両親の反対を伝えると佐山先生も反対した。高校生でも出産する人は沢山いる。でもそれは周りの支援があってこそなのだと。
私が苦労するのはいい。でも私の我がままで産まれてくる赤ちゃんが苦労する事になったら。先生が苦しむ事になったら・・・。ごめんなさい。本当にごめんなさい。
198:本当にあった怖い名無し
09/09/22 23:57:38 HVSNqMdT0
支援
199:屋上の幽霊 喪中 ◆bfuvSRTZj6
09/09/23 00:00:31 A81kAZyR0
5月3日
両親に話した。父さんは何も言わず、黙って封筒を私に渡した。中を見ると30万円入っていた。
私はこのお金で、自分と先生の子供を殺しに行くのだ。そう考えると死にたくなった。
5月5日
佐山先生が家に迎えにくる。連休中にも関わらず、先生の知り合いで県外の産婦人科の先生が診てくれる事になっていた。
先生は行きの車の中で何も話してくれなかった。病院につくと、分娩台に座らせられた。手術は驚くほど簡単だった。全身に麻酔が回り、意識を失う。気付けばもう、私の子供は死んでいた。
中略
5月10日
しばらく学校を休んでしまったので今日は登校した。いつもの所で先生に会って報告する。先生は優しく私を抱きしめてくれた。私は涙がとまらなかった。
中略
5月20日
この頃、先生は私を避けているように思える。私にはそれが一番辛い。私には先生しかいない。
中略
5月29日
4時限目を途中で抜け出し、先生のもとへ行く。準備室に行くと先生は驚いた顔をした。何で?私は鍵を閉め、抱いて欲しいと懇願した。
でも先生は首を縦には振らなかった。どうして。私は制服を脱ぎ、先生に後ろから抱きつく。そして先生に教わった事を、先生の為に必死でやった。
ようやく先生が私を抱いてくれた。私には先生しかいない。でも、先生が私に向けて放った言葉は「淫乱」だった。
それでも良かった。先生が私を見てくれるなら。体だけでもいい。私は先生と繋がっていたい。私には先生しかいないのだから。
中略
6月25日
先生は私を求めていない。私が先生を求めるだけだ。それでも毎日、私は先生を求めた。
中略
7月20日
ついに一番恐れていた言葉が先生の口から出てしまった。私はバラバラに引き裂かれる。先生の言葉は殆ど耳に入らなかったが、その全てが私を突き刺した。
辛うじて聞き取れたのは、田舎の彼女と結婚する、だった。
前後の日記は読むに耐えない。日々、死にたいという事が脈略も無しに書かれていたから。
私は人をここまで愛せるだろうか。この先を読む勇気が私にあるだろうか。
200:屋上の幽霊 喪中 ◆bfuvSRTZj6
09/09/23 00:01:13 A81kAZyR0
心臓が喉から飛び出そうなほど暴れている。思い出すまでもなく、この日記は死へと向かうカウントダウンなのだ。
少しでも冷静さを取り戻そうと深く深く、深呼吸する。読まないといけないのだ。
7月25日
先生が恋しい。先生に抱きしめて貰いたい。優しい言葉をかけてもらいたい。電話をしても出てくれない。部屋に行っても入れてくれない。
中略
もう普通の精神状態で無いことが手に取るようにわかる。
7月30日
先生を私だけの存在にしたいと思うようになっていた。先生を殺して私も死のう。そんな考えが頭を過ぎった。でも私の望みは先生の死ではない。
先生には幸せになって欲しい。先生に私を忘れて欲しくない。永遠に。そう永遠に。
中略
もう彼女を止められる存在は居ない。そしてカウントは0になる。
8月6日
今夜、先生は宿直で学校に泊まる。お父さん、お母さん、ごめんなさい。折角産んでくれたのに、先立つ私をお許し下さい。
私の最期を胸に焼き付けて貰う為に学校に行きます。永遠に先生の胸に抱いて貰えるように。勿論、これが正しい事で無いことは理解しています。でも、駄目でした。
決して悲しまないで下さい。私は幸せになるんです。
美里へ。お姉ちゃんを許してね。遊んであげられなくてごめんね。美里の幸せはお姉ちゃんの幸せです。どうか、幸せになって下さい。
これが、美咲の最期の日記だった。
もし私が美里なら、これを読んでどう思っただろう。
あ。
私なら、先生を恨む。憎む。この人畜非道の男を。幸せにするつもりも無く美咲を食い物にしたこの男を。
美咲だけに飽き足らず他の生徒とも関係し、美咲の気持ちを正面から裏切ったこの男を。あれだけ苦悩した妊娠を堕せの一言で片付けたこの男を。
私の中のスイッチが入る。心が憎悪に犯される。私が美里なら、いや美里でなくともこの男は許さない。絶対に許さない。許される訳がない。
この日記が幸せに埋まる事はもうないのだ。白紙。白紙という結末。
201:屋上の幽霊 喪中 ◆bfuvSRTZj6
09/09/23 00:02:07 A81kAZyR0
私は理解出来ただろうか。彼女が死を選んだその理由を。答えは出てこない。彼女は先生を愛していた。それは本人以外が見れば歪んだ形かも知れない。
「ごめんなさい。」ようやく、繋がった。
最期を看取ったのはこの先生だ。美咲の目論見通り、美咲の死は先生の胸に焼きついただろう。忘れたくとも忘れられない。永遠にその十字架を背負い生きていく。
正しいかどうかは別として、美咲は永遠に先生の胸に抱かれる。
理解などできる訳がない。それが私が出した結論だった。
どうしてそう思ったかはわからないが、何となく美咲が生きていている気がして、絶対にありはしない8月8日を探そうとページをめくる。
そして、数枚めくった所で、とんでもないものを発見した。
そこには、あってはならない日記の続きが書かれていたのだ。とても正気とは思えない、恐るべき日記が。
9月2日
姉さんが死んで2年。今日はじめてこの日記を読んだ。あれから色々な事があり、私は家から出られくなってしまったよ。お父さんとお母さんが離婚して、姉さんとは違う苗字になっちゃった。
姉さんには悪いと思うけど、私が決着を付けなければならないと思った。私から姉さんと家族を引き裂いた復讐をしなければいけない。
私は明日から学校に行く。勉強もいっぱいして、髪も伸ばして、姉さんと同じくらい綺麗になって、姉さんと同じ高校に行ってその人に復讐する。
美里はやはり同じ考えに至っていたのだ。
日記は残り少なく、次の日付はかなり飛んでいる。
12月9日
ガリガリに痩せていた私だけど、運動や勉強を沢山して大分女の子らしくなってきたよ。お母さんが私の事を美咲と呼び始めた。
前から少しおかしかったけど、日に日に姉さんに似てくる私を見て姉さんだと信じ込む事にしたみたい。少し悲しいけど、死んだのは本当は美里。今居る私は美咲。
4月27日
3年生になれました。鏡を見るたびに私は自分が誰だかわからなくなる。写っているのは間違いなく姉さんだ。月に一度、父さんと会っているんだけど、あの人も名前を呼び間違えた。
家族でも間違えるんだから、あの人が見たら腰を抜かすんじゃないかな。今からどうやって殺すか、楽しみです。
絶句した。
こんな馬鹿な生き方があるものだろうか。出来るものなのか。
202:屋上の幽霊 喪中 ◆bfuvSRTZj6
09/09/23 00:02:48 A81kAZyR0
6月12日
模擬試験の結果が出た。姉さんと同じ学校へ行けそうだよ。母さんは私の仏壇に毎日手を合わせてくれる。私の為に祈ってくれる。それが嬉しくもあり悲しくもある。
お爺ちゃんが母さんを病院に連れて行こうとしたけど、私が母さんを庇った。私を姉さんと思い込む事で、少しでも罪悪感から解放されるならそれでいいじゃない。
お爺ちゃんは私を美里と呼んでくれる。それでいいと思った。私は美咲で、美里なのだから。
10月12日
中学最期の文化祭が終わり、私は松永君に告白された。こんな私のどこが好きなのかわからない。私が演じる山吹美咲が好きなのか、澤岡美里が好きなのか。
松永君はスポーツも勉強も出来る。顔もかっこいいし、優しい。正直に言うと私も松永君が好きだ。私は持っていたハサミを松永君の首筋にあて、私と死ぬ勇気があるなら、いいよと言った。
それでもいいと言ってくれたけど彼が震えているのを感じていた。私がハサミに力を入れると、彼は私を突き飛ばし逃げていった。それがおかしくて、悲しくて、泣いちゃったよ。
1月28日
合格通知が郵送されてきた。旧姓の山吹で試験を受けたら果たして入学出来ただろうか。あの後、松永君とは口を聞くことは無かった。クラスの皆からも距離をおかれた。
そんな事は大した問題じゃない。ようやくここまで来たんだ。絶対に、目的を果たす。
4月5日
入学式も無事に終わり、今日は校内を見て回ったよ。姉さんが通った学校。姉さんが飛び降りたクラブハウス。あの時とは大分様変わりしていたけど。姉さんが落ちた場所には綺麗な花が咲いていたよ。
きっと、姉さんと懇意にしてくれたという佐山先生だろう。その優しさが溜まらなく嬉しかった。佐山先生にだけは、私の素性を明かさなければ。でも計画を悟られたら駄目だ。会話に注意しないと。
その足で保健室に行き、佐山先生と会ったよ。姉さんの言った通り、素敵な先生だった。髪型とメイクは変えていたけど、すぐにバレてしまった。先生は私を抱きしめて、姉さんを想って泣いてくれた。
私の知らない姉さんの学校での事を色々教えて貰った。時が経つのも忘れてお話したよ。
それで、計画を根本から崩される事実を知った。あの男はもう学校を去っていたのだ。
203:屋上の幽霊 喪中 ◆bfuvSRTZj6
09/09/23 00:03:35 17TVGoGp0
あの男は姉さんの最期を看取った後、逃げるように学校を去った。今は田舎で結婚し、中学校で教師をやっているとの事だ。
出来ることならこの学校で殺したかった。けどそれは叶わくなってしまった。もっと早く調べておくべきだった。
前に年賀状を貰ったという先生に、姉さんを看取ってくれたお礼の手紙を送りたいと嘘をつき、コピーを貰う約束をした。計画を再度練り直さなければ。
それから閉鎖されているクラブハウスの屋上の鍵を何とか都合して貰えるように頼んだ。姉さん最期に見た風景を見たかったから。
4月7日
もう隠す必要もないので、私は澤岡美里から山吹美咲に戻った。母さんが悲しむから。
すれ違う先生達が私の事を見て何か恐ろしい物を見たかのような表情をする。そりゃそうか。死んだはずの姉さんが歩いているんだもの。
でも誰一人、私に声をかける先生は居なかった。皆、触れないほうがいいという結論に至ったのだろう。
佐山先生から年賀状のコピーと鍵を受け取る。鍵は急いで合鍵を作った。これでいつでも姉さんに会える。
先生はまるで姉さんの生き写しだと言ってくれたよ。それが嬉しかった。
4月15日
計画の大筋を考える。
まず、恐怖させる。姉さんから手紙が来るっていうのはどうだろう。想像しただけで笑ってしまう。手紙を受け取ったあの男の顔が恐怖に慄く。最高に愉快だ。
制服のまま、殺しに行こう。あの男は制服姿が大好きみたいだから。それくらいはサービスしてやろう。私が現れたらどうなるかな。腰を抜かして女のように悲鳴をあげるかな。
問題はどう殺すかだ。存分に苦しめて、後悔させて、もう殺してくれと懇願させてから殺す。
あの男には2歳になる女の子が居るらしい。姉さんの子供を殺しておいて。あの男が見ている前でこの子と妻を殺すというのはどうだろう。考えただけで笑える。
殺し方は、そうだな。包丁で料理してやろう。姉さんを犯した汚らしいペニスを切り取り、ケチャップをつけて食わせてやる。心が躍る。
もう待てない。5月の連休に殺しに行こう。
目を疑う。何という事だ。あの美しい美里の顔が脳裏に浮かび、その顔が狂気に歪み高々と笑う。その手には血の滴る包丁を持って。
これ以上は読めない。読んではいけない。読む勇気なんかあるわけない。
204:屋上の幽霊 喪中 ◆bfuvSRTZj6
09/09/23 00:04:17 17TVGoGp0
私は逃げるように日記を閉じる。美咲の日記が死へのカウントダウンなら美里のそれは殺人のカウントダウンなのだ。
顔が蒼冷めているのが自分でもわかる。
美里は殺しただろうか。やりかねない。私の中の殺意でさえ本物だった。実の妹である美里が実行に移す事くらい容易に想像がつく。
3年間も自室で自分を悔やみ、そして2年間も復讐の為に生きてきたのだ。
自分自身で美里であることを捨て、母からも美里である事を捨てられ、美咲として生きていく。常人では考えられない辛さだと思う。
それでも彼女はそれを実行し、美咲として生きてきた。その行動原理が何かと言えば、復讐なのだ。
私如きが理解できる苦しみではない。共有するなどとてもできやしない。
時間は間もなく23時を回る。カチ、カチと時計を刻む音がやけに耳につく。眠りたい。眠れるだろうか。
灯りを消し布団を頭からかぶり、目を瞑る。
カチ、カチ、カチ、カチ。
どれくらい時間が経っただろう。ドアがガラリと開き誰かが入ってきた。智子だ。
「おーい、寝た?」小声で智子が呼びかけるが無視して寝たふりをする。とても話す気分ではない。
ゴソゴソと何か音をたて、暫らくすると寝息が聞こえてくる。それでも、私は足の震えがとまらなかった。
殺しただろうか。殺人を犯して、人は普通の生活を続ける事が出来るだろうか。
そんな事をただ延々と考えている内に、いつの間にか私は見覚えのある景色の中に居た。
私と美咲が満天の星空の下、そこに居た。見分けこそつかないが、美咲だった。
「ごめんなさい。」彼女は言う。
謝りたいのはこちらだ。私には何も出来ない。何もしてあげられない。
これは夢だ。ハッキリとわかる。だから私は思い切って問いかける。
「美咲さん、アナタは幸せですか。」
美咲はゆっくり首を横に振る。やはりそうか。彼女は幸せになんかなれなかった。
「私はどうしたらいいの?アナタはなぜ、私にあんな夢を見せるの?」泣きじゃくりながら私は問う。
「私じゃない。アレはあなたの夢。お願い、助けてあげて。私にはできない。私にはできないから。」
助けてあげて?私の夢?どういう事だ?美咲が私に夢を見せたのではない?
