09/11/10 00:02:11 lafyK2Lp0
・・・あんたは向いているかもしれん・・・。
目の前の男が独り言ともとれる小さな呟きを俺に向けて吐いたあの時を、俺はまだ覚えている。
記憶をなくした俺にとって、その”思い出”は今の俺を形成する原点とも言うべき要素だ。
何かに迷った時、まず俺はこの思い出を起点に思考を組み立てた。
無限としか思えないこの時空間において、俺はまだ明確な原点らしきものを見たことがないが、
俺の思考空間の中では、その思い出は欠くべからざる原点として存在した。
しかも、それにはより重要な意味が込められているという確信が、俺の場合、明確にあった。
キーの存在。
今の仕事をするようになった時、俺はそのキーを既に持っていた。
それは、例えば、ありふれたデスクに付属されているような小さなもの。決して大げさな形状や
由緒を連想させるようなものではない。
様子が普通のものとやや異なるのは、その呈する”古さ”だろうか。
その材質が何であるかは俺にはよく分からないが、いわゆる”さび”のようなものがこびりつい
ているのだ。ただ”鉄さび”のように赤茶けてはいない。例えるのなら薄い緑色もしくはエメラ
ルドグリーンをしている。俺に化学の素養でもあれば、キーの材質についてもある程度の目が利
いたのかも知れないが、それはさておき、もっと本質的な興味を俺はこのキーに感じていた。
一体、このキーはいつから何を守り続けているのだろう?