なにそのツンデ霊★九人目☆at OCCULT
なにそのツンデ霊★九人目☆ - 暇つぶし2ch50:本当にあった怖い名無し
08/08/07 05:26:56 jOe6dU1K0
ほしゅ

51:本当にあった怖い名無し
08/08/07 23:59:24 uHlbXDDD0
ほっしゅるーむ

52:本当にあった怖い名無し
08/08/08 15:27:37 yfJTjekp0
>>47
娘に毎日されているが・・・。

53:泥田坊
08/08/09 01:03:48 GEBybbGF0
「田を返せ~田を返せ~」

「いや、でもホント(開発計画が順調に進められて)助かったよ。ありがと」
「ば……ばかっ、日本人は米作ってればよかったのよ!」
「外国米輸入しないとな。またマンションたててもいいかな」
「ダ、ダメっ!これ以上食料自給率が下がったら危ないわゎ!!!」

翌週、なんか弁当用意して待っててくれました。
日本の米のうまさを教えてやるだけで、決して僕のために用意したんじゃないそうです。


意図せずして社会派

54:本当にあった怖い名無し
08/08/09 11:56:24 ZQL8MpZR0
>>53
そうして日本のおなごの良さを教えてもらうんですねわかります

55:本当にあった怖い名無し
08/08/12 11:55:56 Uy3xe0ji0
歩道橋の階段に、女の子の幽霊が居付いている。
彼女は人の足を引っ掛けて転ばすという悪戯をしている。
ただし、相手は若者限定、階段の上か下三段以内。
大きな事故なんて起きた事は無い。
俺はいわゆる見える人で、彼女に悪戯されそうになっても上手くよけて、
その度に睨まれていた。

ある時、遅刻しそうで急いていた為か、
俺は下ろうとしていた階段の一番上で足を踏み外した。
間違いなく死ぬ。
そう思った瞬間、すごい力で後ろから引っ張られた。
何が起きたか理解出来ないままぺたんと尻餅をついて呆けていると、
俺の体をすり抜けて彼女が階段を下りていった。
下から二段目の定位置で、俺のことを仏頂面で見上げている。
ううむ、今日は引っ掛けられてやるべきか。

56:本当にあった怖い名無し
08/08/12 12:56:48 HEZIZqOf0
gj
ブッチョ面(;´Д`)ハァハァ

57:本当にあった怖い名無し
08/08/12 13:38:37 IKxm6WVc0
これは書き込まざるおえない!!
ブッチョ面(;´Д`)ハァハァ

58:本当にあった怖い名無し
08/08/12 14:31:45 nXjFqYq6O
ブ、ブッシュ面(;´Д`)ハァハァ

59:本当にあった怖い名無し
08/08/13 19:58:44 j6uNZD8k0
プ、プッチョ面(;´Д`)ハァハァ

60:本当にあった怖い名無し
08/08/14 14:32:19 fXVDv/6WO
秋田「わー、みんなよく帰ってきてくれたねぇ♪」
島根「ささ、生まれ育った我が家でゆっくり寛ぐが良い」
広島「オタフクソースが恋しかったじゃろ?ぎょうさんあるけぇようけ食いんさいな」
千葉「オラオラ、早く菜の花体操すんぞ」

東京「………」
宮城「おーい東京、一緒にカーリングしようよ!あ、カバディのがいい?」
東京「……
気を使わなくてもいいよ…お盆に人がいないくなるのはいつものことさ…ハハ」

宮城「べ、別にあんたが寂しそうだからって訳じゃないんだからね!
知事に言われたからしょうがなく相手してやるんだからぁ!
か、勘違いしないでよね!」


大阪「タレント最高や!」


61:本当にあった怖い名無し
08/08/14 14:38:06 fXVDv/6WO
しまった宮崎と宮城を間違えたー!
島根と岡山も間違えてるし!

62:本当にあった怖い名無し
08/08/14 19:39:58 xGIQ2Bjq0
>>61
とりあえず板の確認をしようか

63:本当にあった怖い名無し
08/08/14 23:48:53 TfoldHKn0
>>60
なんでマイナースポーツばっかなんだよwwwww

64:本当にあった怖い名無し
08/08/15 11:50:47 STySOOOl0
セパタクローもたまには思い出してね

65:本当にあった怖い名無し
08/08/16 20:00:56 E0K6Ci1E0
>>54
おこめじゃなくてお○こを頂くわけですねわかります

66:本当にあった怖い名無し
08/08/16 20:10:33 2+rtmB7x0
お汁こ

67:本当にあった怖い名無し
08/08/17 02:44:57 CmPzO19g0
お婿だろ

68:本当にあった怖い名無し
08/08/17 16:22:14 tuYzQAwQ0
いえ、おめこです

69:本当にあった怖い名無し
08/08/19 20:48:28 /lg7KI/0O


70:本当にあった怖い名無し
08/08/19 21:14:40 lyQ57o8U0


71:本当にあった怖い名無し
08/08/19 21:15:24 CYYV6YXL0
俺の部屋には何かいるらしくて、時々食器や小物が部屋中を飛び交う。
何故か直撃は無いんで散らばった破片に気をつけていればよかったんだが、
3日前に壊されたのは、工房時代の俺がインディーズバンド活動していた時、
唯一発売されたCD。思い出のもの。
就活とかで色々不運が重なってたんでマジへこんでた時でさ。
なんだよ、未来も希望も捨てちまえっつー事か、
いっそ逝っちまおうかと思ってたんだが、
昨日勝手に点いたTVから、俺の曲がアカペラで流れてきたんだ。
歌ってるのは若い女で下手糞だったけどなwでも涙出た。
朝起きてみたら、そこ空きチャンネルだった。
そんな事もあるもんかね。

でもさっき着替えてる時に枕投げつけられたのはムカついた。
そういや暫く静かだったんだが、また煩い日々が始まるのかorz

72:本当にあった怖い名無し
08/08/21 10:56:41 Eusu1km+0
「ねえ、もうすぐ夏休み終わるんだけど」
『だから何?』
「姉ちゃん、宿題手伝っ―」
『い・や。なんで死んでもあんたの宿題手伝わされなきゃいけないのよ』
「ううう…問題集は見せてもらうとして、自由研究どうしよう?
そういえばひまわりの種まいたけど、すっかり忘れてた。
枯れただろうな…」
『…まだ生きてるわよ』
「え?」
『勘違いするんじゃないわよ!
あんたがすぐ世話を放り出してひまわりが可哀想だったから!
て言うか今じゃあたしのものなんだからね!?
あたしのブログにも育成日記書いてるんだから!』
「育成日記!?そっか姉ちゃん昔から生き物の世話好きだったもんね!
すごいや姉ちゃん!さすが!後でブログ覗かせてね」
『んもう、仕方ないわねぇ』

73:本当にあった怖い名無し
08/08/22 13:37:38 xnD6NXi50
姉ちゃん死んだの?

74:本当にあった怖い名無し
08/08/23 21:19:53 XRzCl27o0
>>1にまとめwikiがあるのを見て迷わず飛び込んだ!
でも読みたかった話がなくてガッカリした
耳なし芳一面白かったんだけどなぁ…

75:本当にあった怖い名無し
08/08/23 21:24:16 tFvYtvao0
>>74
ログはくれてやるから今すぐwikiを編集する作業に戻るんだ

76:本当にあった怖い名無し
08/08/26 21:49:03 Z1o/Ur/80


77:本当にあった怖い名無し
08/08/26 23:49:48 +oZKk/CZ0


78:本当にあった怖い名無し
08/08/27 01:58:37 l3BTOQ270
あげといてやるが、

断じて貴様等のせいじゃないから

勘違いすんじゃねーぞ

このアホンダラメ等がwww

79:本当にあった怖い名無し
08/08/27 14:24:26 eXZMbwee0
自分で言うのもなんだが霊感は全く無いと思っていたよ。
なんで、大学に入ったとき不動産屋さんのオッチャンが曰くつきと自白するような
アパートに安いと言う理由だけで迷わず入居したよ。都内、2K、駅まで徒歩10数分、
(築30年)、家賃4万、安いよな?
ただ遊びに来た友人が口々に言うのよ。
「夜中寝てるとミシミシ音がする」と、古いからなと言っておいた。
「人の声がしねえ?」と、住宅地だからなと言っておいた。
「窓から凄い形相の女が覗いてる!」と、ここは2階だと言っておいた。

80:本当にあった怖い名無し
08/08/27 14:25:45 eXZMbwee0
まあ、心当たりが無いでもなかった。
片付けたはずの部屋が散らかっている、消したはずのラジオがついている、閉めたはずの
窓が開いている・・・。初め泥棒の可能性も疑ったけど、盗まれて困るものと言えば冷蔵庫と
ラジオくらいのものだったので放っておいた。
ようやく念願のテレビを買ったのが2年の秋、これは盗まれては困ると戸締り用心したのに
窓が開いてることがある。これはいよいよオカシイと思い始めてはいた。
でもってある日、アパートに女友達が来た。友達以上彼女未満な存在で「何も無いぞ」と
言うのについて来て、夕食まで作ってくれた。良い感じではあったけど、一気に発展する
こともなく駅まで送って帰らせたよ。
その夜のことだ、布団の中で後悔しつつ悶々としていると金縛りにあった。もちろん初体験の。


81:本当にあった怖い名無し
08/08/27 14:26:38 eXZMbwee0
金縛りって、視覚と聴覚は起きてるんだけど残りはさっぱり動かないのな。だからなんか
言おうと思ってもヒューヒュー言って声にならない。そんな中で明らかに俺のではない声が
聞こえてくるのよ。初めはなんとなくボソボソと、でもよーく耳をすませてみると部屋の中、
つーか俺のすぐ傍で俺に対して訴えかけるように言ってくる。
「・・・デ、・・・・・・、・・・ンデ・・・、・・・・・・」
なるほど、これが大家や友人の言っていた幽霊か。状況を理解し何故だか冷静な俺。どうやら、
俺に「死んで」とか言ってるようだが・・・。怖がろうにも体が動かないし、叫ぼうにも声も
出ない。仕方ないので放っておいたら睡魔に襲われ朝になっていた。
翌日、友人にそのことを話したら、すぐに引っ越せと懇々と諭された。

82:本当にあった怖い名無し
08/08/27 14:28:00 eXZMbwee0
俺は憑き殺されるんだろうか?少々悩んだが、引越しする費用も無いので住み続けた。
それから、俺が奴に遭遇する頻度は格段に上がった。
寝てると金縛りに遭う、耳元で「死ね」とか「出てけ」とか言う。
金縛りに遭わなくてもガタガタ物音がする、俗に言うポルターガイストってやつだな。
髭を剃ろうと100均で買ってきた鏡と睨めっこしてるとスゥッと後ろを通り抜ける、髪の
長い女性、ということだけは分かった。これがオッサンだったら困りものだが、女性なら
良いかぁ、という考えが頭をよぎったことは否定しない!
窓を開けっぱなしにすると雨が振りこんだり、本物の泥棒が入ってくるんで勘弁してくれ、と
何も無い天井に話しかけたら、以後窓が開けっ放しと言うことは無くなった。とりあえず、
話は分かる奴で安心した。

83:本当にあった怖い名無し
08/08/27 14:29:11 eXZMbwee0
慣れというのは怖いもので、帰宅してテレビが点いていても気にもしなくなっていた。
見たいテレビがあるのでチャンネルを変えると、さっきまでのチャンネルに切り替わる。
この番組が見たいんだが、と訴えると電源ごと消しやがった・・・。あんまりやるとまた金縛りに
されそうなので自分の見たい番組は録画して後で見た(泣)。ちなみに、こいつ、ウリナリが
好きなようで毎週見ていたな。
便利なことも、100均で小さなホワイトボードを買って、今日の予定(アルバイトとか)書いて
おくと帰る頃に風呂が沸いてた。「アリガ㌧」と言うと翌日から毎日風呂が沸いてた・・・。なんか
毎日お湯抜いて掃除してたみたいで、水道代もったいないんで2,3日に一回水は替えてたんだけど
好意を無にするのも悪いんで放っておいた。

84:本当にあった怖い名無し
08/08/27 14:30:21 eXZMbwee0
3年の初夏、前述の女の子と親密な関係になることなく決定的に振られた。友人達と自棄酒を
呑んで帰宅する。着替えるのも面倒でちゃぶ台に突っ伏してグデーっとしてた。
体の右側からスーッと近づく冷えた空気。ああ、奴が隣に座ったんだなと理解した。
なんつーかね、少々自棄気味で取り殺されても良いやって気になってたよ。
ほっぺたに冷たいものが触った。ヒャッッ、と起き上がるとマグカップに麦茶が一杯・・・。
姿は見えねど奴が何処からとも無く言った。
「酒臭い・・・」

85:本当にあった怖い名無し
08/08/27 14:31:21 eXZMbwee0
一度きちんと話してみたいと思ってたけど、こちらからの呼びかけには基本的に無反応だった。
なんつーか、きまぐれで俺にちょっかいを出してくるよーな感じだったよ。特に害も無かったんで、
俺も基本的に放置していたのだが、ある日本気で奴と喧嘩することになる。
当時流通しだしたPS、DVD機能搭載ってことで俺はビデオは買わずに必死でバイトして生活費
やりくりして購入した。ところが購入して僅か1週間、奴のうっかりからPSは帰らぬ星となる。
さすがに怒ったね、小一時間説教してやろうと思ったがぱったりと姿も見せない。そこで俺も
実力行使に出た。線香を束で買ってきて室内で延々と丸2日焚いてやった。ゴキブリに対する
バルサンのように!効果があるかどうか分からんが、その間友人宅に寝泊りし、3日目の夜、
その友人とアパートに戻った。

86:本当にあった怖い名無し
08/08/27 14:32:36 eXZMbwee0
「こりゃまた盛大な・・・」
友人が唖然とするほど荒れた室内。とりあえず換気して部屋を片付ける。しばらく酒盛りしていたが
出てくる様子も無いので友人を自宅に帰す。夜も更けたので、布団を敷き電気を消す。うつ伏せに
していると線香の匂いが布団に染み付いているのがよく分かった。
「シクシクシクシク」
夜中に女が泣きながら・・・、実にまた古典的な表れ方で奴は現れた。のは良いんだが、ちょこんと
俺の背中の上に座っていた。小さな子供のような体躯だった。
「起きちゃ駄目!」
起き上がろうとした俺に叱りつけた。いつもなら金縛りに遭う展開だが体は普通に動いた。
ここで起き上がるのも無粋なんでじっとしていた。

87:本当にあった怖い名無し
08/08/27 14:33:32 eXZMbwee0
「線香焚かれると死んじゃうのか?」
「煙かっただけです」
「よく分からんが悪かった、死にそうな目に遭ったんだな」
「うん」
「・・・、とりあえずどいてくんない?」
「うるさい!」
とうに泣き止んだ奴が当たり前のように俺の背中を占拠している。座ったまま
動く様子も無く、奴の尻からあるはずも無い温もりすら感じられた。
「そういや何故PS壊したんだよ?」
「・・・」
「こりゃ、高かったんだぞあれ」
「・・・、だってHなビデオ見るから・・・」
「・・・」
「・・・」
「覗いてたのかー?!お前はー?!」
ぐるんと勢いよく振り返ったが奴はいなかった。ただ、なんとなく高調した体温だけ感じられた。