205:本当にあった怖い名無し
09/09/23 00:04:24 65lwMVOy0
支援
206:屋上の幽霊 喪中 ◆bfuvSRTZj6
09/09/23 00:04:59 17TVGoGp0
「私には美里を救えない。これから起こる事をとめられない。お願い、最後まで日記を読んで。」
段々と、美咲の輪郭がぼやけてくる。闇に溶けていくといった感じで。
「どういう事なの?ねえ、お願い答えて」私は必死に、切実に、消えていく美咲に問いかける。
「お願い、美里を救って。助けてあげて・・・すけて・・」
美咲の姿が完全に消えた。遠くからカチ、カチ、カチと時を刻む音が聞こえる。
次の瞬間、目が覚めた。
私は布団の中に居た。頬を触ると涙で濡れている。これは夢なのか?本当に夢だったのか?
智子を起こさないように布団の中でもう一度日記を開く。携帯を開き、その光を頼りに日記をめくる。
私は続きを読まなくてはならない。何が書かれていようと、それを見届けなくてはならない。
何故かそう思った。理由なんかどうでも良かった。
だが無常にも、あの狂気の日付以降は存在しなかった。白紙。白紙。白紙。
どうして。美咲は消える前に日記を読めと確かに言った。続きなんかないじゃないか!
4月15日に戻る。その一字一句を再度読む。そして次のページへ。
やはり、白紙。いや待て。破り取られている?
よくよく見ると、次のページが破られているのがわかった。私はある事を思いつき、実行に移す。
枕元のバッグから筆入れを出し、一番濃い鉛筆を取り出す。そしてそのまま智子を起こさないようにトイレへ向かう為、部屋から出た。
誰もいない個室トイレの中で破られた次のページを鉛筆で擦る。
ビンゴ。美里の筆圧の高さから、もしかしたらと思ったが、辛うじて読み取れた。
8月6日・・・・今日だ。いやもう昨日か。
その下を鉛筆で擦る。
「姉さんの所に行く。」
それだけだった。心臓が止まりそうになる。
落ち着け、思い出せ。今日は何日だ。そう、日付が変わって8月7日だ。美咲の命日はいつだ。そう、8月7日、今朝だ。どうやって死んだ?屋上から飛び降りた!
私は全てを理解するのは無理だったがこれだけはわかった。美里は美咲の後を追おうとしている。阻止しなければ!
トイレから飛び出し屋上へ駆け上がる。間に合え!強く祈りながら階段を駆け上がる。スリッパが脱げたがそんな事は気にもならなかった。
207:屋上の幽霊 喪中 ◆bfuvSRTZj6
09/09/23 00:05:44 17TVGoGp0
屋上へ続くドアの前に辿り着く。天国への扉?ざけんな!
ドン、と大きく音を立て扉を開く。間に合ってくれ!
満天の星空の下、美里がいた。
「まて!」私は大声で叫ぶ。
美里は驚きの表情をしつつ、一歩後ずさる。これは間違いなく夢で見た光景だ。夢の中で私と美里がキスをした後、彼女は虚空を見つめながら後ずさり、次の瞬間飛び降りた。
逃がさない!今度こそ助ける!
私は猛然とダッシュし、一気に距離を詰めるが、美里は慌ててフェンスを乗り越えようとする。
間に合わないか?いや諦めない!
私は美里を捕まえるため、大きく跳躍する。美里はフェンスの上で一瞬だけ躊躇した後、飛び降りた。
時が止まる。心音だけの世界。全てがスローモーションに見えた。届いてくれ!
次の瞬間、私の手が美里の手を掴む。半ば落ちかけている美里の体を、フェンスに足をかけ力いっぱい引く。
ヤバイ。私の体重じゃ支えきれないかも知れない。
一度は安全域まで引っ張れたかに見えた。だが美里は手を振り解こうと暴れ、尚飛び降りようとしているのだ。
美里の片足が宙を舞う。手が滑る。
このままじゃ落ちる。私も美里も落ちてしまう。私の渾身の力を込めても、引っ張りあげる事が出来ない。
・・・ここまでか。
そう思った瞬間、不意に誰かが、私の体に重なった気がした。体が軽くなる。薄っすらと、誰かの手が美里の手を掴んでいる。
これは美咲だ。理屈などは存在しない。美咲が私と重なった。彼女の想いが伝わり同化する。
私と美咲は一気に美里の体を引き上げる。美里ももう抵抗していなかった。
美里をフェンスの内側まで誘導すると彼女もそれに応じてくれた。既に美咲の気配は消えていた。
手を握ったまま、二人で屋上のコンクリートの上で大の字になる。
荒かった息が落ち着くと、何故か笑いが込み上げてきた。
そしてひとしきり笑った後、咳き込んだ。
その様子を見て美里も笑う。良かった。生きている。満天の星空の下、二人で笑った。
「日記、読んでくれたのね。」美里が切り出す。
「うん」
この土壇場でようやく、私にも理解できたような気がする。
208:屋上の幽霊 喪中 ◆bfuvSRTZj6
09/09/23 00:06:25 17TVGoGp0
夢で出会った飛び降りる少女。あれは美咲ではなく、美里だったのだ。
彼女は死を決断していた。そして恐らくそれは運命付けられていた。
彼女達の物語に私という異物が混入されなければ、その運命に従うのみだった筈だ。
私自身の物語としても、同い年の女の子が屋上から飛び降りたなどという新学期の話題で完結する筈だったろう。
何の因果もない私達が、あの日の朝、あの一瞬の邂逅で接点を得て、私の夢という形の無い干渉を与え、その運命を捻じ曲げた。
美咲は夢は私自身の夢だと言ったが、私にそんな予知夢のような力は無いと思っている。
あったとしても、美咲の妹を助けたいと想う強い気持ちが私に夢を見せたんじゃないだろうか。
では、私でなくとも良かったのかといえば、それは否定したい。私でなければ駄目だったと、そう思いたい。
月が煌々と照らす屋上で、美里は語る。
結果的に、彼女はその復讐を全うする事は出来なかったという。
実際にあの男、堂島の住む街まで美里は行った。しかし出来なかった。
彼の家に掲げられた表札には、彼と妻の名の横に小さく美咲と書かれていたらしい。
それが贖罪のつもりなのかはわからない。でもそこで彼女の殺意は崩れていった。
一生涯消える事の無い傷を抱いて生きていく事が死ぬより辛いという事を、美里は知っていたからだろう。
遠巻きにその家族を眺めながら、思い知る。
姉さんは彼の幸せを願っていた。それは歪な形ではあったが、心から願っていたはずだ。
私はどうだろう。何もない。空っぽだ。家に帰っても私は美里ではない。もう美咲ですらない。目的も何もかもが消え去った。
そして始めからあったその結論に至る。死のう、と。
私は、どうしたらいいの?と美里が私に問う。
あなたは美里。それ以上でもそれ以下でもない。何も無いわけない。無いと思うなら、これから一緒に作ればいい。
私は立ち上がり、美里の手を引いて立ち上がらせ、正面から向かい合う。
本当に綺麗な子だ。長くて美しい、眉で切り揃えられた髪。すっと伸びた形の良い鼻。長い睫。愛らしい唇。
月明かりの下で、観客は夏の星座達。何がそうさせたかはわからない。私は彼女を抱き寄せ、軽く唇を重ねる。
何度も、何度も。
209:屋上の幽霊 了 喪中 ◆bfuvSRTZj6
09/09/23 00:07:35 17TVGoGp0
夏休みが終わり、新学期がはじまった。
澤岡美里は休みがちだった1学期を取り戻す為、毎日学校に来ている。
その表情も見違える程明るくなり、男子生徒の噂の的になっていた。
進学クラスで成績優秀、おまけにあれだけの美少女だ。噂にならないほうがおかしい。
しかしその注目のおかげで私にも困った噂が立ちはじめていた。
「りーえっこちゃん!」
帰り支度をしている私に後ろから抱きつく美里。暑い。鬱陶しい。
「ちょ、やめ」
顔が近い。近すぎる。
「一緒にかえろー」甘えた声で美里。
目が完全に恋する乙女なのだ。
おまけに毎日、毎朝、毎夕これである。
「加藤と澤岡はアッチの人」こんな噂が立ち所に広まってしまい、好奇の目で晒される。
正直、大迷惑だった。流れであんな事をしてしまったとはいえ、私はドがつくノーマルと自負しているのだから。
それでも、まあ、これでいいのだろう。そのおかげで中々クラスに溶け込めないでいた私に、からかいながらも気軽に声をかけてくれる人が増えた。私も自身も少し変れた気がする。
遠慮がちに接していた美里と良子との関係もすっかり回復し、小学生の頃のように話すようになったという。智子も私と美里の仲をからかいながらも、私と美里を大事に思ってくれている。
私は溜息をつきながらも、この新しい日常を歓迎しているのだった。
私はあの夜の出来事からある能力に目覚めてしまったらしい。
「この世ならざる存在」がしばしば見えてしまう、大迷惑な能力だ。
この妙な能力のおかげで怖い思いをしたり妙な事件に巻き込まれたり。
一番最悪なのはこの能力をどこで聞きつけたのか、双子の変態兄弟に追い回される羽目になったのだ。
全くこの馬鹿共ときたら・・・・。と、今はやめておこう。
結局、天国への扉はどこに繋がっていたのだろうか。
揺れる電車の中、美里と肩を寄せ合いながらそんな事をぼんやりと考えていた。
210:本当にあった怖い名無し
09/09/23 00:25:03 3Sce4DDs0
喪中、なんだ長ぇ、少女マンガくせぇと思ったが、
最後には引き込まれたな。
作者、乙。
211:本当にあった怖い名無し
09/09/23 00:32:45 Gj8mixewO
喪中氏乙
いや、かなり良かったわ。確かに長かったけど。
後半加速してぐいぐい引き込まれたぜ。
昨日はヤンデレ展開なんて見せなかったのに…
じ、次回作も期待してるんだからね!
212:本当にあった怖い名無し
09/09/23 00:34:03 65lwMVOy0
忌中、乙。
自分は途中は面白いなって読んでたんだが
後日談はいらんような気がしたなぁ。
屋上の場面の様な雰囲気で終わって欲しかった。
213:本当にあった怖い名無し
09/09/23 01:13:26 S5xUHmba0
乙、面白かった。
続きもよろ
214:本当にあった怖い名無し
09/09/23 02:23:40 1f6tydAi0
長い、しかもまったく怖くない。
まるでマンガのようなストーリー展開。
小学校高学年までか。
215:本当にあった怖い名無し
09/09/23 02:41:39 s6ZqdQha0
灯鳴堂書店は1日1レスなの?
216:本当にあった怖い名無し
09/09/23 06:15:10 PBzSBxglO
>>215
そこがまた週刊誌のようで、唆られる。
>>185の続きを待つ。
217:本当にあった怖い名無し
09/09/23 07:16:22 ySiod44eO
赤川次郎 思い出したw
218:本当にあった怖い名無し
09/09/23 08:45:10 gf2nlyV+i
怖くなくてもオカルトな話ならいいんじゃね?
続きを待つざます
219:本当にあった怖い名無し
09/09/23 08:54:09 /OxyrRGtO
>>185はアニヲタ臭強すぎ…
台詞とか恥ずかしすぎだろ
220:本当にあった怖い名無し
09/09/23 09:07:03 GH3oA3ew0
良スレage
221:本当にあった怖い名無し
09/09/23 09:24:42 GH3oA3ew0
ageてなかった・・・
書き手の皆様乙です!
222:本当にあった怖い名無し
09/09/23 11:31:55 g6ry7UQrO
これなら笑えるぶんだけウニや師匠の方がまだマシだな。
223:本当にあった怖い名無し
09/09/23 11:47:38 ayyxRwH10
もなか乙
224:本当にあった怖い名無し
09/09/23 11:56:36 Y3iql4n8O
実話を投下したいと思います。
連休中、不思議な体験をしました。
自分の彼女は霊感があり、姿と声が聞こえるそうです。
その彼女とは遠距離なので連休中、自分のアパートに泊めてました。
20日の夕方、比較的山の中にある体育館へバドミントンをしにいきました。
体育館は誰も使用しておらず、管理人に隅の電気だけつけてもらい、遊ぶことにしました。
すると彼女は、暗いとこをしきりに気にして、耳を塞ぐことをしました。
どうしたのと聞くと、声が聞こえるそうです。
訴えてくるらしく、なんて?って聞くと、まだ生きたい!って叫んでくるらしいです。
きみわるくなりバドミントンをやめて、館内から出る途中、彼女はロビーの椅子と机が沢山ある方を見て、
また怖がる様子を見せました。
自分もそちらを見ると、ちらと机の陰から何か見えてしまったのです。
男の子に見えたので、男の子いる?って聞くとあぁ、確かに遊んでると答えが。
ぞっとしながら車に乗り込みました。
車に乗ってもまだ彼女は声が聞こえるらしく、早く出してって急かしてきました。
連休中は他にもありましたが、今の話よりも怖さが劣るため、聞きたいっていう人がいたら書きます。
225:本当にあった怖い名無し
09/09/23 12:10:26 PBzSBxglO
>>217
赤川次郎のクドい版を見た感じw
>>219
長ったらしい文章より、スッキリしてて見易いわ。
226:本当にあった怖い名無し
09/09/23 13:01:19 Gj8mixewO
聞きたくないので田中さんは巣にお戻り下さい。
227:本当にあった怖い名無し
09/09/23 13:33:08 1f6tydAi0
読むほうもバカだが書き手もこんなんしかいないの?
