08/12/13 20:53:00 L2s0NBHJ
「はい、これ」さりげなく小さな包みを渡す。
「え、なに？」
「クリスマスプレゼントだよ」
「わー、ありがとう！」
彼女は中を確認してさらに喜んだ。かなり高級なブランドの指輪だったからだ。
この日のために必死にバイトして貯めたお金で買った甲斐があった。
「実はもう1つプレゼントがあるんだ」
「え、なに？うれしーい」
彼女の笑顔をみると少し緊張してきた。いままでの苦しかった練習を思い出せ。きっとできるはずだ。
自分に言い聞かせ軽く深呼吸する。
「今日のために練習してきたんだ。聴いてほしい。」
用意してあったCDを再生する。流れてきたのは山下達郎「クリスマスイブ」。
僕はこの日のために練習してきたカスタネットを取り出すと、CDの音に合わせて叩きはじめた。
けっしてリズムをくずすことなく正確に、そして柔らかく音を刻む。
ふと彼女のほうに目をやるとなんとも言い難い不思議な表情をしている。
もしやカスタネットの単調な演奏に飽きてしまったのだろうか。
しかしこの点においても準備は万端だ。ちゃんと秘密兵器を用意してある。
曲は終盤に差し掛かり、相変わらず彼女は不思議な顔でこちらを見ている。
曲のラスト。ここで秘密兵器の出番だ。カスタネットを急いで投げ捨て秘密兵器を取り出す。
ビブラスラップだ。
「カーーーーーーーーッ」
決まった。完璧なラストだ。彼女は下を向いて肩を震わせている。完璧な演奏に涙を禁じえないのだろう。
2週間足らずの苦しい練習が報われた瞬間だ。今日の夜は僕にとって一生忘れられないものになるに違いない。
「どうだった？」と聞くと彼女は感動を言葉に表せないのか下を向いて「ごめん…本当にごめん…ムリ…」と
言うばかりだった。