88:本当にあった怖い名無し
08/08/27 14:34:41 eXZMbwee0
どうやら夜中になると現れるわけではなく、奴は四六時中室内には居るらしい。要するに自縛霊と
いうやつか、俺は納得すると同時に室内に居る時は四六時中奴の視線を気にするようになって
しまった。これまでにした恥ずかしい行為が全部奴(女性)に見られてたと思うと、いたたまれない
気持ちになった。
しかし同時に、奴が現れる頻度もどんどん減っていった。パタリと居なくなったわけじゃない。
ただ、風呂が沸かしてあったり、新しい麦茶が作り置いてあったり、テレビがついていたりする
回数が段々減っていき、年が変わる頃には全く現れなくなっていた。アルバイトから帰ると部屋が
シンとしている、そんな当たり前の光景が寂しくすらあった。
人間どころか奴にまで振られちまったかな・・・、そんな気分だったよ。

89:本当にあった怖い名無し
08/08/27 14:35:37 eXZMbwee0
ある日、夢を見た。
夢の中で金縛りに遭う夢。
奴が出てくる。
なんだかよく分からんけど謝っている俺。
奴がゆっくりと俺の顔を覗き込む。
あと少し・・・、顔が見えると思ったところで目が覚める。
がっかりする俺。
「いるんだろ・・・、出て来いよ・・・」
天井に語りかけても何の反応も無かった。

90:本当にあった怖い名無し
08/08/27 14:36:28 eXZMbwee0
4年生の春、あっさりと就職も決まり卒論を書く以外は毎日のように遊び呆けていた。
もうこの頃になると奴のことも諦めていたよ。彼女と言える存在も出来て2人でよく遊びに行った。
俺のアパートに行きたいとよく言うのだがそれだけは勘弁してもらった。奴はもう居ない、
しかし、なんて言うのかな信義観念を損なうというか、この姿を見せたくなかったと言うか。
彼女曰く「浮気してるのがばれるから」、うん、これが一番近かったかも知れんな。
しかし、ついにその日がやって来てしまう。ゼミ室で呑んでいるうちに彼女の終電終了。
計画的犯行なのは明白なのだが断る理由も無くアパートに連れてきてしまった。
何故か点いているアパートの明かり。
ドアを開けたとき、見覚えの無い、いや見覚えないだけでよ~く知っている女がちゃぶ台の前で
正座している光景を彼女と二人で見たときの俺の心情はどうすれば伝わるだろうか・・・。

91:本当にあった怖い名無し
08/08/27 14:37:34 eXZMbwee0
「誰?」
にこやかに、こめかみを震わせながら聞く彼女。
「何て答えれば良いんだか・・・」
とりあえず靴を脱ぎ彼女共々室内に入る。初めて直視する奴の顔は凛としていて、どこか冷たさを
漂わせていた。
「・・・」
「・・・」
「・・・」
三者一同に押し黙ったまま。このままでもしょうがないので俺が話の口を切る。
「久しぶり、で良いのか?」
「・・・」
デニムのスカートに黒っぽいTシャツ、幽霊といって彼女が信じるかどうか・・・。
「どこ行ってた?」
「何言ってるの?毎日ここにいたのに」
「毎日・・・?」
「ていうか、あれ誰?」
指差された彼女、既に目をひん剥いていて全力で俺にグーパンチした。

92:本当にあった怖い名無し
08/08/27 14:38:35 eXZMbwee0
終電の無いはずの彼女が何処に行ったかは知らん。
なんつーか、頭の混乱してるのをどうにかしようと思った俺はとりあえずちゃぶ台の前に座った。
奴が麦茶を一杯コトンと置いた。
「お前さぁ、俺になんか怨みでもあるのかよ?」
「別に、ただつくづく女運無いんだなぁと思って」
「ああ、俺も本当そう思うよ・・・」
麦茶を飲みつつ覗き見た奴の顔がどこか微笑んでいたのは見間違いでは無いと思う。
後に知ることになるのだが、この時「彼女」は二股かけていたそうだ。もう一人と俺を比較した時
おそらく付き合っていても切られたのは俺だろうと思う。しかしなんつーかな、あの時に奴が
邪魔しなければ「彼女」と結合できたわけで、それだけが悔いで、全くもう・・・。

93:本当にあった怖い名無し
08/08/27 14:39:37 eXZMbwee0
その日を境に奴は当たり前のように俺の前に姿を現すようになった。夕食時になるとしばしば
現れて俺の分まで食べるので、最近は少し多めに夕食を用意している、おかげで肥った・・・(泣)。
駅前まで買い物についてくるのはまだ許せるが、この前など電車に乗りやがった、お前自縛霊じゃ
ないのかよ?!彼女が出来ないのはお前のせいだからヤらせろ、と酔った勢いで言ったら金縛りに
あった。試しに酒を呑ませたらべらぼうに強くて、ゼミの飲み会連れてったらすっかり教授の
お気に入りになってしまった。学生じゃないくせに卒コンまで参加しやがった。
社会人になった俺、片道1時間以上の道のりをえっちらおっちら通っている。
「引っ越すならついていってやってもいいよ」
エプロン姿するなら晩飯くらい作ってくれ・・・。

94:またぎさん ◆ci0AGstyuc
08/08/27 23:20:24 PkztckDA0
「紫鏡・・・か、アホらしい」
結局、小学生の頃に聞かされてから成人式が終わるまで、忘れなかったな。
「ま、都市伝説なんてこんなものだよな」
「まだ、分からないぞ。久しぶりだな。死にたがりの克也」
懐かしいあだ名だ。たしか、中学の時に付いたあだ名だったな。そのあだ名を知ってるってことは、中学の時の同級生か?
・・・ダメだ。思い出せない。
「思い出せないか。克也らしいな」
「中学離れて、もう何年になると思ってるんだよ」
そう。中学時代だ。俺は、とにかく無気力で死にたかった。あの時、俺が何をしたのか思い出せないが、とにかくどん底にいたことは思い出せる。
家族が目の前で死に、頼れる親族も力もない時代。追い風のごとく、俺に対しての悪い噂と白い眼差しの数々。まさに、絶望の泥沼の最深部のような状態。それでは、死にたくもなるというものだ。だが、なぜか俺は生きている。なぜだった?何かあったはずだ。
「しかし、死ぬことは諦めたと思っていたのだがな。まさか、最後の悪あがきのごとくあんなものを信じて覚えているとは。首を落としてあげようか?」
「・・・ああ、お前か」
思い出した。いや、はっきりとは思い出せないが、俺はこいつを知っていた。死を求めた俺から、死を最も近いところで遠ざけていった奴だ。俺は、こいつのせいで死ねなかった。
「久しぶりなんだ。変わったもの同士、孤独だろうから飲みにでも行こう」


「しかし、まさか克也が生きているとは思わなかったぞ」
成人式が終わり、誰からの誘いもなかった俺たちは、二人で飲みに行くことになった。
「ここは、あまり変わっていないな。あの時と一緒だ。しかし、事務員の人が変わっていなくてよかった」
「まさか、こんな場所で飲むとはな」
そこは、俺が最も死を望んだ時にいた場所。そして、こいつと出会った場所でもある。
「気に入らないか?まぁ、無理もないか。出身中学の屋上なんて、華のない場所で飲むんだからな」
「まぁ、そうでもないな。懐かしすぎはするけどな。・・・何だよ?寒いんだけど」
俺は、寒いので酒を開け飲み始めようとしたが、こいつに睨まれた。
「乾杯ぐらいしようとは思わないのか?相変わらずの間抜けだな。それでは、飲み会も呼ばれないだろ?ほれ、乾杯だ」
口の悪さも、相変わらずらしい。
「・・・すまん。乾杯」

95:またぎさん ◆ci0AGstyuc
08/08/27 23:22:05 PkztckDA0

「しかし、懐かしいな。ここでは、色々なことがあったな」
「・・・ああ、ありすぎたな」
無口ながらも、お互いの口が少し軽くなる程度に飲んだ。しかし、こいつは以外と飲む奴なんだな。
「覚えているか?初めて会った時のこと。克也は、ここから飛ぼうとしていたのだったな。死にたいくせに、足を震わせながら」
「ああ、それでお前が後ろから押したんだったな。で、俺はバランスを崩して倒れたな」
あの時のことは、なぜか覚えている。というより、死のうとしたときの事は、ことごとく覚えている。死のうとするたびに、こいつが絡んできたのもよく覚えている。
「『何だ。飛ばないのか。つまらないな。ああ、死ぬ気なら首を落としてあげようか?』だったな」
「無関心だった割りには、覚えているのだな。つまらないやつめ」
他にもあった。カッターを手首にあてたら、隣からハサミが飛んできたり、科学室の薬品棚を見たら隣に沸騰した熱湯をぶちまけてくれた。さらには、冬のストーブの給油時には真隣で焚き火を始めたりした。しかも、なぜか全て俺が怒られた。
「・・・思い出してみたが、あまりいい思い出ではないな」
「そうかな?私にとっては、中々スリリングで傑作的な思い出ばかりだったがな」
まったく奇妙な奴だ。これだけ奇妙で、変に絡んできていた奴なのになぜ俺は思い出せない?
・・・いや、そもそも知らない?同じクラスにいたか?同じ学年にいたか?同じ学校にいたか?何年間?俺が?こいつが?
「混乱させてしまったか。だが、ようやく答えに近づいたみたいだな」
「答え?どういうことだ?」
こいつは、俺を知っている。俺も、たしかにこいつを知っている。だが、こいつは俺の名前を知っているが、俺はこいつの名前を知らない。
・・・名前を知らない?一緒に授業も受けたのに?
「一緒のクラスなのに、名前を呼ばれてない?」
「おお、答えまでもう少しだ。そうだな。私は、克也といつも一緒だった。だが、誰も私の名前を呼ぶ人はいなかった」
見えない人?いつも一緒?いつから?どこから?
「・・・あ」
「ようやく思い出したか」
俺は、こいつを知っていた。中学からなんかじゃく、もっと前から。

―あの時から。



96:またぎさん ◆ci0AGstyuc
08/08/27 23:27:57 PkztckDA0
「迷い込んだ廃墟寺の鏡の前にいた女の子」
「ま、お前ではここまでが限界か。そうだ。私は、荒神を祭りし名もなき寺の祭られし者だ。まったく、お前が思い出すまでどれだけ待ったことか」
全て思い出した。子供の頃に見つけた廃墟寺。そのなかにあった美しく光る薄紫色の鏡。その鏡の前に、静かに座る美しい少女。
好奇心で話しかけたもののどこか噛み合わないが、なぜか面白い話。ある時期から、急に隙間風のような冷たい空気の流れる家族仲。亀裂の広がる家族。
家にいるのが嫌で、廃墟寺に自然と足が向く日々。ある日来た家族の崩壊。一家心中で、俺だけ生き残った。父親自ら家に火を付けた。
その炎の中にも、彼女はいた。静かにたたずみ、火だるまになった父親たちをやはり静かに撫でながら、こちらを見て悲しそうに微笑む少女。
今、全てを思い出してしまった。
「お前は・・・死神?」
「・・・ある意味正解か。まぁ、本当は荒神でもなければ、死神でもないのだがな。単なる不幸な流行り病と突発的なアクシデントで、伝説化されながら死んだ寂しい女だ」
こいつは、自嘲的に笑うと酒を静かに傾けた。
「・・・そんなことはないだろ。お前は、俺を助けたじゃんか」
俺は、何となく彼女の今見ているものを見てみたくなり、対面からゆっくりと彼女の隣に移動した。
「あれは・・・勘違いするな。助けたわけではく、寂しくなるとかでもなくて・・・まったく、相変わらず鈍感な奴だ」
「何がだよ?」
彼女は、隣に座る俺を軽く頭で小突くとそのまま寄り掛かってきた。俺は、それを見てからまた正面を向き少しだけ酒を飲んだ。
父親が、みんなを殺して回っていた時なぜか俺は庭にいた。
よく分からず寝呆けながら月を見上げていた。
気が付いて家を見ると、すでに火の海になっていた。そうだ。あの時、たしかに誰かに呼ばれて庭に出た。そして、すすめられるまま月を見上げていた。


97:またぎさん ◆ci0AGstyuc
08/08/27 23:29:05 PkztckDA0
「髪、綺麗だな」
「・・・そう言ってくれるのは、二度目だな。まったく、私の心を何度鷲掴みにすれば気が済むのだ。・・・克也。お前は、全てを思い出した今でもまだ死にたいのか?」
縋るような目で見上げる彼女。前にも一度あったな。あの時は、たしか『死にたいか?』と一言だけ聞かれたんだったかな。
「正直、分かんないな。今いる場所は、やっぱり死に近い場所にいるから」
「・・・相変わらず答えは、曖昧なのだな。だが、だからこそ私は、お前を好きになったのかもしれないな。ああ、酔っただけだから気にしないでくれ」
彼女は、そのまま寄り掛かる態勢からあぐらをかく俺の足を膝枕にして寝転がった。
果たしてこいつは、本当に酔っているのか?
「・・・紫鏡の呪いだが、実はあれはあの寺にあった鏡のことだ。克也、もうすぐお前の誕生日も終わるな」
そう言うと彼女は、ゆっくりと起き上がりながら俺の首に手を伸ばした。

―ああ、俺・・・死ぬんだな―



98:またぎさん ◆ci0AGstyuc
08/08/27 23:31:29 PkztckDA0
俺は、空の月を眺めながら他人事のようにそんなことを考えながら、ゆっくりと目を閉じる。
彼女の手は、喉にはかからず俺の後頭部に伸ばされ腕を首に回された。恐らく、苦しまないよう絞め殺すのではなく首の骨を折るのだろう。その腕にはゆっくり力がこめられ――。
柔らかな温もりが、俺の唇に当てられた。
目を開くと彼女は、俺に跨りその腕で俺の首を抱きながら月を背に口付けをしていた。
彼女の幼げながらも、しっかりした顔。酒のせいか、薄くだが朱のかかった頬。そして、月の光を受けて淡く輝く美しい黒髪。
俺の魂は、一発で持っていかれてしまった。
「ん・・・私からの呪いだ。お前は、これから長く一人の女に苦しみ死ぬだろう。だが、その女以外のことで死ぬことは許さない。お前は火消しだ。だが、どんな炎に罷れようとも、死ぬことは許さない。紫鏡の呪いだ。分かったか?」
「呪いってか、魔力だな。また、俺を遠ざけやがった。あと、火消しは古い。今は、消防士って言うんだ」
彼女は、さらに強く俺を抱き締めてきた。これはもう、完全に放してはくれないな。
「そうか、私もまだまだ勉強不足のようだな。克也よ。もう、寂しいのはごめんだ」
「・・・そういや、名前を知らないままだったな。俺に、死ねない呪いをかけて苦しめる女の名前ぐらい教えてくれ」
俺の言葉に彼女は、目を潤ませ俺の顔を見つめてきた。
「そうか・・・そういえば、名乗っていなかったな。ならば、呪いを完全なものにするため名乗るとしよう。私の名は――」