228:本当にあった怖い名無し
09/09/23 16:02:47 4UMCI2QzO
>>185ツヅキ
お目当てのものが見つかった彼女は棚から一冊の本を引き出した。ポンポンと本から埃を掃ってるあたり、この店の衛生管理は大丈夫なのかと心配してしまう。
パラパラと本をめくりながらこちらに来る。目の前まで来たときに気がついたが、意外と背が低い。173センチの中庸な背をした僕から見ても頭ひとつ分ほど見下ろせる。
頭ひとつ分ほど下から見上げてきた彼女は、はい、と言ってその本を差し出してきた。
「あのー、僕英語読めないんだけど・・・」
「だいじょうぶ!それ優しいから」
「優しい?あぁ、中学生くらいの読解力でもなんとかなるってこと?」
「違う違う、本があなたを導くのよ。その方法が優しいってこと」
やはり電波なことをさらっと言う。どちらにせよ読む気もない本を買うつもりもない。
なにせ一人暮らしを始めたばかりの身。これからは些細な出費にも気をつけなければならない。あ、そうだ。家計簿をつけるノートを買ってこなければ。
「わざわざ探してくれたのはありがたいんだけど、今日は持ち合わせもないし、また来ますね」
「ダメよ。逃がさない」
「いや逃げるとかじゃなくてですね…」
「黙りなさい」
黙った。凄い迫力だ。
「いい?あなたはこの本を読むの。お金なんていらないわ。大体、あなたみたいな貧相な貧乏学生風の人がポンと出せるような金額の本じゃないのよ?」
酷い言われようだが、特に事実誤認というわけでもない。というか事実だ。だが初対面の、しかも店の店員にズケズケと言われる筋合いはない・・・のだが、迫力に押され一方的な展開になってしまっている。なにせ僕は見たまんまの弱気で内気な純情田舎青年なのだ。
「そういうわけだから、今日はこの本を黙って持ち帰りなさい。あとは全て本が導いてくれるから」
「・・・持ち帰るだけでいいんですね?もし僕がそのまま返しに来なかったらどうするんですか?高価な本なんでしょう?僕みたいな貧相な貧乏学生じゃ手が出ないような」
皮肉たっぷりに言ってやった。このくらいの仕返しはしとかないと割に合わない。しかし彼女はフフンと鼻で笑うと
「その心配はないわね」
ツヅク
229:本当にあった怖い名無し
09/09/23 16:19:07 gf2nlyV+i
俺は支援する
230:本当にあった怖い名無し
09/09/23 16:21:19 1f6tydAi0
もうイイのに・・・ウッ (´;ω;`)
231:本当にあった怖い名無し
09/09/23 16:30:56 G27cCLKS0
灯鳴堂書店にハマってる俺がいる・・・
232:本当にあった怖い名無し
09/09/23 22:41:04 KzCR+JOu0
ウニの影響なのか、なんでこのスレは創作ばかりなんだ?
233:本当にあった怖い名無し
09/09/23 23:19:59 g6ry7UQrO
そりゃ自分の部屋しか知らないんだから書きようがないだろ。
234:本当にあった怖い名無し
09/09/24 02:29:43 1MjDo4RlO
私も支援♪
235:本当にあった怖い名無し
09/09/24 08:47:40 9Yn+OcVpO
気の利いた台詞や言い回しを心がけてるつもりなんだろうけど…すっごい違和感w
236:本当にあった怖い名無し
09/09/24 09:07:48 Ah0SHj6s0
なに、慣れれば癖になる
237:本当にあった怖い名無し
09/09/24 09:28:18 +Y0gLFde0
ほとんど嫌がらせだよね。
238:本当にあった怖い名無し
09/09/24 10:22:41 OJ4fanTJO
ヘタに無駄な文章より、全然いい。
239:本当にあった怖い名無し
09/09/25 19:23:05 xjwijwG20
ウニさん待ち
240:本当にあった怖い名無し
09/09/25 19:37:41 dylgsIUc0
何?このスレで創作貶すと何か貰えんの?
241:本当にあった怖い名無し
09/09/25 19:43:34 6S8awk6m0
もらえるよ。
242:本当にあった怖い名無し
09/09/25 21:58:01 qLQVLsUc0
貶して何が悪いの?言論統制するつもり?
243:本当にあった怖い名無し
09/09/25 22:51:59 dylgsIUc0
いや、そんなつもりじゃないよ。
すごい必死だから何かあるのかと思って
244: ◆WfyLow47Q7YG
09/09/25 23:26:56 EH4S5ZiJP
1
相変わらず散漫な文章でごめん。間中の話を投下した者です。
高校2年のちょうどこのぐらいの季節、悟が学校に来なくなった。
あいつの親父は元構成員で、その頃もロクなことやってなかったみたいだったんで、
悟もけっこう道を外したことをやってたんだ。だから、俺は悟の登校拒否ぐらい、
たいしたことじゃないと思ってたんだけど、間中には堪えたみたいだ。
「どうしたら学校に来てくれるかなあ」
とか、
「あたしにできることはないのかなあ」
とか、そんなことばかり毎日愚痴ってた。
悟は女子にはウケが良かったけど、男には反発されるタイプだった。男で仲良かったのって
俺ぐらいじゃないかな。
だからクラスの大半は悟が来ないことを暗に喜んでいた。いつも根暗をからかわれてたBなんかは、
「もう復学はできないんじゃないの?もしかしたら、もうこの世にいなかったりして」
と極論を出して嘲笑してた。
間中はそのBに対してマジ切れしてた。
「あいつがこの世からいなくなればいいのに」
とまで言ってた。俺はむしろ、間中がなぜそこまで悟に肩入れするのかわからなくて、
「そんなに悟と仲良かったっけ?」
と聞き返す始末だったよ。間中は、
「あたし、友だちを作るのが下手なせいか、できた友だちは大事にするの」
って答えた。
245: ◆WfyLow47Q7YG
09/09/25 23:27:50 EH4S5ZiJP
2
そんな折、間中はまた高熱を出したとかで何日か休んだ。俺、悟はどうでもよかったんだけど、
間中は心配だったから家まで見舞いに行ったんだ。
間中のお祖母ちゃんって人が庭先で落ち葉を掃き集めてた。俺が、
「明里さん、どんな具合ですか?」
って聞いたら、玄関を開けて間中の部屋まで案内してくれた。
間中はベッドの上でいかにも辛そうに臥せってたんだけど、俺を見たら、
「来てくれたんだ。ありがと」
って喉枯れした声で礼をした。俺は、あんまり気の利いたことができる人間じゃなかったんで、
間中の枕元にポ○リの缶を置いて、
「早く元気になってくれよ。お前がいないとつまんないから」
なんてことを言って励ました。
間中は、
「悟くん、学校来た?」
って聞いた。俺は首を横に振った。間中は、
「まだなんだ…」
ってがっかりしてた。
246: ◆WfyLow47Q7YG
09/09/25 23:28:17 EH4S5ZiJP
3
おれが見舞いに来たことで少し元気になったっていう間中は、
「何か食べられるかもしれないから用意してくる。この部屋に持ってくるから、ちょっと待ってて」
って台所らしきドアの向こうに入っていった。
俺、姉貴がいるから女の子の部屋は見慣れてるんだけど、間中の部屋は全然そんなんじゃなくて、
むしろ俺の部屋より殺風景なぐらいだった。
「こいつってふだんどんなことしてんだ?」
興味を惹かれてきょろきょろ見回したら、寝込んでたベッドの枕の横に大学ノートとボールペンを
見つけた。これもまた飾りっけのない5冊1パックぐらいの安物だったんで、つい気軽な気持ちで
覗いちまった。
1ページめ。【悟くん、帰ってきて】
めくって2ページめ。【せいくん(俺のこと)、いなくならないで】
さらに数ページめくって見つけた書き込み。【B、死ね】
…間中ってのはさ、背が小さいわけだ。細身で髪が長くって、…なんつか…愛玩用?タイプでさ。
怒ったりきつい台詞吐いたりしても、あんまり怖くない容姿をしてるわけね。
それが、寝込みながらこっそりこういう落書きをしてるんだと思ったら、ちょっと見る目が変わった。
今日初めての食事だとカップ麺をすする間中は、ときどき咳き込みながらも、
「今回の熱、しつっこいよね。ちょっと負け気味かも」
なんて軽口を叩く余裕は出てきたみたいだ。
「お前ってよく熱出すよな。精神的なもの?」
って改めて聞くと、
「うん。嫌なものを遠ざけようとしているときに出るみたいだよ」
と返した。
「嫌なものって…悟が学校に来なくなったこと?」
確認すると、
「それもあるし、悟くんの悪口を誰かが言ってるって思うことも嫌だし」
視線を手元に落として表情を曇らせる。
「悟が嫌われるのは、悟自身にも原因があるんだよ」
と説明してやった。
247: ◆WfyLow47Q7YG
09/09/25 23:28:41 EH4S5ZiJP
4
悟は入学した当初から目立つヤツだった。調子者で誰ともすぐ仲良くなる性格に見えたから、警戒心の
強い俺なんかは内心羨ましかったんだけど、悟が評価されたのはそういう長所だけじゃなかった。
気の弱い同級生から金を無心したり、学内の女子に小遣い稼ぎの売春をやらせようとしてたみたいだ。
だから俺、間中が悟と仲良くなるのは反対なんだよ。
俺とも何度か衝突して(てか、悟と正面きって衝突したのは俺ぐらいかもしれない。他のヤツらとは
なんとなく回避できてたっぽかったから)、でもまあ、根は悪い人間じゃないってわかったから今も
付き合ってるんだけど。
悟の親父は、ほんと、どうしようもないDQNで、学校にも上がってなかった幼児の悟の額に刺青を
入れちまった。だから悟は前髪を切らない。
俺には、
「実は俺、不死人(某漫画参照)なんだ」
とか茶化して赤黒い崩れた刺青を見せたことがあったけど。
親父がそんなんだから、悟はおっかさんが世話してた。スナックで働いてたんだったかな。
「俺、ヤ○ザは親近感あるけど、酔っ払いだけは嫌いなんだよねー」
って悟が言ったのは、親父は許せてもおっかさんに苦労をかける性質の悪い酔客は許せないってこと
だったんだと思う。
間中は俺の話を聞いて、
「…やっぱり、悟くんとまた会いたい」
って言った。
悟の登校拒否が長引いてることもあって、このまま退学かなあなんて思い始めてた俺も、
「ん…。じゃあ、今から様子見に行ってやるよ」
って関わることを決めた。
間中がホッとしたような顔をする。
間中の家を出るとき、またお祖母さんが見送ってくれた。もう足元が見えないぐらい暗くなってたのに、
まだ庭掃除をしてるみたいだ。
248: ◆WfyLow47Q7YG
09/09/25 23:29:06 EH4S5ZiJP
5
そのまま悟の家に向かった。……内心、
(悟の親父と会ったら嫌だなあ)
とか
(悟と喧嘩することになるのも勘弁だなあ)
とか思いながら。
悟はボロい長屋作りの団地に住んでいて、両隣も、挨拶しても返してこないような不出来な大人たちだったから、
悟1人を更正させようとしても無理な環境だったんだ。
俺、そのことを知ってから、何度か悟を俺の家に下宿させようと考えた。でも、俺の家庭もあんまり出来は
よくなかったから、けっきょく踏み切れないままだ。
いい機会、かな。悟をこの長屋から引っ張り出すの。高校を卒業するまで俺の家で預かって、そこから
俺と悟で自立すれば充分暮らしていけるだろうし。
玄関に立って大声で呼ぶと(チャイムなんて物はない)おっかさんが出てきた。化粧もしてない。仕事、
休みみたいだ。
「悟?」
って聞くんで、
「うん。学校サボってるから迎えにきた」
って言ったら、
「せいちゃん、あの子といつまで友だちでいてくれる?」
って逆に聞き返された。悟に何かあったんだ。息苦しくなった。
「悟、家にいるの?」
おっかさんの質問には答えなかった。俺、そこまで悟に付き合う自信は…ない…。
「いるわ。呼ぶわね」
おっかさんは、薄暗い電灯しかない室内の先に向かって、
「悟、せいちゃんよ」
と呼びかけた。
249: ◆WfyLow47Q7YG
09/09/25 23:29:29 EH4S5ZiJP
6
悟はアホな格好をして笑いながら現れた。パジャマで、氷嚢を頭に乗せたまま、口には体温計を挟んでる。
「本物の病人だってば」
と言い訳する表情は、とてもそう見えないほど明るい。
「つまんねえ演技するな。間中は本気で心配してるんだから」
って思わずマジな声で注意すると、悟は、
「間中?なんで?」
と聞き返してくる。
…なんとなく合点が行った。悟自身に思い当たる節がないんなら、間中のあれほどの心配は間中自身の感情なんだ。
つまり、間中の片想いってヤツ…。
「…学校に来て安心させてやれよ」
って、詳細は話さずに促した。悟は、
「え~?そういう方向から説得するって卑怯くない?」
とかぼやいてた。
そして、なんでかパジャマの上着をずりおろすと、俺のほうに背中を向けた。
一面に幽霊が彫ってあった。
俺、言葉が出なかった。悟は、
「墨入れると熱出るんだなー。初めて知ったわ。しかも杯交わしちゃったし(ヤ○ザの組に入る儀式ってことね)」
って、ちょっと泣きそうになりながら言った。玄関から出た庭先では、おっかさんがうずくまって泣いてた。
「…なんで?」
とだけ聞いた。
「だって、俺が逃げると母ちゃんが殴られるもん」
と悟は答えた。
250: ◆WfyLow47Q7YG
09/09/25 23:31:05 EH4S5ZiJP
7
自宅に帰って俺の親父にその話をすると、ふだんは飲んだくれてるだけのクソ親父が、
「そんな理不尽な話があるか?」
と激昂して、即座に悟の親父と話をつけてくれた。
悟をヤ○ザから足抜けさせること、悟とおっかさんに危害が加わらないように別宅を用意することを
約束させたんだ。ヤ○ザって1回入会するとなかなか抜けさせてもらえないから、しばらく逃げないと
いけないんだってさ。
俺が、
「悟の親父、約束なんか守るかなあ…」
と不安がったので、親父は伝を頼って県外にアパートを確保するまでしてくれた。俺からばれちゃいけないっていうんで、
場所は内緒にされたけど。
手続きが終わったころ、間中が学校に来た。
悟の机がなくなってるのを見てショックを受けてたから謝った。
「悟、復学できなくなったんだ。ごめん」
それから経緯を説明した。間中はひどく落ち込んだけど、
「いつか会える希望があるなら、いい」
って割り切った。
「それまでカノジョ作らないようにって言っといてやろうか?」
って茶化したら、
「何それ?ばっかじゃないの。あたしの好きな人は全然別人だよ」
と呆れられた。
あんなに悟を心配したのは、頭の中に悟の死を示唆するイメージばっかりが浮かんできたから、らしい。
「お前がそういうこと言うと…怖いね」
外れたからよかったものの、もし間中に未来予知の力があるとしたら、と思ったら寒くなった。
「あたしは実現すると思ってた」
間中は、例の枕元に置いてあったノートを鞄から取り出して、俺によこした。
「だから悟くんの運命をBにかぶってもらおうと思ったの。Bなら死んでも惜しくないから」
ノートの【B、死ね】の書き込みは後半ページ全部に及んでた。
でもBは変わらず机にかじりついてエロい絵なんかを落書きしてるだけだったけど。
251: ◆WfyLow47Q7YG
09/09/25 23:31:28 EH4S5ZiJP
8
「間中…お前、あんまり際どいこと言わないほうが…いいよ」
帰り道、話したいこともたくさんあったから、間中の家まで付き合うことにした俺は、そう
進言した。こいつが本音を吐くことは、こいつにとってマイナスにしかならないと思えたから。
「際どいことって何?」
と本気でわからない様子の間中。あ、そっか。こいつって自閉症だったっけか。
「だからさ…。B死ね、とか、ああいう言葉を他人に見せないほうがいいよ」
説明すると、少し考え込んで。
「言うのはいけないこと?」
と聞いてくる。
「少なくとも俺はいい気分はしない」
って答えると、
「せいくんが嫌なら、それがあたしの基準になるよ」
間中は、回りくどい言い方だったけど俺の言うことを聞いた。
「もうせいくんしか友だちいないしね」
とも言う。
で、なぜか俺、こんなこと口走ってた。
「間中の好きな人って…誰?」
俺じゃないよな…。俺、友だちだし…。
「言わない」
間中が笑う。
「そこは言っていいとこ」
って促したけど、
「でも言わない」
って頑固に拒否された。
252: ◆WfyLow47Q7YG
09/09/25 23:31:50 EH4S5ZiJP
9
家まで送り届けると、間中は庭に向かって、
「お祖母ちゃん、ただいまっ」
って挨拶した。お祖母さん、どっかにいるのかな?返事はない。
「この前はお世話になりました。…って一応言っとこう」
俺も姿の見えないお祖母さんに向かって会釈する。
間中が目を丸くした。
「会ったの?」
「会ったよ」
って返事をしたら、
「すごいね。見えるのあたしだけだったんだよ」
と、玄関の右側にある仏間らしき部屋の窓を指差した。よく目を凝らすと、奥に安置された仏壇の上に
あのお祖母さんの遺影が飾ってあった。
一気に鳥肌が立った。
「あたしが守護霊を見るときもそんな感じ。あれ、この人幽霊なのかな?ってわからないぐらい
はっきりしてるの」
間中はちょっと嬉しそうだ。
でも俺は、できれば2度と、会いたくない。
253:本当にあった怖い名無し
09/09/26 00:03:48 ZIsAhklW0
>>244
間中乙
なかなか面白かった
254:本当にあった怖い名無し
09/09/26 00:53:17 Y+mgWZ4PO
マジ小学生文庫みたいになってきたな。
255:本当にあった怖い名無し
09/09/26 01:52:41 FCKkB0/P0
もう見るのやめたら?
