08/09/21 22:04:37 T0OWNg7z0
アンティークショップで見つけた古いオルゴールだ。
蓋を開け、螺子を回すと、軽やかな音楽を伴い人形が舞う。
箱の中には、黒ずんだ銀の指輪が一つ入っていた。
オルゴールが音楽を奏で始めると、いつも彼は現れた。
少し年上の、異国の人。
始めの頃は驚いたが、彼は特に何をするわけでもなかった。
いつしか私も、ちょっと風変わりな話し相手として接するようになった。
彼はいつでも不機嫌で、私の話は殆ど聞き流されていた風だったけど。
恋人が事故で死んだ。
世界から色が消えたように感じた。
その頃の私は、機械のように坦々と日々を過ごしていた。
曲が流れていたのは知っていた。
その日それを意識したのは、テノールの歌声を伴っていたから。
異国の言葉で紡がれる優しい歌に包まれて、
私は、やっと、泣いた。
オルゴールの中の、彼の指にあるものより二周りほど小さな指輪。
磨こうかと思ったこともあるけど、彼に失礼かと思い直して止めた。
今日、よく似た品を見つけたので買い求め、はめて彼に見せてみた。
彼の表情がふわりと和らいだのを見て、まだ生きていてもいいかと思えた。