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撮影十五日目 2003.2.21
「歩道を歩く恒夫と香苗」シーン撮影。
恒夫は香苗と二人で歩きながら泣き出すことになっている。
撮影現場の歩道は、広い車道を挟んだ向こう側にあって、カメラ側の私たちからは、妻夫木くんの様子はよく見えない。
大丈夫なんだろうか、と思いつつ見ていたら、突然助監督が私に手招きする。
「妻夫木くんが呼んでます!」
慌てて横断歩道を走り、妻夫木くんのところに行くと、彼もまた機能の樹里ちゃんにそっくりの不安げな顔つきになっていた。
「・・・・・恒夫は、どういう気持ちで泣くんすかね?」
尋ねる妻夫木くんの目には、強烈な混乱の色が浮かんでいる。
樹里ちゃんもそうなのだが、元々彼らはその顔や体を使っての表情に長けている人たちので、本気の感情だとさらに伝わってくる強さが並じゃない。
うっかり同じ混乱に巻き込まれて一緒に焦ってしまう。的確に説明したいと思うのに、考えも言葉も追いつかない・・・・・・
どうにも軌道修正がきかないまま本番が始まり、そして終わった。
監督も助監督も、とても満足そうだった。
「すごく良かったよ。」口々に妻夫木くんを褒めていた。
でも、妻夫木くんの表情は晴れなかった。
納得のゆく芝居が出来なかった落胆が、その苦笑にはっきり見てとれた。
「もっと勉強します。」と監督たちに頭を下げる妻夫木くんを見ていて、私もどうしようもなく役立たずな自分が悔しかった。
なんで、もっと心に響くように説明してやれなかったんだろう。
負け犬二匹、みたいな気分でロケバスまでの短い道を並んで歩いた。
途中で、妻夫木くんは立ち止まり「ああ、俺、すっげー未熟だ・・・・・・」と恥ずかしそうに笑った。