誰も頼んでないしストレス貯めるくらいなら来ないほうがいいよw
256:本当にあった怖い名無し
09/09/26 05:47:30 ntx2Y8uk0
>>255
メ欄に記入なし、携帯、単発、1行、批判レス
これだけ要素揃ってるんだから専ブラならとっととNG。
257:本当にあった怖い名無し
09/09/26 09:15:02 +kh4v1D/0
>>255がエラソーに言うことでもない希ガス
258:本当にあった怖い名無し
09/09/26 09:39:17 tZsGcGFwO
批判に脊反する暇あんなら、まずは感想でも書けよ
259:本当にあった怖い名無し
09/09/26 18:42:15 +kh4v1D/0
書いて下さい、な。
260:本当にあった怖い名無し
09/09/26 21:05:43 Z4dHYmK1O
喪中さんって雲丹さんと違うの?
261:本当にあった怖い名無し
09/09/26 23:22:28 Jqh58aitO
>>252
事実だけ淡々と書いてるところは読みやすい。
でも稚拙な印象も受けるね。
台詞は魅力があると思うよ。
総合的に乙でした。
262:本当にあった怖い名無し
09/09/26 23:27:25 ZgEUIKND0
実話系シリーズ物が皆無な件
まじでラノベ発表の場と化してるな
263:本当にあった怖い名無し
09/09/26 23:42:38 Y+mgWZ4PO
文壇批評スレ
264:本当にあった怖い名無し
09/09/27 00:16:18 11OpyAxS0
実話が欲しけりゃそれ系の所に行けば吐いて捨てる程あるだろうに。
だいたいオカ板で実話って(ry
265:本当にあった怖い名無し
09/09/27 00:49:01 n66hkbJgO
?
266:車道の女1/3 ◆BxZntdZHxQ
09/09/27 00:56:40 95iGUUHW0
相変わらずささやかな実話で、物語がどこかへ大きく流れて行くようなことはない。
ひとつだけ、その流れを待っている事象があるが、それは松岡の家庭のことだから、
ただヤツからその話が出るのを待つのみである。
待っている間に、聞いた話をしたい。
最近、松岡の休日は月曜日だ。
職業オタク関係、趣味は読書と歴史とゲームに特撮、服装はパンク。
何となく想像がつくと思う。
春の初めに同人誌即売会の会場で顔を合わせた時、
俺は挨拶代わりに「最近は何か変わったことない?」と訊ねた。
それは勿論、数年前に聞いた「流れを待っている話」のことで、
それについてのちょっとした報告はあった。決着はついていない。
「そういえばね」
そのこととは全く関係ないが、先月こんなことがあったよ、とヤツは話し始めた。
給料日後の休み、いつも通り家電量販店やら書店やら、
パンクやゴス服の殿堂みたいなデパートやらを回ってほくほくとしていた午後。
大通りにあふれる人を避け、松岡は一本外れた道へ入った。
メインストリートをほんの少し離れれば、
スーツや制服姿の人がちらほらいるだけで、人を避けて歩く必要がない。
停まっているトレーラーの脇をすり抜け、ごみごみとした細い通りを直進。
ふと見ると、その車道の向こう側の車線に、女性が立っていた。
267:車道の女2/3 ◆BxZntdZHxQ
09/09/27 00:58:33 95iGUUHW0
危ないなぁと思った。
車は走っていないが、歩行者天国ではない。
濃いピンクのキャミソールに細いデニム、グレーがかった赤茶の髪の若い女だ。
何故だかそこにだけ、真夏の日差しがある様に明るく見えた。
車道の真ん中に立ち止まって携帯をいじっている。顔は見えない。
他の通行人は、そんな彼女を気にも留めていないようだ。
見るとはなしに視界の隅に入れていると、そのうちに違和感がわき上がって来た。
何だろうともう一度そちらを見て、その正体が分かる。
顔が見えない。
道路の真ん中で歩道の方を向いて立っている女。
うつむいて携帯の画面を見ているとはいえ、近付くにつれて、
髪に隠れた横顔からだんだん正面向きの顔が見えて来るはずなのだ。
それなのに、まるで松岡の視線から逃れる様に女は顔を背けて行く。
いや。
動いてはいない。頭も、体も。でも顔は見えない。
女と背景の流れが一致していない。
なんだこれは。
268:車道の女3/3 ◆BxZntdZHxQ
09/09/27 00:59:33 95iGUUHW0
横目に女を縫い止めたまま歩みを進めると、
女を挟んで反対側の歩道を歩いて来る男が視界に入って来た。
松岡と変わらない年頃の、茶色いコートを着た会社員風の男だ。
彼もまた、同じように車道の女を見ている。
互いに女との距離が縮んで、男は松岡の視線に気付いたらしく、目で何かを訴えて来た。
松岡は小さく頷いた。男も困惑の色を浮かべた瞳で頷く。
多分彼にも同じように見えているのだと思った。
反対側を、進行方向からやって来るのに。
通り過ぎて少ししてからそっと振り向くと、やっぱり女は真横を向いていた。
「怖いって言うより、何か凄く困る、って言うのが近い。あっちの人もそんな感じだった。」
松岡はそう言って苦笑した。
実は、そんな感じのするものは結構ある。
怖がらせようとか、何かを訴えようとか、そんな気持ちがないのかもしれない。
ただそこに残像があるだけなのかもしれない。
何故か見えてしまう不思議なものを見た時、怖いとは思わない。
どうにも困ってしまうのだ。
考えてみれば、2月の終わりに真夏の服装の女はそれだけで違和感がある。
気付く人が居ないだけで、9月の今も、彼女は新宿の雑踏の中に立っているのだろうか。
269:幽霊ではない1/2 ◆BxZntdZHxQ
09/09/27 01:01:49 95iGUUHW0
恥ずかしながら、俺は今でも実家住まいだ。
忙しい時はひと月丸々家に戻らないなどざらで、
逆に暇な時は何週間も家にいて、夜昼なく自分の作品を描いていたりする。
家が都心への通勤圏なのもあり、どうしてもこの方が便がいい。
その代わり女っ気はあまりない訳だが、それについては放っておいてくれ。
そんな俺だから、ひとつ、全く経験のないことがある。
家探しだ。
仲間内で話していると、よく話題にあがる事柄である。
これは、松岡から聞いた話だ。
「京都のツレが、前にそんな家に住んでたよ。」
一緒にテレビを見ながら、ヤツはそう言った。
その時画面には心霊現象を頭ごなしに否定する学者が映っていた。
こういう人はとりあえず、妻子と一緒に曰く付きの物件に三ヶ月くらい住んでみて
ほしいものだと俺が言うと、松岡は楽しそうに口角を上げて見せたのだ。
それは何、本人が否定派?家族は一緒なの?家族が一緒なことが大事なんだよ、
否定してる本人より家族が見たり感じた時にどう説得するのかそこまで込みで、
…喜々として腰を浮かせる俺に、「いやいや、ひとり」と手を振る。
「ナオさんと同じようなこと言って、わざわざそんな所に引っ越したんだよ。
違うのはナオさんがアレを受け入れていて、そいつは受け入れていないこと。」
うけいれる、俺は口の中で松岡の言葉を繰り返した。
信じているのとは違う。何か、そんなこともあるよな~と思う受動的な感覚。
俺のそんなうすぼんやりした状態を指しているのだと思う。
「その結果、一週間もしないうちにそいつは色んなものを見た。」
松岡はにやにやしながら続けた。
怪音から金縛り、人の気配に始まって、最終的には廊下を歩く人影まで。
零感で心霊現象否定派の筈が、数日のうちにベタな現象に次々遭遇したらしい。
270:幽霊ではない2/2 ◆BxZntdZHxQ
09/09/27 01:06:05 95iGUUHW0
「で、結局ひと月くらいで慣れた。」
「……慣れた!?」
何か声が裏返った。松岡はけらけらと笑ってまた手を振る。
「幽霊なんて非科学的だ、測定も出来なければ、
万人が知覚出来ないものはないのと同じだって言ってたんだけどね。
そいつは見て聴いて触れて、自分で確認しちゃったんだ。
それで、こう言った。」
『霊感なんかないし信じてもいない俺が見えるんだ、これは実在するものだ。
幽霊なんて便宜上のレッテルを貼ってとりあえず未整理フォルダに突っ込んだだけで、
もっと感度のいい測定機材とかが出てくれば絶対証明される何かの現象だ、
だから幽霊はいない。』
「らしいよ。」
俺は開いた口が塞がらなかった。
彼は結局契約満了までの2年間、
その家で『幽霊じゃない何かの現象』と同居したそうだ。
やっぱり、受け入れていない人は彼のやったことを試してみてほしい。
俺は絶対にイヤだ。
271:女がいる1/7 ◆BxZntdZHxQ
09/09/27 01:11:06 95iGUUHW0
恥ずかしながら、俺は今でも実家住まいだ。
休みが続けば毎日のように爆発的に売れる訳でもない漫画を描いて、
逆に忙しい時は着替えが尽きて洗濯に帰る以外長い間家に戻らなかったりする。
家が都心への通勤圏なのもあり、どうしてもこの方が便がいい。
当然のように彼女もいない訳だが、それが実家住まいのせいかは微妙なところだ。
そんな俺だから、ひとつ、全く経験のないことがある。
家探しだ。
仲間内で話していると、よく話題にあがる事柄である。
これも、松岡の話だ。
松岡の家に入り浸っていたことがあって、まあ別に怪しい関係でも何でもなくて、
することと言えば一緒にテレビを見たりゲームをしたり、
ベッドの下にぎゅうぎゅうに詰まった悪趣味な蔵書を勝手に読んだりしていた。
合鍵を渡されていたので、上がり込んで待ち構えていたりなんてことも可能だった。
俺が転がり込む前は年下の女の子と一緒に住んでいたとか言う話だったが、
彼女が郷里へ帰ってしまい、思えばヤツも人恋しかったのかもしれない。
ある時電話をしたら、松岡は今夜その娘が上京して来ると言う。
まだ部屋に少し残っている荷物を引き取りに来るそうだ。
じゃあ彼女が帰ったら行くから、仕事帰りに浅草で飯でも食おうかと約束した。
272:女がいる2/7 ◆BxZntdZHxQ
09/09/27 01:16:06 95iGUUHW0
仕事が大体の時間通りに捌けて、俺は待ち合わせの場所へ向かった。
ちょうどサンバカーニバルの日で、赤や黄色のド派手なコスチュームの
お姉さんたちが出番を終えて帰って行くところだった。
六区に近いゲーセンで時間を潰していたが、一向に松岡からの連絡がない。
俺は何だか不安な気持ちになって、ヤツの携帯を呼び出してみた。
どうやら電源が切れているようだ。
家にも電話してみる。留守電になっていない。誰も出ない。
胸騒ぎがした。
俺は電車に乗り込んで、慣れた経路でヤツの最寄り駅に向かった。
下車、自転車置き場の脇を抜けて、初めてヤツの家に行った時、
ここで奇妙な現象に出会った道、でも今はそんなことはどうでもいい。
夏の日は長く、そろそろ夕方になろうと言うのに陽射しが強い。
アパートに辿り着き、インタフォンのチャイムを鳴らす。
誰も出ないし、物音もしない。合鍵を差し込み、かちゃりと回す。
「松岡…?いるのか?」
病気で寝込んでいるのではないか、と思ったのだ。
そっと扉を開くと、カーテン越しの光でほの明るい部屋の中、
毛布が人の形に盛り上がっている。
何だ、やっぱりそうだったんだと、「入るよ」と声をかけて靴を脱ぐ。
だが、人の気配はない。
近くまで行って覗き込むと、
なんと毛布はクリームの入っていないコロネよろしく空っぽだった。
いない。
もう一度携帯を鳴らす。電源が切れているか、電波の届かない場所に。
俺は今度は違う焦燥に駆られてカーテンを開けた。
部屋が暗いのは不安定だ。隣の和室の薄暗さが気になる。
273:女がいる3/7 ◆BxZntdZHxQ
09/09/27 01:21:16 95iGUUHW0
俺はベッドの下を覗いた。本の山だ。如何わしい文庫本だらけだ。
押し入れを開けた。クローゼットを開ける。
トイレのドアを開け、風呂場に入る。湯船の蓋が閉まっている。厭だ。
訳の分からない感覚に襲われて、俺は蓋を開いた。
死体はなかった。
湯船は空っぽで、乾燥していた。
多分昨日から使われていないのだろう。
俺は何を探していたんだ。
何故かそこに松岡がいるような気がしてしまったのだ。
昨日前の同居人が来て、何かあったのではないかと思ったのかもしれない。
明確にそんなことを考えた訳ではないが、多分そうだ。
俺がへなへなと脱衣場に這い出すと、
玄関に放ったらかした鞄の中で携帯が鳴った。
松岡からだった。
彼女が昨日の昼間現れて早々に帰ってしまったので、
見送りに行った足で出稽古に行っていたのだと言う。
久しぶりに体を動かして夢中になってしまいこの時間になったと言うヤツに、
俺はほんのちょっぴり安堵した。そして、
「刺されて風呂に突っ込まれてんじゃないかと思ったよ!