99:またぎさん ◆ci0AGstyuc
08/08/27 23:33:35 PkztckDA0


「先輩!凄いっすね!あんな炎の中に入っていけるなんて、他の先輩にも真似できないっすよ。おかけで、また一人助かりましたね」
「家屋全焼に完全倒壊か・・・真似するなよ?」
俺が言うと後輩は、全力で首を横に振った後事後処理に走りだした。
「まったく、また無茶をしてくれるな。ヒーロー気取りの凡人克也よ」
「相変わらずの手厳しツッコミで・・・ありがうとな。倒壊寸前のビルを支えてくれたうえに、炎から守ってくれて」
一休みしていた横に現れた彼女に俺は、素直に礼を言う。実際、彼女がいなければ俺もやばかった。
「勘違いをするな。たまたまだ。それに、私以外のことで死なれては、呪いの意味がないだろう。まったく、克也のせいでどんどん能力が神がかっていく」
文句を言いながらも、満足そうな顔をする彼女に思わず苦笑してしまう。
「む、何が可笑しい?」
「いや、何でもありませんよ。さて、もうすぐ交替時間だしとっとと帰って、報告したら帰りますかね」
徐々に引き上げていく仲間たちの列に加わりながら、やはり苦笑を浮かべながら俺はつぶやく。
「まったく、寺から鏡を持ち出されたせいで、克也のもとから離れられなくなったよ」
「嫌だったか?そいつはすまなか―って!悪かった。冗談だよ」
俺は、彼女に軽く小突かれながら家路を急ぐことにした。

「―ばか。そんなわけないだろう。私の愛しき克也よ」
「ん?どうした?」
「聞こえずか。何でもない。早く帰るぞ。家には、私の試作したご飯が待っているからな」

彼女の呟きは、たしかに聞き取れなかったが言いたいことは何となく伝わった。
帰ったら、鏡を研いてあげるかな。
俺に呪いをかけた愛しきあいつのために・・・。

100:ちんこまんこうんこ
08/08/28 03:33:21 uKg0uOzT0
ちんこまんこうんこ

101:本当にあった怖い名無し
08/08/28 05:28:43 Y668wB5t0
引っ越してきた我が家には女の子の幽霊がいるらしい
小5か小6くらい
ネタっぽいかもしれんが事実
糖質と思うなら笑ってくれw
実際に目撃というかいつも夢の中で会う
しかし普通の夢と違ってちゃんとベットから起き上がる所からはじまる
家の中も実際と同じで幽体離脱のような感じ?
んで家の中でその女の子に会うのだが・・
この子激しくつれない
ほとんど喋らんしいつも横向いてる
服は20年くらい前のファッション
この前やっと名前を教えてくれた

最近、この状態にも慣れてきていろいろ質問したり
観察できる余裕がでてきた
俺、もともとロリぎみだしw
でもこの前すごく付きまとっってらすげー勢いで睨まれたorz
それから出てこなくなっちゃったんだけど・・
霊にもひかれちゃったんだろうか・・ううっ


102:本当にあった怖い名無し
08/08/28 18:45:26 T38x9h1g0
>>101
そこでツンデ霊ハンターにジョブチェンジするんですねw

いいなぁ…いもおとほすぃ…

103:本当にあった怖い名無し
08/08/31 05:23:39 a6S2KZj2O
久々

104:本当にあった怖い名無し
08/09/02 22:47:06 uIuqyCwD0
最近バイクが重くて仕方ない。丁度一人分タンデムしている感じ。
ガソリン余分に食う以上の実害は無いので放っておいた。

ネットの仲間でのツーリングオフに参加した。そのうち一人はかなりの美女。
特別仲良くなりたかったが、エンストするわ突然ブレーキロックかかってこけそうになるわ散々迷惑かけていいとこなしで終わり。
後日ネット反省会でも皆は笑って許してくれてたが俺は申し訳なくて仕方なかった。

その時のオフ仲間とはメール交換してたんだが、美人の彼女からメールが来た。
『許してあげてね。悪気があったわけじゃないから』
何の事かわからず彼女に確認してみた。
彼女曰く俺のバイクには、いわゆる幽霊が同乗していたらしい。
で、何か知らんがえらく不機嫌で、そのせいでバイクに色々な支障が出たとか。
『悪霊ですか!?』
『いいえ、どちらかと言うと守護霊かな。
君、惹きつけやすい体質みたいであのオフの日も結構あっちこっちで引っ張られそうになってて。
だけど彼女が追い払ってたみたい。まぁ彼女も君に憑いてる一人なんだろうけど(笑)』
そこは笑うべきですか?

美人の彼女とはその後もオフで会ってるが、霊的な事象での特別な友人関係にしかなれない。
勝手にタンデムしている方の彼女は、バイクメンテナンスとか手伝ってくれる今日この頃。

105:本当にあった怖い名無し
08/09/03 01:35:02 72MCHs2/0
何沈めてんのよ?

ごめん

上げといてあげるわよ、この馬鹿。もうどうしようもないんだから。

いつもありがと。

な、何言ってんのよ。たまたま目に付いたからあげておいてあげるだけなんだから。

うん。それでもかんしゃしてるよ。

ば、馬鹿(///)勘違いしないでよね。

うん。

(///)バカ・・・。

うん。

(///)・・・。

・・・。

106:本当にあった怖い名無し
08/09/04 22:19:54 Xr3NdL4G0
なにがツンデ霊だよwwww
過疎スレ晒しageざまぁww

107:本当にあった怖い名無し
08/09/04 22:22:50 Ab1Mya7g0
過疎スレ晒したって意味なくないか?

108:本当にあった怖い名無し
08/09/05 00:05:12 sZ6cE+l10
そこは、ほれ、基本ツンデレだから。

しかし、>>105といい、>>106といい、
シンプルな作品は味があるな。

109:本当にあった怖い名無し
08/09/08 00:42:18 FpPdVKRL0
>>105 は 続きが書けそうな気がする。

110:本当にあった怖い名無し
08/09/10 02:54:02 vigfJeDT0
kono sure
kiete nakute

yokatta

111:本当にあった怖い名無し
08/09/11 00:52:56 XSX/WNKh0
>>110
ikoku kara irasita tunderei sama desuka ?

112:すろーらいふ1
08/09/14 20:17:26 OJkJ8grf0

いわゆる自給自足に憧れて、この春から田舎暮らしを始めた。
地元の不動産屋に紹介してもらった農地付き物件は、年季の入った廃屋っぷり。
だが、そのリフォーム作業も含めて充実した毎日だった。

その部屋だけは、何故か他より保存状態が良かった。床も壁もしっかりしていて、雨も隙間風も虫も入り込まない。
だから、その部屋を寝泊りするための場所に使っていた。
気が付いたのは暮らし始めて二週間ぐらいしてから。前兆はもっと前からあったのだろうけど。

人魂、と言うのか。
目の前数センチのところで、ゆらゆらと光の玉が泳いでいる。
寝起きのぼんやりした頭で、それを眺める俺。
暫くそのままだったが、目覚まし代わりの携帯電話が鳴り出した途端、光の玉は驚いたように明滅してから消えた。

113:すろーらいふ2
08/09/14 20:19:35 OJkJ8grf0

この屋敷は、どうやら先住者憑きらしい。
色々世話になっている一番近い隣人に何とか聞きだした結果だ。
どうも近所の人から敬遠と言うか奇異の目というか、新入りと言うのとはまたちょっと違う感じで見られているとは思っていたのだが。

過去に住人が首をくくっただの、おかしくなってしまっただの、話す人によって内容は違う。
何処まで本当なのかはよくわからないが、十数年前に越してきた家族が一月も経たず出て行ったのだけは確からしい。
誰もいなくなったこの家の中で彷徨う人魂を見た人もいる。

秘密が暴露されたと知るや、気兼ねなく噂話を聞かせてくれた近所の人は皆『取り殺される前に』と口を揃えるが、そういうのはもっと早くに。。。
財産の殆どをここの購入資金に充てた俺は、後には引けないという殆ど意地で、ここで暮らし続ける事を選択した。
庭にテントを張り、そこを拠点にして屋敷のリフォームと畑作業に精を出す日々。
何か微妙に間違っている。
季節はそろそろ夏になろうとしていた。

114:すろーらいふ3-1
08/09/14 20:20:47 OJkJ8grf0

子供の頃、何とかって怪談を図書館で読んだ。
気の強い男を脅かそうと日替わりでお化けが現れるという話。
今まさにそんな状況だ。

あれから毎日、家の中限定、特にあの部屋を中心に、何かしら怪異は起こっていた。
お経や枯れ木を叩くような音が一晩中続いたり、火の玉が飛び回ったり、誰かが歩き回ったり。
障子や天井一杯の顔が出た事もあるし、屋敷が火事になった幻を見せられた事もある。
客観的に見ていられるのは、慣れ、なんだろう。
建物から一歩出れば、それらが外まで憑いてくる事もなかったし、
殆どが幻で構成されている、要は命に関わるような大事が起きていないという事もある。
むしろ日中の労働後にテント泊という生活の方が体に堪えていた。

115:すろーらいふ3-2
08/09/14 20:22:05 OJkJ8grf0
ある時、雨がテントを叩く音で目を覚ました。
結構激しい。
畑の様子や修繕道具を確認する必要があるだろう。
起き上がろうとしたが、体中が酷くだるくて、結局断念した。
頭も体も激しく痛む。
転がったままぼんやりしていたが、視界がふぅっと暗転するのを感じた。

次に目を開けた時も、テントを叩く激しい雨は続いていた。
それ程時間は経っていないようだ。
いい加減起き上がらないといけないのだが、いかんせん体は石のように重いまま。
再び意識を失いかけた時、ふわっと湿った風が入り込むのを感じた。

三度目の覚醒は、今までと違う音のせいだった。
てん、とん、てん、ててん。
断続的に床を叩く音。雨漏りだ。慌てて起き上がった。
そしてあたりを見回して、そこがテントの中ではない事に漸く気付いた。
「…あれ?」
何時の間にか、リフォーム真っ最中の屋敷の、例の部屋へと移動していた。
だるさはまだ残っていたがとにかく畑の様子を見ようと歩き出し、ふと口元に手をやって驚いた。
髭が、随分伸びていた。

翌朝「最近姿を見ないから」と心配した隣人が様子見に来た。
どうも体調を崩してそのまま四日程昏倒していたようだ。

どうしようか迷ったが、その日から再び屋敷の中で寝泊りする事にした。

116:すろーらいふ4-1
08/09/14 20:23:25 OJkJ8grf0

盛夏を迎え、猛暑が続く。
俺はというと、畑仕事と屋敷のリフォームと言う相変わらずの生活を送っていた。
病気で倒れた日以来何故か、見えない同居人の仕業と思われる怪現象のうち、睡眠に響く騒音は随分と落ち着いた。
その代わり。

精気を付けろと隣人から頂いた鰻丼を、空にされた。
隣人から頂いた晩飯のてんぷらを盗られた。
頂いた焼肉(略
若いからと肉系を中心におかずをしょっちゅう頂いているのだが、ことごとく奪われていた。
この夏の俺の体は野菜で出来ているといっても過言ではない。
まぁ、同居を認めてもらえる代償と思えば、悔しいけれど安いものだろう、多分。
…悔しいけど。

117:すろーらいふ4-2
08/09/14 20:24:22 OJkJ8grf0
おかずを奪われるようになって一月ほどした頃。
物音にふと目を覚ました。
周りは真っ暗になっている。
土間の修繕作業中だったのだが、ちょっと一休みと寝転がっているうちに寝入ってしまったらしい。
携帯の明かり片手に、外に置いたランタンを探そうと土間から出ると、縁側の片隅に白いものが見えた。
隣人が夕飯のおすそ分けに来てくれたらしい。布巾の掛けられたお盆が置かれていた。
動物性たんぱく質のおかずは諦めながら布巾をめくる。
案の定、三つ並べられた皿のうち一つは完全に空になっていた。
好みじゃない葉物は相変わらず手付かず。
残る一つの皿を見て、おや、と思った。
卯巻き卵が一切れと、『満腹ダカラ、偶ニハ分ケテヤル』と書かれた緑の葉っぱが一枚。
「はは、ありがと」
苦笑しつつも珍しい事もあるものだと思い、声に出して礼を言った。
縁側の障子の向こうで微かに気配がした。

それ以来、肉類もほんの一口分だけ残してくれる事がある。

118:すろーらいふ5-1
08/09/14 20:25:28 OJkJ8grf0

気が付くと日没が早くなり、朝晩が涼しくなってきた頃。
「ほら、住むならやっぱり一度ちゃんと御祓いとかしてもらわないと」
「はぁ」
隣人が、伝手を頼って紹介してもらったという霊能者を連れてきた。
五十過ぎの胡散臭そうな男性だ。
正直な所、最近はそこまでする必要も感じていなかったのだが、近所に住んでいる人たちも不安なんだろうと思い、形だけ見てもらうことにした。

まずは一通り屋内を見、その後紹介してくれた隣人の家で対応を話し合うことになった。
部屋から部屋へ見て回る男は、見た目通りかなり胡散臭い。
時折妙な方向に視線を飛ばしてみたり、立ち止まったり。
で、俺が寝泊りしている例の部屋では全くの無反応。
そんなこんなで一時間ほど見て回った。
その間怪しげな事は全く起きなかった。

119:すろーらいふ5-2
08/09/14 20:26:29 OJkJ8grf0
「いや、確かにあそこには悪霊が棲み付いておりますな」
隣人の家に戻るや否や、待ち構えていた近所の人たちに対し早速深刻そうに口を開く男。
「霊道の上に後から家を建てたのでしょう。そのために色々と障害が起きている。このままでは命に関わります」
ざわめきたつ近所の人たち。
「そうなんですか?どうすれば!?」
「対応は早ければ早いほど良い。明日、早速御払いを行いましょう」
「わ、わかりました。あんたもそれでいいね?」
「あ、はい」
当人そっちのけの感があるのだが、それで皆の気が済むならいいか。
そう軽く考えていた。

「明日、御払いするんだってさ」
その夜はそのまま隣人宅に泊めて貰う事になったのだが、同居人には一応報告しておかねばなるまいと思い、忘れ物を取りに帰るフリをして家に戻った。
「あれでも何か効き目があったら大変だから、どっかに隠れているといいよ」
特に反応は無かったから、納得したんだろうと勝手に思い込んでいた。

