09/10/02 21:37:42 9WZ2f44S0
知り合いの話。
山奥で小さな集落を見つけた。
それなりに手入れされた田や畑があり、家屋にも生活感があったが、どこを
向いても人っ子一人見当たらない。
何となく落ち着かない気持ちで歩いていると、村の中央、少し開けた場所に
掲示板らしき物が立てられていた。
ボロボロになった農暦と、もう一枚新しい紙が貼り付けられてある。
人の名前がズラリと並べられていて、何かのリストみたいだ。
一番上に「行方不明の者」との記入があった。
・・・こんなに大人数が行方不明になってるっていうのか?
その時、どこからかボソボソと話し声が聞こえてきた。
「誰かいますか?」大声を張り上げたが、何の反応もない。
しかし話し声は続いている。
視線をあちらこちらに飛ばしている内、リストの最下段に目が吸い付いた。
先程までなかった筈の文字が一つ、新たに加わっている。
墨で書かれたみたいな、少し濡れた文字。
彼の苗字の最初の一文字だった。
ここにいてはいけない!
なぜかそんな思いに駆られ、後も見ずに逃げ出したのだという。
幸い道に迷うこともなく、麓まで無事降りられたそうだ。
「そのままそこにいたら、どうなってたんだろうな?」
そう問い掛ける私に彼は顰め面で答えた。
「知らん。考えないようにしてる」