なんであれ蓋してあったの?お湯入ってなかったぞ?」と冗談めかして言った。
その娘と喧嘩別れしたなんて話はなかったのに、
俺は何であんなことを思ったのだろう?
玄関に鍵が置いてあったので自転車を拝借して、俺は買い物に出ることにした。
274:女がいる4/7 ◆BxZntdZHxQ
09/09/27 01:27:49 95iGUUHW0
駅前にはコンビニがあり、いつもはそこで買い物をしていたが、
台所を調べたら米しかなかったので、スーパーを探しに行こうと思った。
いつも来る途中の電車の窓から鳩のマークの看板が見えていたので、
線路沿いに少し戻って、そこから3時方向へ1キロくらいではないだろうか。
背の低い松岡が乗るにしては妙にサドルの高い自転車で、住宅街の中へ走り出した。
線路に平行する道がなく、うねうねと路地を縫いながらようやく線路が見えて来た。
高架の下を潜った広い道路に突き当たり、スーパーへはここで道を折れるようだ。
看板はこの道沿いではなく、少し元来た方へ食い込む感じだ。
どうも目測を誤ったらしく、ここからだと1キロでは利かなそうだ。
もう少し手前から曲がれる道があったような気がする。
しかし戻ってもあてもないので、解りやすい道から攻めればいいか、と思い直した。
まっすぐ進んで、看板を目印にまた住宅街の路地へと入り込む。
フェンスに囲まれた駐車場が見えて来たので、俺は自転車を一旦止めた。
向こう側に白茶色の壁が見える。どうやらあれがスーパーだ。裏側かもしれない。
駐車場の右手は竹やぶで、その手前には白い壁のアパートがあった。
塗り直したのか壁は綺麗で、瀟洒な建物だ。
ワンルームらしく、同じ形の窓が整然と並んでいる。
だが、8つの窓には半分程しかカーテンがついておらず、空き部屋が多いようだ。
竹やぶの脇の道を抜けながら見上げると、2階の角部屋の小窓に影が揺れた。
覗いていると思われたらちょっとマズい。
結局スーパーの正面までぐるりと回り込み、帰りはそちら側から道を開拓して帰った。
俺が使ったのとは違う路線の駅の前も通った。
どう考えても、正面側からの道の方が近かった。自分の距離感覚に呆れる。
275:女がいる5/7 ◆BxZntdZHxQ
09/09/27 01:33:12 95iGUUHW0
米を炊きシチューを作り、サラダに載せるトマトを切っている所で松岡が帰宅した。
台所の様子を見て開口一番、
「お風呂にする?ご飯にする?それともナ・オ・ヤ・君?」
などとべったべたの寝言を言うので小突いてやった。風呂なんか用意していない。
そう、風呂だ。
「だから…蓋開けて中見たんだって!お前の死体があるかとビクビクもんだよ!
空にしたら蓋も開けろよ!気持ちわりぃ!
てかまず出稽古行く前に連絡寄越せよ、心配するじゃんか。」
蓋なんかしたかなぁととぼけてへらへらと奥へ入って行く黄色い頭を見送ると、
俺はやっとホッとした心持ちになって飯の支度に集中した。
食事をしながらコロネ毛布の話をして、押し入れやらなんやらを開けた話をして、
俺は松岡の不在の間に部屋で起こったこと(何も起こっていないのだが)を語った。
帰りに松茸買って来たよ、明日の昼は松茸ご飯炊いてあげるからぁ、と宥められ、
意地汚くそこは引き下がることにした。
大体、俺の不安なんて全く根拠がない不安だったのだ。
夜半過ぎ、松岡が支度した風呂に入れられ上がってみると、
ヤツは何やら意味ありげな顔をして笑っている。
俺は察しが悪いので、こいつのこういう表情の真意を9割読み取れない。
「ナオさんは霊感じゃなくて、凄く感性が鋭いって思う時がある。
漫画描いてるせいかな?人と違うものをキャッチしてるよね?
自分では鈍いと思ってるみたいだけど、
時々考えてることを読まれてるみたいに 感じることがあるよ。」
よく解らないことを言う。
「電話で話した時びっくりしたんだよ。
理由はないんだけど何でか思い出したことがあって、ちょうどその後だったからさ。
元相方ね、最初から一緒に住んでた訳じゃないのは話した?」
276:本当にあった怖い名無し
09/09/27 01:33:23 mpGDY2II0
紫煙
277:女がいる6/7 ◆BxZntdZHxQ
09/09/27 01:38:03 95iGUUHW0
このアパートは上京して最初に借りた部屋だとは聞いていた。
「たまたま二部屋だからアイツが住み着いたんだけどね、
最初はいろんな部屋見てたから、一部屋だったりしたら来なかったのかな。」
どうやら現在のオタクの会社ではない、当時の職場から便のいい沿線で、
かなりの数の物件を見たらしい。
「大体は可もなく不可もなくって感じでね、決め手に欠ける訳。
ここはまあ駅からは少し離れてるけど、前にも言ったみたいに、
新しくて変なモノがなかったのが決定打だったかな。」
「へんなもの」
俺が呟くと、そうそれ、と唇を尖らせる。
「実際の部屋に行くとね、何だかアレな物件もあるんだよね。」
今でこそ訳ありの物件は予めその旨伝えなければならないようだが、
松岡が上京して来た頃なら随分昔だ。伏せておくのが常道だったかもしれないし、
第一分かり易い曰くがあるから怪奇現象が起こるとも限らない。
「地図と間取り図で割といいかなと思ったトコがあって、不動産屋と見に行ったのね。
担当、30になるかならないかの若いオニイちゃん。」
内装も新築のように綺麗だし、ワンルームだけど結構広いし、駅やスーパーも近い。
ここに決まりかな、と思って後は風呂場をチェックしようとドアを開けた。
女がいる。
松岡はドアを開いたまま唖然とした。
バスタブの中に、膝を抱えて体育座りの格好の女がいるのだ。
顔は膝に伏せられ、見ることは出来ない。
ただセミロングの黒髪で、小花柄の室内着を着た細身の女だと判るだけ。
勿論、生身の人間である訳がない。
不動産屋が管理している空き部屋に不法侵入して、
いつ来るか知れない見学客を待ち構える馬鹿はいない。
278:女がいる7/7 ◆BxZntdZHxQ
09/09/27 01:43:52 95iGUUHW0
そして担当者の若い男も女のことなど一言も触れず、
松岡の頭の上から風呂は全部改装されていて風呂釜は未使用だとか話している。
松岡は扉を閉じ、「もう少し検討してみます。」と言った。
部屋を出、店に戻る車の中で担当者はこう切り出したそうだ。
「やっぱり居ますか?」
松岡は「風呂ですか?女の人ですね、若い。」と答えた。
「…やっぱり同じこと言うんですね。お客さんと同じで、
結構乗り気だった方が皆さんそうおっしゃって。」
事件事故は勿論、病死した人もいない部屋なのに。
アパートが出来た時からずっと空き部屋で、なのに、風呂場には女がいる。
どうしてそこにいるのか、どこの誰なのか、全く判らない女。
お祓いをして、改装もしたのだけれど。
何故か、そんな部屋なのだ。
「ナオさん、風呂入る前に聞いたら今夜風呂入れなかったよね。」
松岡はニヤニヤしながら立ち上がった。
「多分そのこと思い出してる時、ナオさんは死体探しをしてたんだよね。
凄いね、以心伝心?違うか。」
風呂入って来まーす、と言って、松岡は俺の反応を確かめもせずに行ってしまった。
俺は松岡に言っていないことがある。
そして、それを確かめていない。確かめるのが怖かった、今でも怖い。
そのアパートはどこにある?
思い過ごしならそれでいい。
279: ◆BxZntdZHxQ
09/09/27 01:49:08 95iGUUHW0
以上です。
お付き合いありがとうございましたm(_ _)m
280:本当にあった怖い名無し
09/09/27 07:34:35 8ybtJ9VZO
お、枯野氏来てたんだ!
朝からゾクッとしたよ…乙でしたノシ
281:本当にあった怖い名無し
09/09/27 10:35:31 RWRtn9uo0
一行だけの褒め言葉と「乙」
これだけしか脳がない住人w
282:本当にあった怖い名無し
09/09/27 11:12:59 P93OSOgPO
枯野いつ以来だろう?乙です。
いるワケない人が場違いな場所にいる怪異って気持ち悪いね。
都内や近郊の話は場所が気になるw
283:本当にあった怖い名無し
09/09/27 15:21:44 Q6hsxHrrO
枯野、乙!
ラノベ風(笑)の作品に食傷気味だったので新鮮に感じたw
てか新宿の話めっちゃ怖えぇ!!
284:本当にあった怖い名無し
09/09/28 00:16:11 tbOXvymBO
笑える?