120:すろーらいふ6-1
08/09/14 21:35:01 OJkJ8grf0

二人の助手と共に着々と準備を進める男。
場所は一番足場の良い、例の寝泊りしている部屋。集中の邪魔になるという理由で近所の人達は締め出され、紹介者の隣人だけが立ち会っていた。
滞りなく作業は進み、やがて除霊が始まった。
一応取り憑かれているということになっている俺を囲い、呪文を唱える男達。
最初は何も起きなかった。
だが、突然、祭壇に灯されていたろうそくが勢いよく燃え上がり中空で一塊になると、そのまま助手の一人に飛び移った。
悲鳴を上げながら燃え移った炎を叩き消す助手。
俺も助けようと立ち上がろうとしたのだが、急に悪寒が走り、同時に体が動かなくなった。
自分の体なのに、自分のものではないような。熱で浮かされた時のあのだるさに似た感覚。
同時に、後ろから生臭い臭いと嫌な含み笑いが聞こえた。
そのまま倒れ込んだ。

男の呪文が続いている。俺に近づき、頭の横に膝を着いて、怒鳴りつけるように呪文を唱えている。
それと呼応するように、だるさと不快感が体中を支配する。
指の先すら動かせないまま、視線だけで男を見上げた。
そうしているとふと、床の下から、かり、かり、と何かが引っかく音がしているのに気が付いた。
『アイツ』がいらいらしながら爪で引っかいている。
そう思った次の瞬間。
下から突き上げてきた衝撃に、天井まで吹き飛ばされた。

121:すろーらいふ6-2
08/09/14 21:36:13 OJkJ8grf0
黒い毛皮の生き物だった。
犬のようにも見えた。でもあの尻尾は狐のものだ。
俺の体は床に倒れたまま、黒いもやのような大蛇に巻きつかれていた。
黒狐はその蛇に襲い掛かると頭を噛み砕き、俺の体から引き剥がし、呪文を唱える男の方へ放り投げた。
よく見ると男の体にも、大小無数の蛇が絡み付いている。それらの蛇がいっせいに鎌首をもたげ、狐に向かって鋭い威嚇音を発しながら牙を剥いた。
『アイツ』は意に介した様子もなく、口から真っ赤な炎を吐き、男ともども蛇へ浴びせかけた。

白昼夢、だったのだろうか。
気が付くと、俺の視線は倒れたときのまま床に近い所にあった。
あのだるさは無い。急いで起き上がる。
自称霊能者の男は、どこか呆けたような顔をしていた。
立ち会っていた隣人に恐る恐る状況を問われると、慌てて体裁を取り繕い「無事に祓えたようだ」などとのたまっていた。

122:すろーらいふ7
08/09/14 21:38:01 OJkJ8grf0

『アイツ』は当分の間荒れていた。
近所の人たちには当然内緒にしていたが。
昼夜構わず家中を走り回ったかと思うと、柱や梁を片っ端から揺さぶってみたり。
紙の類を手当たり次第破ったり、木屑や枯葉を家中にばらまいたり。
俺はあの霊能者を勝手に家に入れてしまったことを毎日謝った。
『アイツ』にとってこの家は『アイツ』の棲家で、俺は間借り人なのだから。
『アイツ』はなかなか許してはくれなかった。

秋祭りの日。
祭りを手伝ったお礼にご近所の皆さんから一人では食べきれないほどの稲荷寿司を貰った。
「一緒に食べてくれる人がいないと困るなぁ」
がたがたと揺れる暗い家に戻り、呟く。
稲荷寿司はそのまま台所に置き、俺は庭に再び設置した寝床―テントにもぐりこんだ。

『―二度と、勝手な真似をするでないぞ?』
夢うつつに、声が聞こえた。大人びた口調の、でも確かに子供の声だ。
『この地に住む以上、おまえは我の使用人なのだからな』
怒っているが、不安げに、寂しげに響く。
思わず頬を緩めつつ、頷いてみせると、声音は一転して明るくなった。
『わかればよい。今回は、供え物に免じて許してやる』
目を覚ます直前、僅かに頭をかしげて艶やかな黒髪を肩に流す、愛らしい笑顔が、見えた気がした。

稲荷寿司の三分の一を一人で食べたらしい。
残りは油揚げ無しの状態で、台所に残されていた。

123:すろーらいふ8
08/09/14 21:39:36 OJkJ8grf0

点検で床下を探っていると、例の部屋の下で、拳大の狐らしき素焼きの人形が出てきた。
どうしようか迷ったが、暗い所に戻すのもなんだし、ふかふかの座布団を買って来て上に人形を据え、家の中で一番良い場所に置いた。
相変わらずおかずを奪われるが、それ以外には特におかしなこともないから、問題は無いようだ。

124:本当にあった怖い名無し
08/09/14 21:43:46 OJkJ8grf0
寝ていたら、誰かに物凄い力で両腕を引っ張られた。
そのまま体から引きずり出されてしまった。
腕を掴むのは、女だ。顔はよく見えない。
そのまま天井を抜け、ぐんぐん上へ上へと引かれていく。
そして、雲をつきぬけ―
「…おお」
夜空に煌々と輝く、丸い月。
「今日は十五夜だったっけ」
何時の間にか上昇を停止し、腕を掴んだままの女に何とはなしに話しかけた。
「下にいたら見れなかったなぁ。ありがとう」
「べ、別に礼を言われる筋合いなんて無いわ!一人で高いとこに行くのがちょっと怖かっただけよ!!」
「そうか。でもこんな機会ないし、もう少し一緒に見てていい?帰ったら一緒に月見団子食べようよ」
「だから、その…し、仕方ないわね、付き合ってあげるわよ」

125:本当にあった怖い名無し
08/09/15 11:57:52 2rrXfdQV0
ID:OJkJ8grf0 乙。
ずっと読みふけってしまった。面白かった。
最後の最後にこれぞっていうツンデレが出てきて噴いたけどw

126:本当にあった怖い名無し
08/09/16 06:37:54 +1C71TMS0
>>124が一番ツンデレらしくて読みやすかったw

127:本当にあった怖い名無し
08/09/20 01:33:29 KjStOzPn0
>>111
hu,,,hun!

anta no tameni wazawaza
ikokukara kaiteru nja naindakara

kan tigai sinaide yo ne!






128:本当にあった怖い名無し
08/09/20 01:40:24 KjStOzPn0
>>111
hu,,,hun!

anta no tameni wazawaza
ikokukara kaiteru nja naindakara

kan tigai sinaide yo ne!






129:本当にあった怖い名無し
08/09/21 22:04:37 T0OWNg7z0
アンティークショップで見つけた古いオルゴールだ。
蓋を開け、螺子を回すと、軽やかな音楽を伴い人形が舞う。
箱の中には、黒ずんだ銀の指輪が一つ入っていた。

オルゴールが音楽を奏で始めると、いつも彼は現れた。
少し年上の、異国の人。
始めの頃は驚いたが、彼は特に何をするわけでもなかった。
いつしか私も、ちょっと風変わりな話し相手として接するようになった。
彼はいつでも不機嫌で、私の話は殆ど聞き流されていた風だったけど。


恋人が事故で死んだ。
世界から色が消えたように感じた。
その頃の私は、機械のように坦々と日々を過ごしていた。

曲が流れていたのは知っていた。
その日それを意識したのは、テノールの歌声を伴っていたから。
異国の言葉で紡がれる優しい歌に包まれて、
私は、やっと、泣いた。


オルゴールの中の、彼の指にあるものより二周りほど小さな指輪。
磨こうかと思ったこともあるけど、彼に失礼かと思い直して止めた。
今日、よく似た品を見つけたので買い求め、はめて彼に見せてみた。
彼の表情がふわりと和らいだのを見て、まだ生きていてもいいかと思えた。

130:本当にあった怖い名無し
08/09/24 10:13:31 ORNgsIbS0
最近悩み事がある。

「お兄ちゃん、お兄ちゃんってば!!いい加減起きないと遅刻だよ!?」
「…うー」
「もう、毎朝毎朝起こさなきゃいけないこっちの身にもなってよね!」
(…と、言、う、か、)
「ホントお兄ちゃんってば、あたしがいないと―」
(まず金縛りを解けーーーっっ!!!)
「…えー?」
(えー?じゃねぇ!!てめぇが毎朝毎朝4時前に人を金縛りにしてくれやがるからこっちゃ寝不足と疲労でつらいんだよ!!)
「だって、金縛りにしておかないと殴るじゃん」
(当たり前だ!!!第一おまえの『お兄ちゃん』はこないだまで隣の男だったろうが!!)
「あの人0感でオタクできもいんだもん」
(くっ…反論できねぇ)
「それより何よお兄ちゃんのバカ!酷い事言われたってお母さんに言いつけちゃうんだから!もう起こしてなんてあげないんだからぁっ!!」

と言うようなやり取りをここ数日繰り返している。
奴が去った後は疲労困憊、二度寝で遅刻か授業を寝落ち。
まぁあれでも毎日20~30分ずつ遅くずらしているようなのでいつか普通の時間に起こされる事もあるのかもしれないが。
半端な霊能力なんていらねぇ…。

131:本当にあった怖い名無し
08/09/25 10:28:52 vHd2ewQN0
>>129
あれ?目から汗が…

>>130
ちょっと霊呼んでくる

132:本当にあった怖い名無し
08/09/26 04:02:17 H9BPmFXL0
>>130 それはそれで萌える

ところで続きはあるの?


133:またぎさん ◆ci0AGstyuc
08/09/27 11:02:12 E2SXnWCnO
秋だねぇ。服装も皆、落ち着いてきたし。でも、俺には季節感がいまいちなんだよなぁ。
「ってわけでどうにかならないものかね?」
俺は、病室の窓に寄り掛かりながら眺めていた通りからから隣に視線を移す。
『いや、いきなりなんなの?死ぬの?それとも、死にたいの?何で死ななかったの?』
先程から、俺の隣にずっと立っている季節感のない女。キャミソールとホットパンツなんて、夏真っ盛りな出で立ちで毒を吐いてくる。
「いや、死ぬわけないでしょ。一時期は、危うかったらしいけどね。ま、所詮はトラック。俺様の敵ではなかったのだよ」
『へぇ、右手足骨折に頭部強打による右半身マヒって、重体じゃない?』
「マヒは、治り始めてるよ。ってか、原因はおまえが俺のバイクの後ろに飛び乗ってきたことなんだけどな」
そう、こいつは幽霊。自縛だか何だか知らないが、俺に取り憑いたらしい。俺が、意識不明から目を覚ましたときに目の前で涙を流しながら覗き込んでいた。
『あ・・・いや、ごめんなさい。あんな酷い事になるとは、正直考えてなくて・・・えっと・・・ごめんなさい』
いやいや、そこは強気にまぬけとかツッコミで返してくれよ。
「気にするな。俺が、もともとスピード出し過ぎてただけだ。お前は、そんな俺に警告しようとしただけだろ?警察の人から聞いたよ。四年前にあそこで、スピードの出し過ぎで酷い事故が起きて、信号待ちしてた歩行者の女の子が亡くなったって。ありがとう。お前は、優しいな」
俺は、そう言ってそっと彼女を引き寄せて優しく頭を撫でてやった。まだ若くて、これから楽しいことが山ほどあっただろうに・・・辛いよな。
『・・・・・・ばか。勘違いしすぎだよ。私は、ただ触れる人間が珍しくて、取り憑こうとしただけだよ。ん・・・ねえ、あの時みたいにして』
俺の胸に頭を預け寄りかかる彼女の要求どうりに、そっと頬を撫で涙を拭ってやる。
それは俺が、目覚めた時目の前で涙を流す天使のような彼女を見て、初めにやってあげたことだった。
「・・・やばいな。離れられなくなったかも」
俺が、ぽろりと溢した本音を聞いたのか彼女は、俺の胸に顔を埋めてきた。
一応、肋骨も折れていて痛いのだが、それ以上に可愛すぎる。
『・・・ばーか、あんたが離れようとしても、私が放すわけないでしょ』

俺・・・落ちちゃった。

134:本当にあった怖い名無し
08/09/27 11:03:59 E2SXnWCnO
久しぶりに投下。

パソコンだと何故かdat落ち・・・にゃぜ?

135:本当にあった怖い名無し
08/09/27 11:10:09 UURxrqJ2O
一緒にお墓に入ってあげないんだからね!

136:本当にあった怖い名無し
08/09/30 20:34:05 ZNTQI4OK0
幼馴染のミレンは、この夏休みに、交通事故で死んだ。でも何故か俺を恨んでいるらしい。
俺は半分強引に誘われてバンドをやってるんだけど、録音した曲全てに『怨んでやる』と台詞をかぶせてくる。
そして今日、初ライブのリハーサルで事件は起きた。

突然電気系統が全て沈黙した。ただの停電じゃない。
『絶対許さないんだから』
スピーカーから流れてきた少女の、ミレンの声。何が起こったのかわからず戸惑うメンバー。
「何で俺を怨むんだ!?」
虚空に向かって俺は叫ぶ。呼応するように、部屋の中央に、ミレンの姿が現れた。
きつい目で俺を睨みつけ、同じ言葉を繰り返している。
『許さない許さない許さない』

「…その熱い想い、素晴らしいスピリチュアルを感じさせるぜ!!」
『許さな…い…!?』
「前から思っていたが、その声新曲のイメージにぴったりだ。ぜひとも俺たちのバンドに!!」
『…あの、あたし、あんたに取り憑いて―!?』
「そんなの関係ない!俺たちには、いや俺にはお前が必要なんだ!!」
『あ、え、いや、ちょ、ば、馬鹿っそんな急にかか考えさせて!!』
何故か顔を真っ赤にして、彼女は消えた。

「で、何で俺を怨んでるんだ?」
ライブをつつがなく終えたその晩。独りになった俺の前に再びミレンが現れたので聞いてみた。
『…だ、だって…』
「…だって?」
『だって…夏休み、一緒に遊びに行こうって、約束したの、忘れてるんだもんっ!!』
ああ、そういえば始めたばかりのバンド活動にかまけて忘れていた。
『絶対許してなんかやらないから!!』
「うん、一生取り憑いてていいよ…ミレンなら」

その後、彼女は覆面シンガーとなり俺達のバンドのメインボーカルとして活躍している。

137:本当にあった怖い名無し
08/10/01 22:54:11 gSi3UlqM0
うん、定義どおりにツンデレだね。

138:本当にあった怖い名無し
08/10/04 00:00:57 KcLIG8MVO
むぅ…ジーザス

139:本当にあった怖い名無し
08/10/04 08:15:43 qeBxXDzB0
まとめwiki更新乙

140:1
08/10/05 22:40:57 Z43vohfM0
俺の浮気が原因で、すったもんだの挙句に離婚。妻は離婚してすぐの頃に病気で他界。
妻との間には息子が一人いるが、親権は妻方。彼女の死後はその両親が息子を引き取り、滅多に会わせて貰えない。
尤も、俺も責任職にあって帰りの遅い日々が続くので、『父親だ』と大きな顔をする事も出来ないが。

やもめ暮らしを始めた頃からか。年に数回、数十分から数時間、俺の周りの電化製品が異常を起こす日がある。
最初は携帯電話だったが、今では家電製品は当たり前、先日は飲み屋街のネオン看板までが異常明滅を起こした。

