09/04/19 22:02:47 jCSMwGe60
俺は気付くと知らない駅に居た。
ホームの周囲に目をやると、線路は薄霞む川の向こうへと続いているのが分かった。
目を凝らすと、川の向こう側からこちらを見つめている、数名の人影がおぼろげながら見える。
一瞬俺の家族かと考えたが、頭を振って否定する。
俺の家族は皆死んでいて、天涯孤独の身だ。
ふと、手に一枚の切符が握られている事に気付く。
『賽の河原西駅>六文区間』
俺はその切符が、あの世とこの世を結ぶ電車の切符だと悟った。
ホームに立って呆然としていた所、俺の切符を見て男が話しかけてきた。
男が今持っている全財産と、俺の切符とを交換してくれと言うのだ。
「しかしねぇ、あなた、これは片道切符ですよ。きっと簡単にこちらには戻れませんよ?」
そう忠告したのだが、
「ええ、もちろんそんな事は分かっていますよ」
と言うので、交換してやった。
交換してすぐ、おんぼろのワンマン電車がホームにやってきた。
男は車掌に切符を渡して電車に乗り込み、行ってしまった。
あんな馬鹿な交換を持ち掛けてくるなんて、と俺は笑った。
よっぽどお気楽な人生を歩んで来たに違いない。
俺は男に渡された、通帳やら札束が詰まった袋をホームのゴミ箱に突っ込み、駅を出た。
ここからはのんびりと歩いて行くことにしよう。