285:赤緑 ◆kJAS6iN932
09/09/28 09:46:41 sHmyVe3o0
[正しい除霊]
1/13
佳澄の件から数日経ったある日、私の家にいつもの3人―古乃羽、雨月君、北上が訪ねてくる。
そこで雨月君が、事の顛末を話してくれた。
私も古乃羽も佳澄には危険な目に合わされた訳だが、話を聞くと、少し複雑な気分になる。
私「それで、その人形を牧村さんの家に持っていったのね」
雨月「あぁ。お婆さんも人形を見て、ごめんねごめんね、って…ちょっと気の毒だったよ」
古乃羽「…でも、きっとそれで良かったんだと思うよ」
涙を拭きながら言う古乃羽。彼女はこの手の話に、めっぽう弱い。
北上「あぁ、あの婆さんがなぁ…。でも可哀想になぁ…夏美さん。あの世で幸せになって欲しいなぁ…」
北上も涙もろいようだ。何でも、牧村のお婆さんと面識があるらしく、以前、古乃羽達を助けるのに、力になってくれたという。
古乃羽「そうだね、きっと幸せに…佳澄と仲良くやっているといいね…」
北上「うんうん…」
慰めあう二人。何だか珍しい組み合わせだ。
286:赤緑 ◆kJAS6iN932
09/09/28 09:53:15 sHmyVe3o0
2/13
ひとしきり話も終わり、しんみりとした空気が流れていたが、
私が何となくチラシ(「チラシお断り」と書いておいても、郵便受けにいつも貯まるチラシ!)の整理をしていると、古乃羽が何かを見つけて、こう言った。
古乃羽「あ、これ…どう思う?私の家にも、よく来るの」
私「ん?」
見ると、それは「往来会」とかいう団体からのものだった。
北上「どれ?…あぁ、うちにもくるよ。”霊に関する事なら何でもご相談ください”って奴ね」
古乃羽「何だか怪しいよね…コレ。何かの宗教なのかなぁ」
私「こういうのが、そんなに流行るとも思えないけどねぇ。何か詐欺っぽいし」
北上「除霊しますとか言って、とんでもない金額請求してきそうだな」
私「そうそう。あなたは悪い霊に取り憑かれています、とか言ってね」
ちょっと怪しむ私たち。しかしそこで、雨月君が意外な事を言う。
雨月「…そうでもないらしいよ」
北上「え?」
古乃羽「知っているの?これ」
雨月「あぁ、ちょっとね。姉貴から聞いた話だけど」
私「へぇ、舞さんがねぇ…」
古乃羽「どんなこと?」
古乃羽の目が輝く。この子はまったく、舞さん絡みの話となると…。
雨月「そこに何か依頼したとかじゃなくて、その会から派遣されました、って人に偶然会ったらしいんだ」
そう言って、雨月君は話を始めた。
287:赤緑 ◆kJAS6iN932
09/09/28 09:58:40 sHmyVe3o0
3/13
雨月「ある日、姉貴は除霊活動の一環で、とある家を訪ねたんだって」
北上「ほぉ…」
私「いきなり除霊活動で、って聞くと、なんだか舞さんの方が怪しく思われそうね…」
雨月「俺もそう思う…けど、結構受け入れてくれるらしいよ。本当に霊が居て、それで困っている所を訪ねる訳だしね」
古乃羽「舞さんの人柄なら、平気だと思う」
古乃羽様、心酔しすぎです。…実際には、そうかも知れないけど。
雨月「訪ねた先は、ある小学生の男の子の家で、父親が単身赴任中で、母親と2人暮らし。あとペットに犬が一匹居る、っていうとこでね」
まぁ、普通の家庭だ。
雨月「そこを訪ねたとき、丁度その往来会から来た、っていう男の人が居たらしいんだ」
北上「へぇ。かぶった訳か」
雨月「そそ。姉貴の方は、アポとか取らないからさ。会の人は、ちゃんと依頼されて来ていたらしいよ」
私「それで?」
雨月「どうしようか迷ったけど、向こうの人が見ていきなさい、って言うから、姉貴は除霊を見させて貰うことにしたんだってさ」
古乃羽「ふーん…自信あるのね」
上からの物言いが、古乃羽には少しカチンときたみたいだ。
288:赤緑 ◆kJAS6iN932
09/09/28 10:04:19 sHmyVe3o0
4/13
私「その男の人って、どんな人だったのかな」
雨月「えーっと…30過ぎくらいの、スーツを着た人。眼鏡を掛けた真面目そうな人だった、って言っていたよ」
北上「スーツ姿で除霊とは…新しいな」
古乃羽「ね、意外」
雨月「で、そこの母親の話では、数日前から息子の様子がおかしい、ってことでね。何かこう、変なものが見えるって言い出したり、突然奇声を上げたり…」
北上「…頭の病気とは考えなかったのかな」
雨月「それが、母親がちょっとオカルト好きな人らしくて…病気じゃなくて、これは悪い霊のせいだ、て考えたらしいよ」
私「うわ…」
本当に病気だったら、どうするのだろう?子供としては、たまったものじゃない。
これはこれで、怖い話に思える。
雨月「とにかくそれで、家に来ていたチラシを見て、相談したってことらしい。取り敢えず一回…ってね」
北上「ふむ…」
雨月「で、いざ母親に連れられて、その男と姉貴の3人で息子の部屋に行ったんだ」
古乃羽「うん」
雨月「部屋に入ると、その子は1人でゲームして遊んでいたらしい。でも、一目で分かったってさ。あぁ、これは何か憑いているな、って」
北上「お姉さんが気になって訪ねたなら、そうなんだろうな」
雨月「そこで男も気付いたらしい。これは危険ですね、と。それで、早速始めますから少し下がっていてくださいと言われて、母親と姉貴は部屋の入口まで下がったんだ」
289:赤緑 ◆kJAS6iN932
09/09/28 10:10:14 sHmyVe3o0
5/13
古乃羽「その人も、普通に分かる人だったのね」
雨月「あぁ。ちゃんと霊感もあるし、普通に除霊もできるでしょうね、って姉貴は言っていたよ」
古乃羽「ふーん…」
少しつまらなそうにする古乃羽。
きっと古乃羽的には、その男がまったくの素人で、舞さんが代わりに…みたいな展開を望んでいたのだろう。
雨月「その子は、何の用だろう?って感じでこちらを見ている。そこに男が、適当に挨拶しながら歩み寄っていく」
北上「うんうん」
雨月「で、すぐ傍まで近寄ったところで、突然その子からガクンと力が抜けて、身体から白いモヤモヤが出てきたんだってさ」
私「取り憑いている何かね」
雨月「うん。姉貴もそう言っていた。それを見て、男もサッと身構える」
北上「で、何か必殺技でも出したか」
雨月「…」
古乃羽「…」
私「…バカ」
北上「…ごめん」
雨月「で…その時だな、飼っている犬…室内犬なんだが、これが駆け込んできて、ソレに向かって吠え出したんだ」
古乃羽「そういうのが分かる犬って、居るみたいよね」
雨月「あぁ。でも子供に飛び掛ったら危ないからって言って、姉貴が抱きかかえていることにしたらしい」
北上「ふむ」
290:赤緑 ◆kJAS6iN932
09/09/28 10:16:00 sHmyVe3o0
6/13
雨月「それで犬が大人しくなってから、モヤモヤと対峙した男は、懐からお札を取り出す」
北上「霊札ってやつか」
雨月「だな。それで、サッと近寄ると、素早くソレに貼り付けたんだ」
私「…モヤモヤでも貼れるのね」
雨月「まぁ、その辺はよく分からないけどさ。普通の、ただの紙切れじゃ無理だろうけどね」
古乃羽「それで?」
雨月「そうしたら、そのモヤモヤがパッと散開して…そのまま消えていったとさ」
私「あら…。あっけなく、除霊成功?」
雨月「成功だった、って言っていたよ」
北上「なんだ…やるじゃないか、往来会とやら」
古乃羽「意外だね…。ちゃんとした団体なんだなぁ」
北上「だなぁ。…でももしかしたら、凄い金額を請求されていたり…?」
雨月「それは分からないなぁ…。そこまでは聞いてないし、姉貴も聞かなかっただろうし」
北上「そりゃ、聞けないよな」
雨月君の話は、私たちにとっては意外な結末になった。
古乃羽は少しガッカリしている様子だ。まぁ、世の中に除霊ができる人というのは、舞さん以外にも沢山いるだろう。
…でも、何だろう。何か、話の中で引っ掛かるものがある―?
291:赤緑 ◆kJAS6iN932
09/09/28 10:21:40 sHmyVe3o0
7/13
私はよく、こういった「引っ掛かり」を感じることがある。
そういう時は、必ず何か裏があるハズだ、と自分では信じている。
古乃羽「それで、その男の人は帰っていったの?」
雨月「あぁ。姉貴に一言言って、帰っていったってさ」
古乃羽「なんて…?」
雨月「どなたか知りませんが、こういった事は私共に任せて…とか」
古乃羽「むー…」
ふくれる古乃羽。
北上「まぁ、そう言われても仕方ないのかなぁ…」
古乃羽「ムッ」
北上「…すまん」
にらまれる北上。
私「で、舞さんは?」
雨月「それで大人しく帰ってきたよ。用事も済んだことだしね」
古乃羽「そっかぁ…。舞さんなら無料でやってあげたと思うのにな」
確かにそうだろう。でも、お金が発生しないのが逆に不安を与えることも…と思ったが、口に出すのはやめておいた。私までにらまれそうだ。
それにしても、やっぱり気になる…
292:赤緑 ◆kJAS6iN932
09/09/28 10:27:16 sHmyVe3o0
8/13
私「あのさ…」
雨月「ん?」
私「うーん…何か、変じゃない?よく分からないけど、何か引っ掛かるのよね…」
雨月「お…」
雨月君は何故か感心したような声をあげる。
私「お…って?」
雨月「いや、凄いなぁ神尾さん。分かった?」
古乃羽「ん?何かあるの?」
私「うーん、何か、ちょっと…」
雨月「これ、姉貴に聞いた話をそのまま話したんだけど…。
姉貴さ、ちょっとイタズラ心というか、わざと要点を言わないで話をしてきたんだよね」
北上「要点とな?」
雨月「後で教えてくれたけど、俺は聞いただけじゃ分からなかったよ。…神尾さんは分かったのかな」
私「うーん…一ヶ所、何か不自然なところが。あの―」
古乃羽「あー、待って待って。まだ言わないでね。私も考えるから」
北上「んじゃ俺も…」
雨月「お前が分かったら、ショックだ」
北上「…みてろよ」
293:赤緑 ◆kJAS6iN932
09/09/28 10:33:10 sHmyVe3o0
9/13
古乃羽「うーん…」
北上「実は…モヤモヤは霊じゃなかったとか」
雨月「小学生がタバコでも吸っていたか?それは間違いなく霊だったってさ」
北上「…実はその往来会の男が悪霊」
雨月「普通の人だよ」
北上「…実は全部嘘。夢オチ」
雨月「話したことは、全部実際に起きた、本当のことだ。…姉貴に妄想癖はないと思う」
北上「じゃあ、実は…」
雨月「あのなぁ…。そう言っていけば、いつか当たるかも知れないけどさ」
北上「…」
古乃羽「除霊をするためにその家に行って、先に男の人が来ていて、母親から話を聞いて、子供から変なのが出てきて…」
古乃羽が話の順を追っていく。
北上「うんうん」
古乃羽「男の人がお札貼って、消えて、おしまい…って話よね」
北上「そうだよな…。あ、あれか?実はそれだけじゃまだ終わってなかったってパターン」
雨月「どんなパターンだ?ちゃんと除霊は終わったってさ」
北上「うーむ…」
私「その流れ、ひとつ抜けているよね」
古乃羽「…あれ?」
294:赤緑 ◆kJAS6iN932
09/09/28 10:38:36 sHmyVe3o0
10/13
古乃羽「えーっと…」
私「それだと登場人物が足りない…よね?」
雨月「そそ」
うん。じゃあ、やっぱりそうだ。
古乃羽「…あ」
雨月「分かった?」
古乃羽「…犬ね?」
雨月「そう、正解!」
私「うん。犬のところが、何か引っ掛かったのよね」
古乃羽「そっかぁ…」
北上「あの…俺だけ置いていかないでくれ」
古乃羽「だから、子供に飛び掛ろうとしていたのよ。出てきた霊に、じゃ無くて」
北上「…?」
私「で、その犬が舞さんに抱かれて、大人しくなった訳よ」
北上「そりゃきっと、何かの癒しパワーで…」
古乃羽「それもまぁ、ありそうだけど…この場合は別の可能性があるんじゃない?」
北上「別とな」
私「除霊したのよ」
北上「…あ!」
私「そうよね?舞さんが除霊をしにいったのは、子供じゃなくて、その犬の方なのよ」
295:赤緑 ◆kJAS6iN932
09/09/28 10:43:14 sHmyVe3o0
11/13
北上「そうか…。じゃあ悪い霊は2体居たんだな」
古乃羽「そう…なのかな。子供の方は、もしかしたら?」
雨月「あぁ。子供の方は、悪い霊なんかじゃなかったってさ。いわゆる守護霊みたいなものだったらしい」
私「え…。じゃあ、その守護霊を消しちゃったの?」
雨月「いや。姉貴の話では、その霊は普通子供に憑くものとは別物で、ちょっと強すぎて、長く憑いていると霊障が出そうだった、って言っていたよ」
古乃羽「そっか…」
雨月「現に、母親の話では少し害が出ていたみたいだしね。ただ、犬に憑いているモノから子供を守るために憑いていたんじゃないか、って」
私「あぁ、それで…」
雨月「うん。姉貴が犬の除霊をしたから、それで安心して、その守護霊も消えたってことさ」
北上「お札で消えたんじゃないのか…」
雨月「そうみたいだな。あんな安っぽいお札で消えるようなものじゃ無いって言っていたよ」
古乃羽「そっかそっかぁ…」
何だか嬉しそうな古乃羽。ま、気持ちは分かるかな。
296:赤緑 ◆kJAS6iN932
09/09/28 10:49:19 sHmyVe3o0
12/13
古乃羽「何よねぇ…私たちに任せて、なんてさ」
北上「その場で言ってやれば良かったのにな。除霊したのは私ですよって」
古乃羽「いいの。舞さんはそーゆーこと言わないの」
北上「あ、そう…」
また注意される北上。雨月君とは違い、まだまだ古乃羽の事を分かっていないようだ。
北上「でも、まぁ何だ。その往来会も大したこと無いな」
雨月「…さっきと一転したな」
私「んー…でも、ちゃんと霊感持ちの人が来ていた訳よね。何か頼りなくなっちゃったけど」
雨月「そのお札はアレだったけど、それで効果なかったら他にも手があったかも知れないしな」
北上「あぁ、それもそうか。除霊するのに、たった一枚だけお札持って来るってのも、あり得ないよな」
古乃羽「本当の除霊対象は間違っていたかもだけど…それでも、子供に悪い影響のある霊だった訳だしね」
まぁ、何も知らずに守護霊を消そうとしていた、って事にはなるけど。
北上「ふーむ…侮りがたし、往来会…」
雨月「どっちだよ…」
297:赤緑 ◆kJAS6iN932
09/09/28 10:55:41 sHmyVe3o0
13/13
私「でもさ、その家の人たちにとっては、その往来会の人が除霊してくれた、って認識なんだよね」
雨月「そうなるねぇ」
北上「あながち間違いでもないし、インチキでもなかった訳だからな」
古乃羽「一応はちゃんとした団体なのね。…依頼しようとは思わないけど」
どことなく、敵対心を燃やしている感じの古乃羽。
私「私たちの場合、舞さんに相談しちゃうからなぁ…」
古乃羽「うんうん」
北上「俺の場合は、牧村のお婆さんかなぁ」
古乃羽「…あ。私たちも一度、ちゃんとお礼に行かないとね。そのお婆さんに」
雨月「だなぁ。前に会ったとき、知らなかったから何も言ってないや…」
その後も雨月君は舞さんの話をいくつかしてくれた。
それを聞くにつれて、彼がシスコンであることが明らかになっていく。
これは古乃羽にとってマイナスイメージじゃ…?と心配になったが、
古乃羽はこの点を許しているらしく、逆に舞さんを大事にしないと許さない、くらいの事を言う。
もしこの2人がこのまま一緒になったら…舞さんは少し大変かも知れない。
その時は私が舞さんの相談相手になろうと、心に決めた。
298:本当にあった怖い名無し
09/09/28 11:46:12 Lh6D/jVg0
乙!
あれで終わりとは思えませんでしたw
299:本当にあった怖い名無し
09/09/28 13:57:08 Sk8j1wEQO
枯野、赤緑乙!