原因はわかっている。
どの日も、誕生日や発表会など、息子にとっての重大イベントがあり、
俺がその事を忘れているか知らないかのどちらかの理由で、妻の実家―息子へ連絡を怠った時ばかりだった。
元来気の強い方だったが怒らせるとこちらが謝るまで、
家事はきっちりこなしつつも一切無言、且つ背中しか見せなくなる彼女は、
死んでからパワーアップしているらしい。

141:2
08/10/05 22:42:36 Z43vohfM0
今日も昼から夕方にかけて、家電製品が一斉停止した。
幸か不幸か日曜日。社会的影響は最小限に抑えられる。
アパート暮らしなので、他の家に影響が出ないように肌寒い雨の中、人気の無い公園で時間を潰す必要はあったが。
異常が収まった頃合に帰宅するとすぐPCを起動させ、今年一年生になった息子が通う小学校HPにアクセスする。
調べてみると、今日は運動会だったようだ。
と、突然ぶつん、とPCモニタが暗転した。部屋の照明もだ。
仕方ないので暫くそのまま待っていると、今回は僅か一、二分で回復した。
早すぎる事に逆にびくびくしながら照明を見上げると、何時の間にかそこに何かがぶら下がっていた。
妻の形見になってしまった、忘れ物のハンカチ。それで作られたてるてる坊主だった。
PCを再起動させ、もう一度小学校HPにアクセスし、よくよく確認すると、雨で運動会は翌日順延になったとある。
スケジュール帳を確認しようとしたら、見えない誰かにむしり取られた。
「わかったよ。無理にでも、一時間でも時間を作って応援に行くよ」
そう言うと、ぱちんと音を立てて、一度だけ照明が瞬いた。
『私は別にどうも思ってませんけど!あの子の父親は貴方だけなんですからね!』
だから会いに来いと、不機嫌に言いつつどこか気恥ずかしそうに振り返る生前の妻の姿を、ふと思い出した。

142:本当にあった怖い名無し
08/10/05 22:44:48 Z43vohfM0
彼氏に二股かけられた上に振られた。
とぼとぼ歩いていると、近所の神社に辿り着いていた。
人気の無い場所に来て余計に寂しさが募ったせいか、ポロリと、涙が零れ落ちそうになる。
ほぼ同時に、頬に、冷たいものが落ちた。

やや肌寒い雨降る秋の夜、雨に紛らせて涙を流した。

ふと、幼い頃に、雨が降る日だけ一緒に遊んだ男の子の友達がいた事を思い出す。
顔を上げると、御神木の枝の上に、その子によく似た男の子が腰掛けているのを見つけた。
彼はこちらに気づくことなく空を見上げていたようだけど、なんだか恥ずかしくなって、急いでその場を後にした。

そこに祭られているのは、降雨神らしい。

143:本当にあった怖い名無し
08/10/09 10:45:21 3k+LaS580
鯖転移で保守。

144:本当にあった怖い名無し
08/10/09 16:16:38 gRlxTHaQO
過去ログに~~~って表示されてびっくりした。

145:本当にあった怖い名無し
08/10/10 13:26:37 Jxh5mLvJ0
てす

146:本当にあった怖い名無し
08/10/10 16:45:54 o64IVWSd0
ところで最近モニタが消えたんでちょっと触ったら直ったんだが
後テレビもエラー出てたのちょっと触ったら直ったし

俺憑かれてる?

147:本当にあった怖い名無し
08/10/11 14:11:34 /u5/j2xPO
つくもがみ(笑)だとぼくはおもうよ

148:残酷校歌
08/10/12 19:18:03 oFAGtA0j0
※このコピペは、オカルト板、心理学板、日本史板に散布しています。


お楽しみのところすみません。ちょっと失礼します。すみません。

私の地元に「残酷校歌」なる都市伝説が存在しています。
内容としては「ある中学校で、気味の悪い詩を読んだ生徒が死んだ」という
何ということはないありふれた与太話です。

最近、この話が実話であると吹聴して回っている輩がいるらしく、
現地の中高生達(一部)がすっかり乗せられて「死んだのは誰だろう!?」だの
「呪いっぽいから自分に降りかからないかなあ!?」だのと真顔で話すという、
マスコミに弱いスイーツさんのような痛い姿をさらしています。

で、まあほっといてもよかったんですが、この都市伝説がでたらめであることを
証明して彼らに突き付けるのも面白いと思い、ブログを立ち上げて検証しています。
コピペを読んだ方で以下の条件に当てはまる方がおられましたら、よろしければ
ブログをご覧になるか、メールでお知恵をお貸しください。


◆オカルト板:都市伝説の生成、流布の過程に詳しい方

◆心理学板:心理学(とくに思春期の心理)に詳しい方

◆日本史板:応仁の乱に詳しい方(詩の中に「応仁」というフレーズが登場するため)


(ブログ名:残酷校歌)
URL: URLリンク(zankokukouka.cocolog-nifty.com) 
Mail: zankokukoukaあっとまーくyahoo.co.jp



149:本当にあった怖い名無し
08/10/13 08:19:13 YOa053ZYO
保守

150:本当にあった怖い名無し
08/10/13 11:15:59 ejKZzWmU0
うちのじいちゃん家、テレビは二台。
一台は普通。地デジ対応の大型テレビ。
もう一台はおんぼろ。
チャンネル変えるのにつまみをガチャガチャ回さないといけないタイプ。
古いテレビはじいちゃんでないと扱えない。
ばあちゃんや僕たちがいじっても、まともには映らない。
じいちゃんが、ニコニコしながら優しく撫でると、
我慢すれば見られるくらいの画像が映る。
じいちゃん一人の時は、もう一台のテレビに負けない綺麗さらしい。

151:本当にあった怖い名無し
08/10/13 22:10:52 ejKZzWmU0
>>146より妄想

最近取り憑いたコイツは0感。
ちょっと寂し…む、無視されるのがつまらないから、
仕方ない、あたしの事に気付かせてやるか。

とりあえず、あたしに出来る事は、と。
お、あたしが触ってるとパソコン動かないじゃん。
よぉし、このままこれで焦らせてやる。
…って、え、や、ちょっ…!?
…び、びっくりした。もう少しでアイツの手があたしの手に触れそうに…。
っていやいやあたし!逃げちゃダメじゃん!
んー、仕方ないなぁ、今度は、うん、テレビにしよう。
リモコンだから触られないよね。
…って、何でこっち来るの??
あの、えと、あぅ、やだっ!!

……また逃げちゃった。
アイツ、わかってやってるわけじゃないんだよね?
…えと、悔しいからまたチャレンジするんだから、うん。

152:本当にあった怖い名無し
08/10/14 09:48:32 +6uJyiauO
乙一の「しあわせは子猫のかたち」が、ツンデ霊だと思うのだがどうだろうか?

153:本当にあった怖い名無し
08/10/17 23:48:43 F5oz+CGXO
…まとめwiki更新…ふんっ///だっ誰がお礼なんて…///    ……アリ…ガト

154:本当にあった怖い名無し
08/10/19 01:56:47 K7ujO4w/0
遅いがな

155:本当にあった怖い名無し
08/10/21 01:33:42 RGS0jnQI0
まァそう言うな
>>153も言おうかどうしよか3日悩んでようやく言う気になれたんだろう
その気持ちを汲んでやろうじゃないか

156:本当にあった怖い名無し
08/10/21 10:52:41 LENtVL/n0
空気読めない俺。
前スレで書いた霊刀霞さんの新話を書いた。
相変わらずの無駄な長文三文小説だが、今から投下する。
20レス程消費する予定。

157:1
08/10/21 10:56:09 LENtVL/n0
年経ると、動物や自然物、人工物にも魂が宿ると言う。
彼女もそういった存在だ。日本刀に宿る魂、名を霞という。
縁あって、現在は隆弘という少年と行動を共にしている。

「…で、あれが信号。交差点で車や人がぶつからない様に、進めとか停まれとか合図するもの」
盆を過ぎたとある夏の朝。まだ日の出前だが、ウォーキングやペットの散歩など、出歩く人はそこかしこに見られる。
その中に、周囲からはやや浮き気味に、隆弘と霞の姿もあった。
少年はTシャツにトレーニングパンツという特におかしな所の無い服装だ。
一方傍らの凛とした美女は、着物に袴という時代劇から抜け出したような格好である。
だが誰一人として彼女に視線を向ける事はない。
その姿は少年にしか見えていないからだ。
少年が浮いている理由は、片手に携えた中身入りの太刀袋と、独り言にしてはかなり大きい声。
すれ違う際にあからさまに距離をとる者も少なくない。

158:2
08/10/21 10:57:43 LENtVL/n0
『隆弘。何故そこかしこのものを一つ一つ説明しているのか』
「だって霞さん、まだ今の時代の事よく知らないんでしょ」
『うむ』
「だから説明しようかなって」
人のよさそうな笑顔の隆弘に対し、無愛想な態度で返す霞。実際は、彼女の方がかなり周囲を気にしていた。
『拙者は他人には見えぬ。もう少し声量を落とした方が良いと思われるが』
「…そう?」
今一わかっていない少年に、美女はやや困惑気味に柳眉をひそめた。それからふと思い出して言葉を続ける。
『それに、拙者は、同調すれば相手と記憶を共有する事もできる』
先頃はその同調―簡単に言えば憑依―によって共に強敵を退けた。だからこそ、それ程深くは考えずに思い付きを口にした。
「ふーん」
彼女の言葉にちょっとだけ意外そうに霞を見る少年。先ほどまでの笑顔は消えている。
「でも僕そういうの嫌だな」
『―!む、無論記憶云々はまず相手の同意があってからの話だ』
慌てて取り繕う。内心は後悔の嵐だが、武士たるもの無闇に感情を顕にしてはいけないと自制しているので、結局無愛想になるしかない。
「そう?」
『そうだとも。拙者は武人だからな。そのような無礼な振る舞いはせぬ』
それ程厚みのない胸を張ってみせると、納得したのか少年の顔に笑顔が戻った。
霞も、つられたように表情を緩めかけ、それに気付いて慌ててそっぽを向く。
『と、兎に角だ、説明は有難いのだが、もう少し周囲を気にした方がよい』
「んー、難しいなぁ。僕からすると霞さん、普通の人と変わらないから」
『そ、そうか』
無表情を装いつつも、少年が自分を生きている人間と同様に扱ってくれる事が、経験の少ない霞には嬉しい反面非常に気恥ずかしい。
よく見れば、頬が朱に染まっているのがわかる。
のだが。
「あ、じゃあ、幸樹呼ぼうか。二人なら会話してるように見えるし」
『…え、と?』
思い付きを即行動に移す少年に、虚を突かれた霞は対応出来なかった。
「あ、これ、携帯電話。遠くの人と話が出来る道具。―あ、おはよう幸樹」

159:3
08/10/21 10:59:22 LENtVL/n0
爽やかな笑顔の少年と仏頂面の連れ達は、揃って大きな家の門をくぐった。隆弘の生家、地元ではかなりの名家である。
「ああ、走るの久しぶりだったけど気持ちいいね」
「そうかい」
小一時間ほど汗を流し、そろそろ気温も上がり始めたので引き上げてきたところだ。
玄関を上がると、連絡を受けていた隆之の母親が苦笑交じりに出迎えた。
「あらあら幸樹君、何時も御免なさいね」
「慣れてるんで」
「朝ご飯食べてってもらうから」
「はいはい、準備してありますよ」
そのまま居間に移動した。暖かい純和風の食卓を囲んで三人が談笑しながら食事する間、霞は所在無さげに縁側に腰を下ろしていた。
霞の事は、母親には内緒にしてある。余計な心労をかけるだけだと霞本人が引き止めた。
自分で申し出た事とは言え、こういう状況は酷く孤独に感じてしまう。
やや俯き加減になっていたのだが、ふと、何か気配を感じて振り返る。
居間を挟んだ廊下の向こう側で、何者かがこちらを伺っていた気がしたのだが。
「幸樹君、どうしかした?」
母親の声に意識を戻す。霞と同じ方向を、幸樹も何故か不満げに伺っていたようだ。
「…いや、何でもないです」
そう言って食事を再開する幸樹。不思議そうに顔を見合わせたものの、親子は特に追究することもなく、再び世間話に戻った。
そんなこんなで食事が終わる頃になって、そうそう、と母親が切り出した。
「お願いがあるんだけど」

160:4
08/10/21 11:01:33 LENtVL/n0
朝食が済むと、三人は敷地内にある蔵に向かった。
母親の頼み事―前日に隆之の従兄がTV番組に出場するのだと言って蔵の中を物色して行ったのだが、その後片付けをするためである。
確かに蔵の中は、事情を知らない者が見たら泥棒に入られたと思われる程に荒らされていた。
ぶつぶつと文句を垂れながら、床に乱雑に置かれた古民具等をひょいひょいまたいで奥に進む幸樹。
「くそ、とっとと片付けるぞ。お前ん家、長居すると碌な目に遭わないからな」
その言葉が終わらないうちに、ぱこん、と小気味いい音が響いた。どこからともなく降ってきたダンボール箱が、幸樹の頭に着地した音で

ある。
「…くっそー」
頭を押さえつつ空箱を蹴飛ばす親友を不思議そうに見ていた少年だが、傍らの美女は得心が行ったという風だ。
『どうやら幸樹殿は、霊媒体質のようだな』
「れいばい?」
『霊的な干渉を受けやすいと言う事だ』
「ふうん」
そんな話聞いたこと無いなぁと呟く少年を背に、霞は油断無く闇の向こうを睨みつけていた。
小さな影が一つ、闇の向こうに消えるのを見たからだ。

161:5
08/10/21 11:02:39 LENtVL/n0
二時間で荒らされた蔵を片付けるのに、結局半日近くかかった。
幸樹の頭に、空箱や蛇や古本や古着が降った以外には特におかしな事はない。
「ご苦労さん」
「二度とやらん」
隆弘の倍は埃まみれになっている若者は、差し出された麦茶を受け取り、何故かそのまま固まった。
「幸樹?」
何事かと顔を覗き込むが、幼馴染の表情は完全に不機嫌な状態だ。
よく見るとグラスを握る腕はかなり力が入っているのか、筋や血管が浮き上がり小さく震えている。
霞には、その腕に幼い子供―ただし、額からは角が生えている―が二人、楽しそうにしがみつき、ぶら下がっているのが見えていた。
『これ、童。悪戯が過ぎるな』
呆れつつも手刀で薙ぐように払うと、幼児は威嚇の為か歯をむき出しつつも慌ててとび離れた。
と同時に突然枷を外された腕は勢い余って振り上げられ、グラスの中身を己の頭にぶちまけてしまう。
「糞餓鬼が」
壊れそうな勢いでグラスをテーブルに置く幸樹。だが何が起こったのか今一解らない親友に説明するつもりはないらしい。
『どうやらこの家には良くないものが居るようだ』
代わりに厳しい顔で霞は告げた。

