09/04/11 00:28:48 MabvK/HD0
今はすでにない都内のあるホテルだったが、
その晩は、なぜか濃霧が立ち込め、窓を締め切りながら飲んでいた。
やがて、ほろ酔いになった頃、空気を入れ替えようと思い、窓を開けたが、1メートル先も見えない、ひどい霧だった。
同僚も、興味深げに先の見えない霧の風景に見入っていた。
なぜか、何かが出てきそうな雰囲気になってきたが、二人とも窓を閉めずに、霧を見続けていた。
すると霧の中から、私たちの眼の前に、実寸大の女性の顔が現れたのだ。
霧の白と、陰影の黒で、形作られていて、
顔の輪郭、眼のくぼみ、鼻や口などがリアルに表現されていた。
表情を変えることなく、私たちを見続けると、やがて形が崩れ、消えていった。
この間、10秒~15秒程度。実際には、異様に長く感じた。
女性の顔が消え去った後、私たちは、しばらく体を動かすことができなかった。
おそるおそる、同僚の顔を合わせ、黙って窓を閉めた。
どちらが窓を閉めたのか、どちらが先に声をかけたか、覚えていない。
二人とも、今さっき見たことは、見なかったことにして、一切何も語らなかった。
むしろ、語るべきではないと、暗黙の了解がされた。
その後、そのホテルは使わないようになった。
後年、そのホテルの近くに行くと、ホテルはすでになく、
いい天気で、気持ちのいい昼下がりだった。
しかし、どことなく妙な雰囲気も残ってる感じがした。