枯野は実話らしい淡々とした内容なのに文が熟れて洒脱なのがいいな、引きこまれるし読みやすい
赤緑はマメさに頭が下がる、これからもよろしく
300:本当にあった怖い名無し
09/09/28 17:01:47 tbOXvymBO
乙だけでいいよ、無い知恵しぼって無理に下らんコメントつけなくても。
と、本人も思っている。
301:本当にあった怖い名無し
09/09/28 19:37:28 axb2yaf2O
赤緑乙
面白かった
302:本当にあった怖い名無し
09/09/28 20:26:32 vvsQ2c5z0
>>300
ウニが来たときは「乙」だけじゃ済まないくせにww
本当に面白いものを読むと自然と色んな感想が湧いてくる
ウニと赤緑へのレスの数と内容が両者の作品の質を物語ってるわw
303:本当にあった怖い名無し
09/09/28 21:41:47 TB9Sys3T0
批判、下げない、単発
満貫未満でもNGしないとだめなスレになっちまったか
304:本当にあった怖い名無し
09/09/28 22:37:28 SxN+H+Do0
赤緑乙
初期赤緑を彷彿とさせるテンポの良さで楽しめました
305:本当にあった怖い名無し
09/09/28 23:45:25 Acgz1RTbO
ウニ、枯野、忍、トンガラシが読めればそれでいいや
あとの人は投下してくれても構わないし、勿論しなくてもいい
306:本当にあった怖い名無し
09/09/29 06:47:02 9WrCRA+dO
なんだか1人一生懸命な子がいるな
307:本当にあった怖い名無し
09/09/29 08:42:14 J5WmAOIW0
遅レスながら喪中さんも乙!
この人が出てくれば全て解決系のシリーズが多いけど、普通の子が悪戦苦闘するのも新鮮だったw
このスタイルで次回作も期待してます。もうちょっとエロ成分増やして下さい><
308:本当にあった怖い名無し
09/09/29 15:56:53 ANgyDfUq0
創作者ばかりかよ。
309:本当にあった怖い名無し
09/09/30 13:44:54 B0qzSpCv0
hoi
310:本当にあった怖い名無し
09/09/30 15:50:49 /aOj/+eXO
hoi
311:本当にあった怖い名無し
09/09/30 20:53:19 SBC2rJfLO
be・ho・i・mi
312:本当にあった怖い名無し
09/10/01 09:37:37 12x6qsW0O
ナナシシリーズ、師匠の影響をもろ受けてるって感じだな
内容しかり文体しかり、人物設定しかり…
313:本当にあった怖い名無し
09/10/01 11:21:06 EemapcFU0
ナナシ作者はウニに心酔してました
314:本当にあった怖い名無し
09/10/01 12:19:07 OPo4wHgu0
ナナシ?
315:本当にあった怖い名無し
09/10/01 13:10:45 gG4JarMf0
>>314
洒落コワのシリーズ物にはまとめられてないけど、そういう連作があったんだ
洒落コワ内に点在してる状態だから個人のまとめサイト探した方が早いかも
作者「藤」ってコテだったけど付けて無い時も多かったし
823 藤 2007/07/30(月) 23:01:11 ID:OAPyAtndO
316:本当にあった怖い名無し
09/10/01 13:33:02 IgC13hqY0
ああ、七島か
317:本当にあった怖い名無し
09/10/01 18:09:50 12x6qsW0O
最終的に作者と結婚したSって子は可愛いんだろうか
話だけ読んでると腐女子に近い痛さがあるが…
318:本当にあった怖い名無し
09/10/01 19:00:21 1DJIFGxXO
可愛いんだろうか…
可愛いんだろうか…
可愛いんだろうか…
可愛いんだろうか…
…
…
の、わけねーだろ
あの作者にあのキャラで
もし可愛いならきっと平面だね。
319:本当にあった怖い名無し
09/10/01 20:52:44 12x6qsW0O
ビビったじゃんw
320:本当にあった怖い名無し
09/10/01 23:21:12 L1w3YpI50
ほんと、赤緑へのレスが哀れすぎるww
すぐ別の話題になってるし
321:本当にあった怖い名無し
09/10/02 00:30:20 4SNmUQilO
進歩のないカップ麺みたいなヤツだからな。
322:本当にあった怖い名無し
09/10/02 00:35:46 G1OiUTk5O
だがちょっと待ってほしい。
一見進歩していないように見えるカップ麺だが、実は地味に進化している。
カップヌードルの謎の肉がコロチャーに変わったように。
323:本当にあった怖い名無し
09/10/02 00:55:23 5fLicJX70
改悪じゃないか
324:本当にあった怖い名無し
09/10/02 01:35:52 Hqo6dHwgO
コロチャー美味いよ
325:本当にあった怖い名無し
09/10/02 11:30:15 Zph64+HZ0
問題のすり替えだね。
ズバリ武田鉄矢が嫌われる理由は?
326:本当にあった怖い名無し
09/10/02 12:07:07 h6WChkIV0
俺はマササンシリーズが嫌いだが、文句言う為に読もうとはおもわんなあ
327:本当にあった怖い名無し
09/10/02 19:11:18 qWn5Hnrd0
知らんがな
328:・・・・・・ ◆oJUBn2VTGE
09/10/02 22:05:50 o7OYvvFV0
(´・ω・`) ……
329:本当にあった怖い名無し
09/10/02 22:08:42 jRX80iX+0
>>328
いらっしゃい
どうしました?
330:本当にあった怖い名無し
09/10/02 22:10:27 5UHDuug00
おおぅ、生ウニ?
もしかして「毒」は書きあがらなかった?
331:・・・・・・ ◆oJUBn2VTGE
09/10/02 22:14:15 o7OYvvFV0
(´・ω・`) 毒のことはしばらく忘れてくれませんか。
長文はよほどモチベーションが上がらないと書けないので、
アンケートや時間制限をして自分を追い込んでみましたが
無理でした。
忘れたころにぽろっと書きます。すみません。
(´・ω・`) そのかわりこの負い目を利用して少しペースを上げていこうかと
思っております。
(´・ω・`) では今日は1本だけですが。
あ、あとAAはもう使いません。
332:刀 ◆oJUBn2VTGE
09/10/02 22:17:41 o7OYvvFV0
師匠から聞いた話だ。
大学二回生の春の終わりだった。
僕は師匠のアパートのドアをノックした。オカルト道の師匠だ。
待ったが応答がなかった。
鍵が掛かっていないのは知っていたが、なにぶん女性の部屋。さすがにいつもなら躊躇してしまうところだが、ついさっきこの部屋を出て行ったばかりなのだ。
容赦なくドアを開け放つ。
部屋の真ん中で師匠は寝ていた。
その日、朝方はまだそれほどでもなかったのに昼前ごろには急に気温が上がり、昨日の雨もあってか、猛烈に蒸し暑かった。
その部屋はお世辞にもあまりいい物件とは言えず、こういう寒暖差の影響はモロに受ける。
師匠は畳の上、うつ伏せのままぐったりして座布団に顔をうずめている。
僕は靴を脱いで上がるとその側に近寄って声を掛けた。
「……」
なにか応答があったが、モゴモゴして聞き取れない。
「師匠」
もう一度言いながら肩を叩く。
ようやく座布団から顔がわずかながら浮き上がる。もの凄くだるそうだ。
また、なにか言った。
耳を寄せる。
「おばけ見る以外、したくない」
はあ?
「ちょっと」
僕はまた座布団に顔をうずめた師匠の身体を揺する。
「これですよ、これ」
そうして左手に下げた紙袋をガサガサと頭上で振ってみせる。
「ちょっと。見てくださいよ、これ」
師匠は薄っすらとかいた汗を頬に拭って顔を半分こちらに向け、眠りかけのうたぐり深そうな目つきでボソリと呟く。
「おばけ以外、見たくない」
333:本当にあった怖い名無し
09/10/02 22:18:37 5UHDuug00
>>331
無理に追い込まないで書ける時に書けばいいさー
というわけで支援
334:刀 ◆oJUBn2VTGE
09/10/02 22:23:14 o7OYvvFV0
ええと。
そんな宣言どうでもいいですから、お金下さい。立て替えたお金。
そもそもついさっきお遣いを頼んだのはそっちでしょう。
僕はあきれて紙袋から印鑑を取り出すと、またもや顔を座布団にうずめている師匠の前で振って見せたが、反応がないので首筋に押し付けてやった。
やっべ。
赤いものがついた。店で試しに押した時のインクが残っていたらしい。
師匠はようやくその感触にすべてを思い出したのか、深いため息をついて上半身を起こした。
「そうか。頼んでたな。いくらだった」
注文していた印鑑ができてるはずだから取りに行って来いという、お願いというより半ば命令だった。
「高かったですよ」
僕の言った値段に鼻を鳴らして恨めしそうに財布を探る。やがて決まりの悪そうな顔になった。
「また金欠ですか」
心なしか痩せて見える。
「いや、金が入るあてはあるんだよ。今日だって…………今日?」
財布を探る手を止めて僕の顔を見た。そしてすぐさま電話に飛びつく。
どこかにかけた。相手が出る。
「すんません。忘れてました」
開口一番それだ。
僕は立て替えた印鑑代が戻って来るのか不安になった。
しばらくのやりとりの末、師匠は受話器を置く。頭をかきながら。
「事務所行くの忘れてた」
事務所というのはバイト先の興信所のことだ。名前を小川調査事務所という。
師匠は時どきそこで依頼を受ける。たいていは他の興信所をたらい回しにされたあげくにやって来る奇妙な依頼ばかりだ。
そんな奇妙な依頼が今回は名指しでやって来たらしい。
噂を聞いてのことだろう。
このごろはそんなご指名による依頼が多い気がする。それなりに結果を出しているということか。
335:刀 ◆oJUBn2VTGE
09/10/02 22:28:05 o7OYvvFV0
僕はその手伝いをしている。見よう見まねだが割と面白いので師匠から声が掛かるのを楽しみにするようになっていた。
「待ち合わせしてた依頼人、帰っちゃったみたいだけど所長が話聞いてくれたみたいだから、今から事務所行く」
もちろんついて行く。印鑑代もかかっているから。
事務所について早々、所長の小川さんは師匠を叱った。もちろん待ち合わせをすっぽかしたことについてだ。
こんな小さな興信所では依頼の一件一件が大切な商談だから、たとえどんな変な依頼でも割り切って大切に扱わなくてはいけない。少なくとも依頼人の前では。常にそんな心がけをして欲しい……云々と。
小川さんは飄々としているようで締めるところは締めている。
師匠はしゅんとなって聞いてたが、適当なところで説教も切り上げられ、話は依頼内容 にうつった。
「と、言うもののこいつはどうかな。期待に沿えるかどうか怪しい感じがする」
小川さんは砕けた調子で手を広げて見せた。
依頼人の名前は倉持というそうだ。男性で、七十年配の老人。刀剣の蒐集が趣味だという。依頼はその刀剣についてだった。
「金、持ってそうな名前」
と師匠がぼそりと呟いた。
倉持氏は先日、ある日本刀に関する勉強会に参加した。勉強会とは言っても刀剣研究家という肩書きを持つ先生の講義のあと、それぞれ持ち寄った自慢の一品を見せびらかして全員でああでもないこうでもないと、
とりとめもない雑談に終始する集まりなのだそうだ。
その中によくこうした集まりで顔を合わせる同年輩の男がいて、いつになく嫌味たらしい表情をしていると思っていると、大事そうに一振りの刀を取り出して口上を始めた。
ものは新々刀、会津の名工、三善長道。慶応のころというので、おそらく八代目。
刃長は二尺七寸五分。幕末らしい長刀で、非常に見栄えのする姿。
小板目の地肌に、刃紋は匂い出来の大互の目乱れ。
336:本当にあった怖い名無し
09/10/02 22:30:14 uBkHL6/Z0
なまウニ支援
337:刀 ◆oJUBn2VTGE
09/10/02 22:31:05 o7OYvvFV0
やや研ぎ減りはあるものの、元重ねは三分もあり、迫力に満ちた一振り。
などと実に自慢げだ。
三善長道といえば初代は会津虎徹と称される最上大業物の名工。素性の良いものはおいそれと手が出せない高値がつく。
けれど時代が下り、代が重なれば「さほど」ではなくなる。
刀身や拵えなどをひっくるめて総合的に見ると、良い物だとは思うがそれほど自慢したくなるものだろうかという疑問が湧く。以前見せびらかしていた河内守国助の方がよほど良い品だ。
そう思っていると長道を持ってきたその男はこう言った。
「ところがこの迫力、野趣、いったい見栄えだけからくるものだろうか」
なにが言いたいのだろうと、周囲が注目する。
すると男はこの刀の出自に関する話をし始めた。
長々と話したが、要約するにこの三善長道は幕末期に大洲藩のさる家老の家中にあり、そのころ勤皇で固められた藩風のなかその家老の身内に、長州の起こした禁門の変に呼応して私兵により挙兵をしようとした者があった。
八月十八日の政変後の際どい政治情勢のさなか許されない愚挙であったため、家老はこれを強く諌めたが聞く耳持たれず、泣く泣く密かに斬り捨てて御家の安泰を図ったという。
その身内の若き藩士を斬った刀がここにある三善長道である、と告げられて勉強会の面々はほおと感嘆の声を上げた。
刀は人を斬るためのものだが、人を斬った刀というものにはなかなかお目にかかれない。正確には、斬ったという事実を確認できないのだ。なにしろ鑑定書にはそんなものは出てこない。
三善長道を持ってきた男はこれを懇意にしているさる噺家から譲り受けたのだそうだ。噺家の血筋はその家老に通じており、家宝の刀とともに家中の秘密としてその逸話が伝わっているのだという。
それを聞いた刀剣趣味の者たちは興味津々の体で口々に目の前の三善長道を褒め称えた。
「そう言われてみると、なるほど他にはない凄みがある」だの、「刃先からうっすら妖気のようなものが漂ってきている」だのと口にしては触らせてもらっていた。
338:本当にあった怖い名無し
09/10/02 22:33:00 Ic+800tS0
支援
339:刀 ◆oJUBn2VTGE
09/10/02 22:35:06 o7OYvvFV0
刀剣研究家の先生までもが「若き血気が志半ばで断たれた怨念が篭っているようだ」と感慨深げに言い出して、倉持氏は内心気分が良くなかった。
銘は本物でもその逸話の真贋は分かるまいに、と思ったが口に出すことは躊躇した。
この場に水を掛けるのはいかにも悪者にされてしまいそうで。
会がお開きになり、家に帰ってからも気分が落ち着かないので所蔵している日本刀をすべて出してきて並べてみると、これらの中にも人を斬ったことのある刀が混ざっているのではないかという思いが湧いてきて、居ても立ってもいられなくなったのだそうだ。
「それで私か」
「そういうこと」
倉持氏は『オバケ専門』の師匠の噂を聞きつけ、鑑定を依頼してきたのだという。
鑑定!