162:6
08/10/21 11:04:04 LENtVL/n0
先にシャワーでさっぱりとしてから、三人は隆弘の部屋に移動した。
ベッドには隆弘、幸樹は床に直接座り、霞は専用に用意されている座布団に正座する。
大まかに霞から説明を受けたものの、少年には今一実感がわかないらしい。
「視えるの?」
不思議そうに、幼馴染に問いかけた。
「視えん、聴こえん。触れられたり気配を感じたりはするが、いつもガン無視してやる」
アイスバーを頬張りながら、未だ怒り収まらないのか鼻息荒く言い切る幸樹。
「霞さんの事は?」
「同じだ。普通じゃないって感覚だけわかる」
『要するに常人より勘が鋭い程度で収まっておると言う事か』
霞がまとめたが、それでも納得がいかないのだろう。首を捻っている。
『それより今回の事象に心当たりは?』
「守り神様かなぁ?」
『何者だ?』
少年の呟きを、霞は鋭く聞き咎めた。
「守り神様は、家の守り神様だって聞いたよ」
「説明になってねぇ」
返す言葉を失った美女の代わりに突っ込む幸樹。
「だって、僕はそうとしか聞いてないからなぁ」
『幸樹殿は何か気付いた事は?』
天然についていけないのか複雑な面持ちで視線を移す霞。同様に隆弘が顔を向けた事で漸く、若者は自分が何か問われていることに気が付いた。
「説明を端折るな。聴こえねぇつったろうが」

163:7
08/10/21 11:07:04 LENtVL/n0
広い屋敷の一角、普段は使われていない別棟にある廊下。雨戸も締め切られたままになっているため、かなり暗い。
「餓鬼の頃、ここで散々酷い目に遭わされた」
「ああ、家の中で神隠しに遭ったっけ」
思い出に耽る二人をさておいて、霞は辺りを伺った。
成る程、廊下の突き当たりに鬼門が口を開けている。そこから子鬼が出入りを行っているのも見えた。
『隆弘、同調してもらえぬだろうか』
「あ、うん」
少年は刀を鞘から抜き放つ。
親友に見守られる中、刀身から放たれたほんのりとした輝きは青いオーラとなり、炎のように少年の体にも移り、全身を覆う。
『視えるか』
「うん。凄いねぇ。大きな穴が開いてる」
『塞いでおこう。やり方はわかるな?』
「大丈夫」
返事をすると同時に少年から穏やかな雰囲気が消失した。代わりに放たれる心地よい緊張感に高揚したのか、白刃が微かに震える。
若武者は正眼に構え、鋭い呼気と共に一撃を放った。青い輝きが通り過ぎた直後、闇はにじむようにかき消える。
「ご苦労さん。じゃ次行くか」
『何!?』
「まだあるの!?」
「何故か知らんが、前来た時よりは増えてる感じだな」
面倒臭そうに頭を掻く幸樹。仕方ないねと嘆息しつつ、隆弘も刀を鞘に納めると、歩き出した。
もう一度鬼門のあった辺りを見やってから、霞も追従する。
と、幸樹の肩からきらりと流れる光の筋が見えた。近寄って確かめてみたが、蜘蛛の糸が風に揺れているだけだ。
『…まぁ無理もないか。ここも長い事手入れされておらぬようだし』
ほんの少し違和感を感じたが、気にするほどの事ではあるまいと、放置した。

164:8
08/10/21 11:09:19 LENtVL/n0
幸樹の勘だけを頼りに回る為、三箇所目の穴を塞いだ頃には、太陽は西の稜線に差し掛かっていた。
「これで一旦帰るわ」
早朝から動き通しの為、さすがに疲労が顔に表れている幸樹。「泊まってく?」という隆弘に「嫌」と即答し、さっさと屋敷を後にした。
「幸樹でも疲れるんだねぇ」
『小鬼に絶えずちょっかいを出されておったし、余分に気を消耗したのだろう』
こういう時には妙に目端の利く少年は、美女の姿が何時もより朧げになっている事にも気付いていた。
「霞さんも今日はありがとう」
『む…別に、取り立てて礼を言われる程の事はしておらぬ』
が、彼女が慌ててそっぽを向く理由には何故か思い至らない。真っ赤になった顔を見られまいとしていただけなのだが。
「霞さんって幸樹に似てるよね、ぶっきらぼうなとことか」
『…ぅぁ…』
霞は言葉を失うしかない。意図通り顔は見られていないようだが誤解されるのもと言うか何故比較対象にあの男…と内心はかなり複雑だ。
だが、ふと嫌な気配を感じて顔を上げた。
ほぼ同時に玄関横の部屋の襖が開き、奥から人影が現れた。隆弘の母親だ。淡い色のスーツを身にまとっている。
「あれ、母さん。出かけるの?」
「ええ」
いつものやわらかい笑顔で、けれどどこかしら感じる違和感。
霞が警告するべきか悩む間も、母親は言葉を続けながら少年に近づいた。

165:9
08/10/21 11:13:26 LENtVL/n0
「母さん婦人会に行くから」
「うん」
少年は、完全に油断していた。脇を通り過ぎる女性から、つ、と伸びた手に左手を掴まれても反応できなかった。
「『だカラ、アソボウ?』
勢いよく捻りあげられた腕から、ごきりと鈍い音が響く。
突然の激痛に思わず取り落とした刀を、母親は笑顔のまま玄関の三和土まで蹴り飛ばした。
「母、さ、ん?」
『違う!』
霞の声は、悲鳴に近い。
品の良い中年女性の華奢な体躯が内側から盛り上がり、弾けるように一瞬で掻き消えた。
代わりに現れたのは、廊下の幅一杯を占める程の屈強な巨体。頭に生えた緩やかに湾曲する角は、天井にこすれそうになっている。
にたにたと下卑た表情で嗤う鬼は、少年をそのまま宙吊りにすると、もと来た場所―玄関横の部屋へ戻るべく向きを変えた。
開いた襖の向こうには、光の届かぬ穴が口を開けていた。
『手を!』
短い言葉が示す意味を一瞬で理解し、少年は僅か先に立つ美女に向けて拘束されていない手を伸ばす。
触れれば、同調すれば、使用者の手を離れている刀でもある程度まで移動する事ができる。
だがそれより早く、闇の中から無数の手が伸びて少年を絡めとった。
『隆之!』
霞が必死に伸ばした手は、虚しく空を掴んだだけだった。

166:10
08/10/21 11:14:48 LENtVL/n0
『どうしようどうしようどうしよう』
立ち竦み、唇を噛み締める。使用者が居ない今、霞はその場から動く事さえ儘ならない。
悔しさと不安と自身に対する怒り。零れる筈のない涙で視界がにじむ。
と、突然背後で玄関が開いた。残党がいたかと慌てて身構える。
「携帯忘れた」
『幸樹殿!』
先ほど帰ったばかりの若者の姿を捕らえ、美女の表情に光が差した。
何時もなら邪魔な存在としか思えないのだが、今回ばかりは唯一の助け手の登場に、僅かながらの安堵を覚えた。
一方の幸樹は、床に投げ出された刀に気付き、それから辺りを見回して親友の姿がないのを確認する。
どうやら自分が居ない間に良くない何かが起こったらしい。瞬時に理解し、盛大に溜息をついた。
若者が状況を知る為の手っ取り早い手段は、お互い良く理解している。
「触るけど怒んなよ」
『緊急だ、致し方ない』
幸樹は刀の柄を握ると、刀身を鞘から引き抜いた。

167:11
08/10/21 11:17:20 LENtVL/n0
踏み込んだ時には既に襖の向こうに開いていた筈の鬼門はどこにも見当たらなかった。
『く、閉じられたか』
頭の中だけで響く声はかなり大きく、幸樹は顔をしかめた。
「俺等どんだけ相性良くないんだろうな」
『下らぬ事を言っておる場合か!』
怒りをあらわに幸樹を睨みつける美女だが、その姿はすぐ傍だというのに若者の目に映っていない。
『くう、厄介な』
ほぼ完全な同調状態―その気になれば使用者の体を霞の意思のままに動かす事も出来る―になっている筈だが、この男が言う通り余程相性が悪いらしい。
「そういやアイツ携帯持ってってるよな」
『何をしておるか!?』
屋敷奥へ向かう若者を制することすら出来ない。
「心配すんなよ、ちゃんと探してやるから…―とあったあった」
隆之の部屋に忘れていた携帯電話を見つけると、幸樹は早速ボタンを操作した。
「餓鬼の頃、携帯持ってりゃなー、と思ったもんよ」
通話口から続く呼び出し音。
ふと、聞きなれない音が微かに響いている事に霞も気が付いた。
「…仏間か?いや、あそこか…?」
『…?』
勝手知ったる何とやら、幼い頃から遊び場だった屋敷を迷うことなく進む若者。
微かだった音が次第にはっきりとした旋律を伴い、やがてある部屋の前に到達した。
「開かずの間。守り神様の部屋だからだとさ」
説明しながら襖を開けて中へ入る。
八畳ほどの部屋は手入れが行き届いていた。
明かりはなく、雨戸も締め切られているが、小さな光を伴いながら軽快な音楽を発する携帯電話はすぐに見つかった。
奥のほうに設置されている祭壇の前だ。
そして、そこにも鬼門が一つ、深い闇の口を広げていた。

168:12
08/10/21 11:20:21 LENtVL/n0
上も下も塗りつぶされた闇の中を、二人は早足で進む。
この穴は鬼達に使われていないのだろうか、今のところ何の気配もない。
『守り神とやらが、手助けをしてくれているのだろうか』
我ながら楽観的な事を言っていると自嘲していたが、返ってきた返事は「そうかもな」というものだった。
『幸樹殿は守り神に会った事が?』
「…あれを神様と呼ぶにはちと抵抗があるが」
嫌な事を思い出したというように渋面になる若者だが、霞にとってはそれは隆弘が助かる可能性が高いという朗報だった。
『急ごう』
「…あんま期待しない方がいいぞ」
急かす霞だが、幸樹の方は今一足取りが重い。
やがて突然視界が開けた。より広い場所へ到達したのだ。
無数の鬼が思い思いに蠢いている様子から、どうやら鬼の住処らしい。
『まずいな、一旦退いて身を隠すべきだ』
その言葉が終わらないうちに、見張りだろう一頭の鬼がこちらに気づき、大声で吼えた。
鬼が、いっせいに振り向いた。

169:13
08/10/21 11:24:06 LENtVL/n0
「おぅわっ!」
辛うじて体を捻るのが間に合った。風を切る音とともに、丸太のように太い腕が幸樹の脇をかすめていく。その風圧だけで体が流されそうになるが何とか踏みとどまった。
『体を貸せ!全て切り伏せる!』
「そんなほいほい貸せりゃ苦労しねえよ!」
襲い掛かってくる鬼に対してなりふり構わず刀を振り回す幸樹だが、剣術に関して素人なのはすぐに見透かされ、威嚇にもならない。
あっという間に取り囲まれてしまう。
『ならば、仕方ない』
(何だ!?)
声の響きに感じた違和感に、幸樹の背筋に悪寒が走った。戦いの最中だというのに手中に視線を走らせる。
刀身からゆらゆらと立ち上っていたオーラが、染み込むように消えていくのが見えた。
異変を好機と見たのか、鬼が数体まとめて襲いかかった。振り上げられた鋭い鍵爪が到達するまさにその瞬間。
凄まじい旋風のように白刃が閃き、赤い飛沫を伴いながら鬼の体を寸断した。
一瞬たじろいだ鬼達だが、すぐに数に任せて猛攻を開始した。それらを若者は先程までとは別人のような滑らかな動きで切り伏せる。
鬼を見据える瞳の奥で燃える青い輝きは、先ほどまで刀身から放たれていたものと同質だった。
(あー糞、冗談じゃねぇぞ)
頭の中で微かに響く声。
「許せ、隆弘を救うためだ」
幸樹の唇から紡がれたのは、女の―霞の声だった。
そのまま鬼の屍を越えて駆け抜けた。さざめく鬼の垣を切り払い、さらに奥へと向かう。
視線は少年の姿を求めて彷徨っていた。

170:14
08/10/21 12:36:36 LENtVL/n0
完全に憑依した状態が負担をかけているのは明らかだった。若者の顔が見る見る憔悴していく。
「長くは保たぬか」
焦りは隙を生むとはわかっているものの、このままでは鬼の巣の中で力尽きてしまうのは明らかだ。
その前に隆弘を見つけ出したいのだが、肝心のその姿は何処にも見当たらない。
既に、鬼の手に掛けられてしまったのだろうか。
(もう少し冷静になれよ)
「わかっておる!」
不安を紛らわせるためか、ぎしりと音を立てそうな勢いで奥歯を噛み締める霞。
そのまま横に凪いだ刃は、鬼の体にめり込んだものの背骨を断ち切ることが出来ずに止まった。
引き抜く為に僅かに動作が遅れた。
鬼が、一斉に飛び掛ってきた。

突如上空から白い糸が降ってきた。投網のように中空で広がり絡み合い、あたり一面を覆い尽くす。
もちろん中心で暴れていた霞と幸樹とて例外ではない。だが、纏わり付こうとしたそれは、鬼に対して構えていた一刀で辛うじて切り払えた。
「これは…蜘蛛の糸、か?」
通常の数十倍の太さを備えるその糸は、高い粘度を備えていた。一度捕らえられてしまうと、逃れるにはかなりの時間を要するだろう。霊刀とは言えそれを切れたのは幸運に近い。
『暴れてるのは誰だろうねぇ』
上の方、糸が放たれた辺りから女の声が響いた。糸に絡め摂られた鬼達が、一斉に悲鳴を上げる。
『新手か』
身構えようとする霞だが、幸樹の反応は鈍い。より正確に言えば、再び自律行動を取り始めていた。
『幸樹殿?』
「来た来た来た来た」
顔を引きつらせてじりじりと後ずさる。
そうしている間にも、粘つく糸を音もなく伝い、声の主は現れた。
霞よりもやや年上の、肉感的な美女だ。
身に着けている色鮮やかな着物は胸元が大きく開いており、ただでさえ豊かな乳房がこぼれそうになっている。
同様にはだけているへその辺りから下は、八本の足と、黄と黒の縞模様の巨大な腹、巨大な女郎蜘蛛へと変わっていた。

171:15
08/10/21 12:38:23 LENtVL/n0
『煩いのは嫌いだと、言っておいた筈だがねぇ?』
さも面倒臭そうに、長い黒髪を掻き揚げながら蜘蛛女は辺りを見渡していた。
『黙レ!此処ハ元々我等ノ住処!!我ノ封印ガ解カレタ今、貴様ノ好キニハサセヌ!』
女の言葉に反応したのは、少年を連れ去った大鬼だった。どうやら群れの頭らしい。網の範囲内からぎりぎり外れた場所に一頭だけで立っていた。
その姿を見た瞬間に飛び掛かろうとした霞だが、幸か不幸か既に体の主導権は幸樹が完全に取り戻している。
仮に霞の意思通りに動けたとして、周囲を覆う蜘蛛の糸に足を捕られて三歩も進めなかっただろう。
霞達を気に留める事も無く、鬼と蜘蛛女のやり取りは続いていた。
『アノ小僧ヲ殺セバ祭ル者ノ血ハ絶エル!サスレバ貴様モ力ヲ失ウ!』
『ふぅん、そう。で?』
『グゥ…!!』
鬼と蜘蛛女は対立しているらしく、そして優位に立っているのは明らかに蜘蛛女の方だった。
『隆弘は何処だ!?』
割って入る形で大声で霞が問いかけると、大鬼はすさまじい形相のままこちらを睨みつけてきた。
蜘蛛女の方も、何故か不機嫌そうに霞に視線を移す。
『何処だ!』
重ねて問いかけると、大鬼ではなく蜘蛛女の方が動いた。
右手を上げ、指先をちょいちょいと動かすと、糸に支えられた少年がおろされてきた。
妖艶な美女は、気絶しているのだろう、ぐったりしたままの少年を両手で受けとめ、胸元へ抱き寄せた。
『鬼共が嬉しそうにしてるんでねぇ、ちょいと横から拝借してやったのさね』
蠱惑的な笑みを浮かべて、少年の髪に白い指を絡める蜘蛛女。
「うあっつ!」
突然の静電気に、幸樹は思わず刀を取り落としそうになった。
気が付くと正面に、ぼんやりとした女侍の背が見えていた。

172:16
08/10/21 12:40:23 LENtVL/n0
その場を支配する雰囲気は、先程とは明らかに変化した。
ぴりぴりと張り詰めた空気に、幸樹のみならず網から逃れようともがいていた鬼達さえも、息を殺して身じろぎすらしない。
唯一、空気に呑まれたのかやや遠慮気味にではあるが、主導権を取り戻そうと大鬼が声を上げた。
『ソノ小僧ヲ寄越セ―』
『黙れ』
『お黙り』
二人の美女に同時に睨まれ、慌てて口をつぐむ。
周囲の状況を他所に、美女達は再度向き直った。
『守り神とは貴女の事か』
一切の表情を消して蜘蛛女を見据える霞。
一方の蜘蛛女も、口元には笑みを浮かべているものの、瞳の底は底冷えするような冷たい光を帯びている。
『知らないねぇ。巣の端の上に住んでいる人間が、勝手に祭っているみたいだけど』
『では、其の者に用は無いな?ならばこちらに引き渡して頂こう』
『あんたに渡さなきゃいけない理由は何処にもないねぇ』
『いいや』
霞は決意を確かめるように一瞬目を伏せた後、真っ直ぐに、少年の姿を見つめた。
『拙者は隆弘の守護者だ。証明する者も居る。―…幸樹殿?』
「ああー、はいはい」
やや他人事風に返事を返す若者に微かに眉をひそめながら、霞は蜘蛛女に視線を戻した。

173:17
08/10/21 12:42:25 LENtVL/n0
『…ふぅーん』
つまらなさそうに鼻を鳴らすと、蜘蛛女は名残惜しそうに指先を這わせつつも、素直に少年を地へ横たわらせた。
『何をしておる幸樹殿。早く隆弘を背負わぬか』
「俺疲れてるし、乳魔神に担いでって貰えばいいj」
『いいから早くせい!!』
(うわメンドクセー)
内心毒づきながら少年の元へ向かう。覚醒を期待して軽く揺すってみたが、それは叶わないらしい。仕方なく背負う。
その間も、二人の美女の対峙は続いていた。
『まだ随分とお若いようだけど?鬼如きにさえ遅れを取る様なお嬢ちゃんに、守護者なんて務まるのかねぇ?』
『ご心配無く。足元で騒がれて漸く気が付くご老体とは違います故』
『そうかい。それならここいらの土地の守護もお嬢ちゃんにお任せした方がいいかも知れないねぇ?』
『それ程には拙者は厚かましくはありませぬ』
(色々ツッコみてぇが口出したら死ぬだろうな)
『…ほほほ』
『…ふふふ』
表面上はにこやかな笑顔の美女達に挟まれた形で立つ若者は、ただ早く帰宅したいとそればかりを願っていた。


三人が鬼の巣を立ち去った直後。
『あんな小娘に、縄張りにずかずか踏み込まれてるなんて、あたしも鈍ってるわねぇ』
ぶつぶつと独り言ちながら、妖艶な美女は大鬼の前に降り立った。
『あんたもとっとと逃げればよかったのにねぇ』
細い細い、正しく蜘蛛の糸と呼べるそれで強靭な足を捕らえられ、逃げることが出来なかった大鬼が口を開く前に。
新たに放たれたしなやか且つ鋼を凌駕する強靭さを備えた糸によって、その場に居た全ての鬼は一瞬で絶命した。

174:18
08/10/21 12:45:31 LENtVL/n0
翌日。
「霞さんから聞いたよ。幸樹、いつも迷惑掛けてごめん。後、ありがとう」
『今回は拙者からも礼を言う。かたじけない』
「って霞さんも言ってる」
『…わかったから、寝かせてくれ…』
外はまだ日の出前。前日の騒動の疲労もあり、幼馴染は着信には何とか応じたものの沈没寸前らしい。
「いいけど、携帯は切っちゃ駄目だよ。昨日言ったよね?霞さんと会話するの誤魔化さなきゃいけないんだから」
『…あー…んん……』
通話口から寝息が聞こえ始めた携帯電話をホルダーに納め、イヤホンマイクを装着し、少年は門をくぐって外へ出た。
『本当に、腕に異常は無いのか?』
「うん。ほら」
心配そうな霞に対して、少年はやや大げさにくるくると左腕を回してみせる。
先晩に鬼によってありえない方向へ捻じ曲げられた筈の腕は、全く問題なく動いていた。
『問題が無いならばそれで良いが』
「守り神様が治してくれたんだよ」
にこにこと無邪気な笑顔を浮かべる少年。
霞は、やや不満げな様子である。
『それで、隆弘はあの守り神…殿とは』
「そうそう、結局僕だけ見てないんだよね、僕ん家で祭ってる神様なのに。お礼言いたいのになー」
『そう、か。そうだな』
邪念など微塵も感じさせない少年らしい言動に、美女は無意識に頬を緩めた。
ふと気が付くと、少年がじっとこちらを見つめている。
『何か?』
「ううん、何でもないよ。ちょっと良い事あっただけ」
そう言ってにっこり笑う。霞は不思議そうに首を傾げていたものの、嬉しそうな少年に「そろそろ行こうか」と声を掛けられると、穏やかな笑顔で頷いた。

175:余分な19
08/10/21 12:47:56 LENtVL/n0
「…彼女?」
幼馴染に向かって、漸くそれだけ言葉をつむいだ。
「殴っていいか?いいか?いいな?」
「うーん、嫌」
幸樹が怒っているのはいつもどおりだから、大した事は無いんだろうと、隆弘は勝手に納得する。
霞も、複雑な表情で二人を見上げていた。
『そこで何をしておるのか』
『ほほほ、確かでぇと?でぃえと?と言う、のよねぇ?』
「絶対違う!」
かさかさと音を立てる巨大な蜘蛛の足は、重力を無視しているかのように逆さになったまま信号機をしっかり捉えている。
早朝の薄暗がりの中、ランニング中の二人の前に現れたのは、身体の半分近くを糸で巻き取られた若者を両腕に抱えた蜘蛛女だった。
「これは当て付けという行動であqwsでrftgyふじこlp」
『ほ、ほほほほ、照れてるなんて可愛いわねぇ』
ちらちらと少年の方を伺いつつ、余計な事を言えないようにと抱きつく振りをして若者に更に糸を巻きつける蜘蛛女。
「…んーと」
困ったように霞と顔を見合わせる隆弘。
「放っといてもいいのかな?」
『でーととは仲睦まじい男女が行うのだろう?本人がそう言っておるのだから問題あるまい』
「うん、そうだね」
『あ、ちょ』
「あ、でも、他の人もびっくりするから、人間に化けられるなら下を歩いた方がいいと思うよ」
邪魔しちゃ悪いから、そう言ってさっさと立ち去る二人を蜘蛛女は未練がましくも見送るしかない。
(絶対殴る)
ぎりぎりと歯軋りしながら心に誓う若者。
遠くの山の頂が、朝陽を反射して明るくなりつつあった。

176:本当にあった怖い名無し
08/10/21 12:52:55 LENtVL/n0
これで心残りは無くなった。
後悔はしてない。

177:本当にあった怖い名無し
08/10/21 12:57:44 egdn/KLTO
乙!

178:本当にあった怖い名無し
08/10/24 04:03:50 p0HhjIVm0


179:本当にあった怖い名無し
08/10/24 21:25:03 4gbnQY8f0
私は死神。
今日も寿命の尽きかけた人を探す。
Mr.フラグは成績の悪い私に簡単な仕事を回してくれるけど。

「もうすぐ子供が生まれるんだ」
そう話す若い消防士。
Mr.から紹介された、今日のターゲット。
彼はその晩の出動で、業火に巻かれて道を失う。
私は彼を炎の中から放り出した。


勘違いしないで。
私にもプライドがあるの。
予定外の仕事はしない主義なだけ。
べ、別に彼がすっごく幸せそうに話してるから気持ちが揺らいだとかそんなのじゃないから。

180:本当にあった怖い名無し
08/10/27 19:02:38 Sh7mHpX70
ほしゅのじかんです

181:本当にあった怖い名無し
08/10/28 23:36:41 ghMCP7Sj0
わかりました

182:本当にあった怖い名無し
08/11/01 23:58:36 yslBB3X00
一応保守。

183:1
08/11/02 01:31:08 ADwIx/zr0
何が起きたのか、最初全然わからなかった。
友達も、先生も。あたしの事を急に無視するようになった。
パパとママも、あたしの事を無視しだした。そのくせ、あたしの部屋に来ては泣くんだ。

何て言うか。
あたし、自分がもう死んでいるって事に気が付くまでにすごく時間が掛かっちゃった。
だから、家族とか友達とか、誰もがあたしを無視するって事がすごくショックで。
最初は何で?どうして?って一生懸命話しかけてたけど、だんだん八つ当たりというか。
うん、怒ってると影響与えられたみたいで、物投げつけたり、人を突き飛ばしたりしてた。
彼に出会った頃には悪霊になりかけてたんだと思う。

184:2
08/11/02 01:32:02 ADwIx/zr0
その頃やってたのは、急に道路に飛び出す事。
通学路の途中の交差点。交通量はそれなり。
たまたまそこの交差点で飛び出した時、さすがに周りの人も驚いて反応してくれたっていうのがきっかけ。
でもまたすぐに、全員であたしを無視するんだけどね。
それでも、反応あるのが嬉しくて、ちょくちょく飛び出すようになった。
けが人が出ても、無視される怒りもあって、ざまあみろって風にしか思えなかった。
罪悪感は消えかかってた。

彼はバイクで走ってきた。
あたしが飛び出すと、避けようとして慌ててハンドルをきって、バランスを崩してそのまま転倒。
転んだ姿を見てあたしは笑ってた。
怪我しなかったんだろうな。彼はすぐに起き上がった。
普段なら、きょろきょろあたしを探す感じに見回した後で、すぐに発車するんだけど。
彼は、まっすぐあたしの方に顔を向けた。
肩をすくめて、フルフェイスのヘルメットのまま、あたしの方に近づいてきて。
「おまえ、何?こんな事して何が楽しいの?」
はっきり、あたしに向かって、そう言った。
無視されだして結構時間が経ってた。やっとあたしを無視しない人に出会った事が、逆にショックで、怖くて。
あたしは、夢中で逃げた。

185:3
08/11/02 01:33:07 ADwIx/zr0
暫くは家で、自分の部屋で大人しくしてた。
でも何日かそうして過ごしてるうちに、彼のことが気になりだした。
皆が無視するのに、何であの人だけあたしの事、ちゃんと見たんだろう?
そんな事考えてて、気が付いたらあの交差点に向かってた。

前に事故があったらしくて、いつも花が置かれてる場所がある。
彼はそこにいた。バイクを脇に止めて、缶ジュースをそこに置いてた。
会いたかったけど、実際前にするとやっぱり怖い。
ちょっと離れた所でどうするか迷ってたら、彼に気付かれた。
やっぱり彼は、あたしの事、無視しようとはしなかった。
勇気を振り絞って、恐る恐る近づいてみた。

「え、と」
何話せばいいのか判らない。
下向いて暫く黙ってたら、思いっきり溜息吐かれた。
「人をこかしといて謝罪も無しかよ」
怒ってるっていうより呆れてるって感じかな、今考えると。
でも微かに残ってた罪悪感と、いきなり文句言われた事で、つい、反発してしまった。
「あんたがぼぉっとしてるから、悪いんでしょ!?」
ばーっとまくしたてて、それから湧き上がる後悔。
恥ずかしさとか怒りとかそんなこんなで頭の中が真っ白になって。
「あんたなんか大っ嫌い!!」
結局また逃げ出した。

186:4
08/11/02 01:34:11 ADwIx/zr0
交差点で事故を起こすのはあたしにとって存在確認みたいになってたんだけど、彼に出会ってからはそれが出来なくなった。
彼がちょくちょくそこの交差点に現れるようになったから。
最初に現れたように颯爽とバイクに乗って、じゃなくて、歩きで来てる。
格好はフルフェイスにライダースーツ、バイクに乗ってたそのままの姿だから、近くで降りてから来てるのかもしれない。
花が供えられてる場所で、多分、本当に、あたしの事を見張ってた。

「大嫌い」なんて言ってしまった手前、彼に話しかけ辛い。
あたしは彼を無視することしか出来なかった。
バカだよね、人に無視されて怒ってたのに、自分は人を無視してる。
それに気付いた時、すごくショック受けて、また部屋に引き篭もって、泣き続けた。

187:5
08/11/02 01:35:51 ADwIx/zr0
その日の朝、何日ぶりかで交差点に向かった。
そこに彼の姿は無い。
まだ来てないのか、それとももう来ないのか。
どきどきしながら待ち続けた。

彼は、向こうから歩いてきた。
「何だ、今日は危ない遊びはしないのか」
出会い頭にそう言われて、ちょっとムカ。
「誰かさんがトロいから、気を使ってあげてるのよ」
思わず言い返してしまった。
自己嫌悪で彼の顔をまともに見れなくてそっぽ向いてたら、「そりゃどーも」とおどけた感じで頭をぽんぽんと叩かれた。
子供扱いされてるのは癪だけど、でも、ちゃんとあたしに向き合ってくれる。
嬉しくて、恥ずかしくて、あたしは彼に真っ赤になった顔を向けられなかったけど。

188:6
08/11/02 01:36:40 ADwIx/zr0
それからは毎日、彼に会うために交差点に立ってた。
何か話すわけじゃなくて、お互い生存確認というか。
彼は通勤だか通学だかでそこを通る必要があるみたいで、その時にお互いちょっと手を上げて挨拶する程度だった。
それでも、あたしには十分だった。

その日、彼は久しぶりにバイクに乗って現れた。
あたしの前で止まると、別に持って来てたヘルメットを投げてよこした。
「…何?」
「乗せてやるよ」
一瞬何を言われてるのか判らなかった。戸惑ってると、彼は慌てたように言葉を続けた。
「勘違いするなよ。たまたま暇そうなおまえがいたから、ちょっと付き合わせてやろうと思っただけだ。嫌ならいい」
「乗る!」
あたしは多分、真っ赤だったと思う。
フルフェイスのヘルメットに遮られて、彼がどんな顔しているのかは、判らなかった。