僕は思わず吹き出しそうになった。
う~ん、これには無礼打ちされた町人の霊が憑いてますねぇ、などとやるのだろうか。
傍目にも胡散臭いことおびただしい。
「刀のことはあんまり分かんないから、ちょっとな」
師匠は困惑した様子でため息をつく。
「ボクだってそうさ。カタナシ、ってやつ」
小川さんは冗談のつもりなのか判断つきかねる軽口を言って手のひらを上げる。
「ただ、実際になにか家で変な気配がしたり音がしたり、心霊現象かと思うようなことが起こってるらしいんだ」
「……思い込みだろう」
「さあね。ともかくそういうこともあって一度専門家に見に来て欲しいんだそうだ」
専門家ねえ、と肩をすくめながらも師匠は興味が湧いてきたような目つきをした。
「もう受けたの?」
「後日連絡ってことにしてある」
師匠は考え込むようなそぶりをしながら思いついたように首を傾げた。
「……三善長道って、なんか聞いたことがあるな」
僕は思わず口を挟む。
340:本当にあった怖い名無し
09/10/02 22:37:21 KlgUuv/UO
初☆生ウニ!!
支援
341:刀 ◆oJUBn2VTGE
09/10/02 22:38:36 o7OYvvFV0
「近藤勇の愛刀ですよ。新撰組の。池田屋事件の功に対して京都守護職の松平容保から拝領した物です。近藤勇と言えば虎徹の方が有名ですけど、そっちは偽名だったって言われてますね」
師匠は、なんだおまえ、という顔をした。
「詳しいな」
小川さんは急に真剣な顔つきになった。
「実家にいっぱいあるんで、刀やら脇差やら。門前の小僧程度ですけど」
そう言う僕の肩に、師匠は乱暴に手を置いた。
「よし、受けよう。その依頼」
ええっ。と呻いてしまった。
もしかして、なんか失敗したら僕のせいにされるのではないかという不安がよぎった。
「引き受けてくれるなら、早い方が良いって言ってたぞ。家まで来てくれって」
「じゃあもう今日とかでも?」
「二、三日はほとんど家に居るらしい」
師匠はさほど考えもせずに宣言した。
「今日、今から行くって電話して」
「了解」
零細興信所のたった一人の所員たる所長は、遅刻してきたアルバイトの勝手な都合をあっさり了承した。
「暇だろ?」
師匠は有無を言わせぬ笑顔をこちらに向けた。仕方がなかった。僕だって興味がある。
その後小川さんは倉持氏に電話をして、これからご氏名の所員が助手を一人連れて行く旨を伝えた。
そして住宅地図を確認したり先方に渡す契約書などについて師匠と簡単な打ち合わせをした後で、落ち着かなげな様子で妙に言いよどんだ。
どうしたんだろうと思っていると、「あー」と少し視線を上に向けてから「まあ、なんだ」と言った。
「さっきはちょっと言い過ぎたな。悪かった。いつも変な依頼を回して、すまない」
小川さんは師匠に軽く頭を下げた。
ふっ、と師匠の顔が和らぐ。「いや、すっぽかしたのは弁解できない。気をつけます」
342:刀 ◆oJUBn2VTGE
09/10/02 22:44:46 o7OYvvFV0
「そうだな」と言ってから、小川さんはネクタイの先をねじった。
「まあ、そういうことをするなとは言わないけど、昼間っからってのはちょっと控えるんだな」
ん? と言う顔をした。僕と師匠で。
小川さんは自分の首筋を叩いて見せた。思わず二人ともその首のあたりを見つめる。細い首だ。
ハッと気づいた表情をして、師匠は自分の首筋を触りその指先に視線を落とす。
薄っすらと赤い色がついている。首筋にもかすれて広がった丸い微かな赤い跡。
あ、印鑑の。
そう思った瞬間、「このボケェ」という怒声とともに師匠の足が鳩尾に飛んできた。
痛ってぇ。
と、右腕をさすりながら事務所の階段を下りていると師匠が何かを思い出したのか「ちょっと外で待ってろ」と一人で引き返して行った。
事務所の下の喫茶店の前で顔見知りのウエイトレスと立ち話をしていると嬉しそうな顔をして師匠が下りて来る。
「なんか食ってこうぜ」
そう言って、千円札を何枚かヒラヒラさせた。
どうやら調査費を前払いしてもらったらしい。しかし家に行って刀を見るだけの仕事で調査費なんて使うことあるんだろうか。
疑問に思ったが、まあくれたからには使っていいのだろう。
「でも今から行くって電話したばかりですよ」と諌めると、師匠は恨めしそうな顔をして「じゃあさっさと片付けてこよう」と僕をせかし始めた。
コピーした地図を見ながら自転車に二人乗りして目的地に向かう。
蒸し暑さに何度も汗を拭いながらペダルをこぐこと二十分あまり。古い家の並ぶ住宅街の一角に倉持氏の家を発見した。
「へぇ」と言いながら師匠が後輪の軸から足を下ろす。
想像していたより立派な日本家屋だ。数寄屋門から覗く庭がかなり広い。
門の傍らについていたインターホンで来意を告げると、倉持氏本人の声で「どうぞお入りください」と返答があった。
343:本当にあった怖い名無し
09/10/02 22:46:31 krEXETbC0
>>331
気にすんなよ。金貰って書いてるわけじゃなし
344:本当にあった怖い名無し
09/10/02 22:48:39 oluJ1jDv0
わーお!
345:刀 ◆oJUBn2VTGE
09/10/02 22:49:13 o7OYvvFV0
庭と言うより庭園とでも言うべき景色を見ながら石畳の上を歩いて玄関にたどり着くと、ガラガラと戸が開いて和服姿の老人が出迎えてくれた。
「倉持です」
痩身から引き締まった表情の顔が伸びている。七十年配だと聞いていたが矍鑠とした姿はもう少し若く見えた。
「どうぞ、お上がりください」
値踏みするように師匠を見つめながら右手を流す。
僕は緊張したが師匠は平然と靴を脱いで倉持氏の後をついて行った。
涼しげな音をさせる板張りの廊下を進み、僕らは庭に面した広い和室に通された。
「いまお茶を」と倉持氏が消え、ほどなくして戻って来たときにはお盆の上に高級そうな和菓子も一緒に乗せられていた。
主人と客がそれぞれに居住まいを正し、もう一度名乗りあった。
僕もおずおずと名刺を差し出す。
「坂本さん」
まだその響きに慣れない。偽名を使うのは所長に無理やりあてがわれたからだが、いつもこの嘘が見抜かれないかと不安になる。
僕の将来に対する配慮らしいが、そんなやっかいごとに巻き込まれる可能性を恐れるならそもそもこんな師匠みたいな人について回りはしないのだが……
「僕の方は助手というか、あの、ただの付き添いです」
口調が気に入らなかったのか師匠が「堂々としてろ」と目で発破をかけながら僕の足を小突いた。
「さっそくですが、ご依頼の品をお見せいただきたい」
契約に関するやりとりを終えて、師匠はそう切り出した。
「ええ、いま」
倉持氏は両手をついて立ち上がった。
二人だけになった部屋で僕は師匠に声をひそめて話しかけた。
「なにか感じますか」
静かな日本家屋は外の蒸し暑さが心なしか緩和されたような空間で、少しづつ汗が引いていくのが心地よかった。
師匠は畳から壁、そして天井の四隅へと首を巡らせた後で「なにも」と言った。
346:本当にあった怖い名無し
09/10/02 22:55:38 jRX80iX+0
そろそろさる来たかな
00分待ちか支援
347:刀 ◆oJUBn2VTGE
09/10/02 23:01:12 o7OYvvFV0
僕も同感だった。心霊現象の気配などなにも感じない。どうやら倉持氏の思い込みの可能性が高いようだ。
ということは、自分の所有する蒐集物の中に人を斬った刀があって欲しいという彼の願望がいかに強いかということを暗に示している気がして、少し気が重くなった。
先だっての勉強会で金銭の多寡を超えたその付加価値の存在を認識してしまったことが彼の精神に与えた影響は大きいと思わざるを得ない。
そしてそれはこの依頼の難易度にも関わる問題だった。
もし刀を見ても師匠がなにも感じ取れなければ、その通り告げて終わるというものではないかも知れない。
だからあの倉持氏のいかめしい表情のことを思うとどうしても気が重くなるのだった。
「お待たせしました」
その当人が戻って来て座につく。想像に反してその手は空だった。
そんな僕らの視線に反応して軽く笑みを浮かべる。
「ご鑑定いただくものは別室に用意してあります」
その前に、と倉持氏は含みを持たせるように少し間を置いた。
「ご評判を伺って相談した次第ではありますが、こうしたことは私も初めてですし、テレビなどで霊能者の方を拝見することがありますが、なかなかどうして皆さんそれぞれにやり方も違えば仰ることも違いますのでね、
なんと申しましょうか、ま、私もそうした方にお会いする機会もなく、いったいぜんたいどういうものなのだろうと、こう思う所もございまして」
師匠の顔が曇った。
回りくどい言い方だが、ようするに証拠を見せろと言っているのだ。人を斬った刀かどうか人知を超えた力で鑑定するのというのだから、それが何の能力もない人間に適当なホラを言われたのではたまらないということか。
自分から頼みに来ておきながら、したたかなものだ。
どうするのかと思って見ていると師匠は軽く息を吐いて「いいでしょう」と言った。
「私は死者の霊と交感することができます。ですから、もし人を斬り殺した刀があればそこにこびり付く死者の霊を見ることができるでしょう。……たとえばあなたの背中に今も寄り添う奥様のように」
348:刀 ◆oJUBn2VTGE
09/10/02 23:03:40 o7OYvvFV0
空気が変わった。倉持氏の顔が緊張で震える。
「どうしてやもめだと?」
「見えるからですよ。そして奥様は私に様々なことを教えてくれます。あなたは先代から続く食料品の卸業で立派な家を建てられた。今では息子さんに会社を譲られ、悠々自適に暮らして趣味を楽しまれている。隣に並んでいるのがその息子さん夫婦の家ですね」
コールドリーディングだ!
僕は興奮した。
たぶん奥さんの霊が見えるというのは嘘だ。さっきこの家になにも感じないと言ったばかりだから。
ということは師匠は実際に目にしたものや、相手との会話から情報を引き出しているに違いない。
インチキ霊能力者と同じ手口を使っているのだ。そうして信用を勝ち取ろうとしている。
なんて人だ。
僕は畏敬と呆れるような思いが入り混じったモヤモヤした気持ちのまま、その師匠がどこで情報を得たのかと目を皿のようにして倉持氏の身に着けているものや部屋の間取、家具などを探った。
そしてこれまでのやりとりを思い浮かべる。
そう言えば倉持氏自身がお茶を運んで来たことなどは今現在独り身であることを示唆しているようにも見えるが、たまたま奥さんが外出中であったり、病院に入院中であったりというケースだって考えられる。
僕にはまったく想像がつかない。どうやって師匠はここまで推理できたのか。
「息子夫婦は確かに隣に住んでおりますが、今も息子のやっている食料品の卸の屋号は私の名字と同じです。広いようで狭い街です。聞き覚えがあったのではないですか」
倉持氏は震える声で、それでも頑張っている。
「いえ、残念ながら。それと奥様はあなたのご病気を心配されていますね。……心臓ではないですか。倒れたこともおありのようだ」
「む」
倉持氏は息が詰まったような声を漏らした。
349:本当にあった怖い名無し
09/10/02 23:05:46 8IjF2Xe70
生ウニ 生米 生支援
350:本当にあった怖い名無し
09/10/02 23:07:32 IJXmEHdb0
ウニとさるはセットだな
なんとかならんのか
351:刀 ◆oJUBn2VTGE
09/10/02 23:08:08 o7OYvvFV0
「これ以上は今回の依頼内容からは逸脱しますので、別の機会に願いたい所ですが。信じる信じないはお任せします」
師匠はふっ、と力を抜いた表情を見せて続けた「奥様はとてもお綺麗な方ですね。みさこさん、とおっしゃる」
張り詰めた空気が破れ、倉持氏は「失礼」と言って胸元を押さえたまま部屋を出て行った。
僕も驚いていた。気持ちが悪いものを見る目で師匠を見てしまう。
「どうしてわかるんです」
恐る恐る訊いてみると、師匠は涼しい顔をして言い放った。
「知ってたから」
そんなはずはない。依頼人の名前も今日聞いたばかりだ。それも師匠自身は約束をすっぽかしたせいで今の今までその倉持氏とやりとりもしていない。
これは僕の知らない師匠の霊能力なのではないかと、寒気のする思いを味わっていると鼻で笑うような言葉が降って来た。
「あのな。こういう霊能力を期待してるような依頼人と会う時は、会う前から情報収集するのがセオリーだよ」
会う前から? そんなバカな。師匠は僕とずっと一緒にいたじゃないか。僕にはそんな情報、入っていない。
横から試されているような目で見られていると、ハッと気付いた。
そうだ。事務所から出る時、師匠だけ引き返して行った。あの時だ。
お金の無心をしにいったと単純に思っていたが、もしその所長との交渉が一瞬で終わっていたとしたら、僕が下でウエイトレスと立ち話をするだけの空白の時間ができることになる。
「今回の依頼って、私の噂を聞いて名指しで来たって言ってたよね。自分で言うのもなんだけど、私なんか全然有名じゃないし。そんな噂をするのなんて、前に依頼を受けた人に決まっている。
その中で日本刀趣味の七十過ぎの爺さんと交友関係がありそうな人なんて数が限られるよ。というか、もうだいたいそんな噂を広めてるの、あの婆さんに決まってんだけど」