189:7
08/11/02 01:37:24 ADwIx/zr0
気持ちが良かった。
風を切って走る。
彼の背中にしがみついて、流れていく景色を眺める。自分の置かれている境遇の何もかもを、忘れられた。
ずっと言いたかった事を、やっと口にした。
「こないだは、ごめんなさい」
彼はすぐには返事しなかった。本当に、何の事?って感じだったんだと思う。
「…何が…って、初めて会った時の事?今更?ばっかじゃね?」
「うるさいわね、謝れって言ったじゃん!!」
「ハァ…もういいよ」
「何よそれ!?人が素直に謝ってやってるのに!」
「はいはいわかりましたーもういいですよー」
「棒読みすんな!!」
風に負けないように大声で言い合う。でも、楽しかった。

ふっと、ああ、このまま消えてもいいやって、思った。
目を閉じて、彼の背中にもう一度しがみつこうとして。

突然全部思い出した。

190:8
08/11/02 01:38:19 ADwIx/zr0
あの交差点で、事故にあった。
あたし、車に撥ねられた。
即死じゃなかったんだと思う。
涙交じりにあたしを呼ぶ声とか、覚えてるから。

そうか、あたし、死んじゃったんだ。

目を開けると、一人ぼっちであの交差点に戻ってた。
彼の事が、全部夢だったような気がして。
急に怖くなって、寂しくなって、大声で、泣いた。

191:9
08/11/02 01:39:01 ADwIx/zr0
「ったく、急にいなくなるから驚いたぞ」
しゃがみこんで、膝を抱えてたあたしにかけられた、呆れ声。
顔を上げると、彼がバイクから降りてくるところだった。
夢じゃなかったんだ。
あたしは、無我夢中で彼に飛びついた。

「あたし、死んでるんだよ。ゆーれーなんだ」
彼の胸に顔を押し付けたままで、彼に告げる。
「あー、何だ、やっと気が付いたのか」
彼が平然と答えたので、あたしの方が驚いたけど。
「知ってたの?」
「んー、まぁ、俺も、ご同類だから、な」
あんまし見せたくないんだが、そういいながら、ヘルメットを脱いだ彼。
見たいと思っていた彼の素顔は、永遠に見られないんだと、悟った。

192:10
08/11/02 01:40:46 ADwIx/zr0
彼は最近忙しかったらしくて、今日は久しぶりのデートだ。
いつもと同じ、彼のバイクに二人乗りしてあちこち走るっていうものだけど。
それでも特に今日は、嬉しい報告もある。
あたしの事故はひき逃げらしかったんだけど、この前犯人が捕まった。
パパとママが、あたしの写真に向かって報告してくれた。
新聞を読むと、あの交差点で、一人で勝手に事故を起こして、そこから何だかんだで犯人だってわかったって。
事故の方は、犯人はバイクと接触したとか言ってるらしいけど。
「幽霊とぶつかったとか」
冗談めかして彼に言ってみたけど、「そんな危ない幽霊、お前だけだ」と鼻で笑われた。

193:本当にあった怖い名無し
08/11/02 05:12:13 bWbezCL00
子供っぽさが残るツンデ霊の心理描写が面白くて最後まですらすら読めた
オチもよかったお

読んでて考えたんだがツンデ霊のツンな行動心理にもいくつか種類があって、集積・
類型化できるかもしれんね
お子様型,姉御型,犯罪者型,なりゆき型,超越者型みたいな
メンドいし、やらんけど

194:本当にあった怖い名無し
08/11/03 07:36:23 74HVBPgiO
ageたのは、晒し上げる為なんだから(>_<)

け・・・けっしてスレ位置が700手前で落ちそうだからって理由じゃないんだから・・・(////_<)

195:本当にあった怖い名無し
08/11/04 01:54:48 HscfWUC60
>>193
お子様型
善悪の分別が無くおもしろがってor構って欲しくて悪さを働く
諭されるといったん反発するが内心素直に反省
ごめんなさいが言えた後は諭してくれた人になつく傾向がある

姉御型
自分亡き後だらしなくなってしまった対象者の性根を叩きなおしたくて
or格下扱いしていた対象者に幽霊化してしまった自分の不安を見せたくなくてツン化
対象者の成長した頼もしい一面を見ることが出来るとデレる傾向にあるが同時に成仏
してしまう不安も

超越者型
ツン「人間のごとき虫ケラがどうなろうと知らないわよwww」
デレ「に、人間風情が生意気にドキドキさせないでよ…」

とか

196:本当にあった怖い名無し
08/11/04 05:10:37 c6qR9OBD0
よし、教授のデータ収集のための卒論捨ててそれでいくか

197:本当にあった怖い名無し
08/11/08 00:16:32 R/zas54Y0
冥界よりほしゅ

198:本当にあった怖い名無し
08/11/08 15:42:57 AZeXq8Jv0
動物型はどうよ?

402 :本当にあった怖い名無し:2008/10/20(月) 23:01:25 ID:GB19T2HL0
昔 ネコに大き目の石を頭にぶつけたのは俺です。
ごめんよ 猫。。。

405 :本当にあった怖い名無し:2008/10/20(月) 23:47:29 ID:OSDEmR4kO
>>402
ユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイ
∧ ∧
 ФωФ <ネコカンクレナキャユルサナイニャ

407 :本当にあった怖い名無し:2008/10/21(火) 00:06:26 ID:eH3YXRK00
>>405
つ ねこ缶(ダイエット用)

これで許してー!

419 :本当にあった怖い名無し:2008/10/21(火) 02:48:14 ID:GGO0gplxO
>>407
∧ ∧
(ー~ー)<モグモグ…モグモグ…オイシイニャ コレハユルサナイワケニハイカナイニャ…
       デモココデユルシタラモウネコカンモラエナイカニャ…ドウシヨウ…モグモグ


199:本当にあった怖い名無し
08/11/08 22:05:58 WtUSZN0o0
動物型
執念と野生の本能に従い人間を襲うが、食い物でデレる

200:kiri
08/11/09 00:43:59 36dJl8p80
初投下、文書下手でも勘弁して。
おかしい所指摘してくれると有難し。

ずっと空を見ていた。
住宅街の塀の上に腰掛けて。
足元には、もう萎れて何か分からなくなったものが刺さった瓶。
一日中此処に居るけど誰にも気付かれない。
・・・・僕は死んでいるから。

何もしたくないと思った。
学校も嫌い。塾にも行きたくない。家に帰っても楽しくない。
・・・このまま消えてしまいたかった。
薄暗い帰り道を一人歩く。
ありふれた、少し寂れた住宅街。
この道は歩道もないような小さな道だけど交通量が比較的多くてたびたび事故が起こっていた。

・・突然目の前に白い光が溢れてけたたましいエンジン音が響いた。
目の前にトラックが迫っていた。

201:kiri
08/11/09 00:44:22 36dJl8p80
(あぁ、私死ぬんだな・・。)と思った瞬間トラックがクラクションとともに横を通り過ぎていった。
一瞬何が起きたのか分からなかったが自分は壁際に尻餅をついてどうやら生きているようだ。
壁にしたたかに背中と頭をぶつけたせいでくらくらする。それに尻餅をついたお尻の下に何かあったようでお尻がすごく痛い。
見てみると萎れた花のようなものが入った瓶だった。
まだくらくらする頭でなぜこんなものがあるのか。どうして自分は生きて壁際で尻餅をついているのかを考えた。
たしか私は壁よりも二メートルほど離れて歩いていたはずだった。なのに壁に背中と頭をぶつけている。
誰かによほど大きな力で突き飛ばされない限り自分の跳躍力では届かない距離だ。
それに、その跳躍力があったとしても自分には反応できなかっただろう。つまり自分で壁際に移動し尻餅をつくのは不可能だということになる。
しかし辺りを見回しても周りには誰も居ない。
すると「大丈夫?」と頭上から声が聞こえた。
見上げると若い男が塀の上に腰掛けたまま見下ろしていた。
「・・あなたが助けてくれたのですか?」
少し違和感を感じながらも男に尋ねた。

202:kiri
08/11/09 00:45:01 36dJl8p80
「さあ、どうだろう?君が轢かれそうになった処までは覚えているんだけどそれ以降はよく分からないんだ。」
「そうですか・・・。・・ところでなぜあなたはそんなところに座っているんですか?」問うた後、少し嫌な予感がした。
「僕にはね、此処しかないんだ。・・どこかに行こうと思っても最後には此処に戻ってきてしまう。だからここに居る。ずっと、ずっとね」
「あ、あの、それって・・」
「お察しのとおり、僕は幽霊って奴だ。証拠はその花瓶かな。」
いやな予感はあっさり現実へと変わった。男はこっちが拍子抜けするくらいあっさりと自分が幽霊であると告げた。
でも恐ろしいとは感じられなかった。むしろ彼の口調・雰囲気に親しみすら感じた。
だからかもしれない、気が付くと言葉が漏れていた。
「死ぬって、幽霊になるってどんな感じですか?」
彼はしばらく考えていたあとようやく口を開いた。

203:kiri
08/11/09 00:51:30 36dJl8p80
「死ぬってこと。つまり死の瞬間は覚えてないんだ。車が目の前に来たことまでは覚えているんだけどね。
気が付いたときは血まみれでぐちゃぐちゃの死体が転がってて最初はそれが誰なのかわからなくて、でもよく考えたらどう見ても真上つまり上空からの視点なんだよね。
上空ってことは飛んでないと見れないアングルナな訳で、当然僕は飛行能力なんて持ってないし、何より、服装とかが自分そっくりで路上には自分の荷物が散乱してる、それで(あぁあれは自分の死体で僕は死んだんだなぁ)って気付いたんだ。
というわけで幽霊になった瞬間のことも分からないんだ。質問に答えてあげられなくてごめんね。」
「い、いいえ。すみません、無遠慮にこんなことを聞いてしまって・・」
本当に自分は馬鹿だと思った。自分の不幸を聞かれて辛くない人は居ないのに。まして自分が死んだ時のことなんて。きっと怒らせただろう。悲しませただろう。辛い思いをさせただろう。
よりによって自分の命の恩人になんてことを聞いてしまったんだ。
「あの・・・」
「はいっっ」あぁどうしようなんて言われるだろう。いや、どうやって謝ればいいんだろう。どうすれば・・・
「そんなにびくびくしないで、僕を怒こらせたと思ってるのならそれは間違いだから。別に怒ってないからさ、ね?」
「ど、どうしてですか?私はあなたに辛いことを・・」
辛いことを思い出させた上に、気を使わせてしまうなんて本当になんて私はどうしてこんなに馬鹿なんだろう。

204:kiri
08/11/09 00:52:18 36dJl8p80
「だからもういいんだって。・・確かに死んだという事実は辛いさ、でもそれはもう過去のことだから。
それにね、立場が違ったら多分僕も同じことを聞いたと思うから。人間ってさ、自分の分からないこと、例えば死とか霊とか気になるでしょ?
なら答えを知っていそうなモノに出会ったら聞いてしまうのは本能みたいなものじゃないのかな?僕は、そう思うけど。
それよりさ、僕は君に会えてうれしいんだよ。」
「えっ?ど、どうしてですか?私はこれといった特徴もないし、暗いし、”うれしい”なんて言われるような所なんて・・ありませんよ。」
「いや、君は僕にとってある意味神様や仏様、金銀財宝よりも貴重なものを持っているよ。」
「? なんですか?」
「分からないの?。君は僕とこうして話すことができるし、触れられるみたいだ。これは僕にとって奇跡みたいなことなんだよ。」
そういって彼は”フワリ”と目の前に降りてきて私の手を握った。
ひんやりとしているかと思っていたけどその手は不思議な温かみを私に与えた。
心の奥にまで届くようなほのかなやさしいあたたかさだった。
「君は暖かいね。こうして触れるだけで君の気持ちが伝わってくるみたいだよ?」
そういって彼はくすりと笑った。間近で見る彼の顔はほんの少し幼さが残りった少年のようだった。

205:kiri
08/11/09 00:54:20 36dJl8p80
訂正
間近で見る彼の顔はほんの少し幼さが残りった少年のようだった。
残りった→残った

続き

「ねぇ、僕と友だちになってくれないかな? ずっと一人で退屈だったんだ。」
笑いかけた彼に私は即答できなかった。その代わりにひとつ質問を投げかけた。
「・・・ずっとここにいるって普段は何をしてるんですか?」
「・・普段はこの塀に座って空を見上げているんだ。あまり遠くにいけないし誰も僕に気が付かないから話相手もいない。
鳥の観察をしてみたり、たまに猫会議に出席したりもするけどにゃごにゃも言われても僕には分からないしね。
だから空を見上げる、・・自分が風になってすうっと飛ばされていって小さな小さな粒子になっていく、鳥に食べられたり、吸い込まれたり、吐き出されたり、雨に解けて海や川に流れて少しずつ少しずつ自分が消えていくのを想像するんだ。
空はいいよ、見上げるごとに違う空になるからね。雨の日、風の日、雪の日、晴れの日、嵐の日。同じ空なんて一つもないし、この大きな空を見てると自分がどれほどちっぽけなものかがよく分かるから。」
そういった彼は少し寂しそうに笑った。

206:kiri
08/11/09 00:54:49 36dJl8p80
その顔が悲しくて、切なくて、なぜか私は彼にこんな顔をさせたくないと思った。
「あの、いい・・です、よ? あ、いえ、その・・友達・・になって・・・ください・・・・。」
つっかえつっかえだったがちゃんと言えたことにほっとする。
でも、彼の反応がなくて不思議に思って顔を上げると彼は、まさに”驚き”の表情で固まっていた。
「本当に!?いいの??僕幽霊だよ!?え、本当に?」
彼のあまりの喜びっぷりにこくこくと小さく首を振ることしかできなかった。しかしそれでも十分なようで彼ははしゃぎまくっていた。
彼の見せた変貌振りに唖然としている私に気付いた彼は恥ずかしそうに咳払いをした後に赤くなりながら言った。
「コ、コホンッ。コホンッ。えーあー・・・その・・つい取り乱してしまってごめん・・
あの・・それくらい、うれしかったんだ・・・。えぇっとさ、いつもここに居るから気が向いたらでいいから来てくれるとうれしいな。」
彼はそう言った後、まだ赤い顔を恥ずかしそうに伏せながら早口に「そ、それじゃまたね!」と言ったかと思うともうそこに彼の姿はなかった。
忽然と消えた彼に驚きながらも帰ろうと歩き出した背中に”気をつけて帰るんだよ”と彼の言葉が聞こえた気がした。



次ページ
最新レス表示
レスジャンプ
類似スレ一覧
スレッドの検索
話題のニュース
おまかせリスト
オプション
しおりを挟む
スレッドに書込
スレッドの一覧
暇つぶし2ch