10/07/22 12:40:24
市場がイグアスの瀑布のように暴落しているさなか、阿鼻叫喚する市井の人々を尻目に、
「空売り」に打って出て巨利を得る者がいる。市況が大きく下げるほど利幅は大きくなる。
世界的な金融危機の最中に、この手法で大儲けした勢力の存在が明らかになってきた。
それを予見したかのような物語を世に送り出したのが作家にして外交ジャーナリスト
という二つの顔を持つ手嶋龍一氏だ。同氏はどのように物語を紡ぎ出し、作中の出来事を
追いかけているような現実世界をどう見ているのか。
私の書く物語は「インテリジェンス小説」と呼ばれるのですが、「インテリジェンス」
という文脈に照らしてみれば、そう表現されるのも頷けます。
「インテリジェンス」とは、膨大な「インフォメーション」の海から抽出されたダイヤ
モンドの原石を選り抜いて分析を加え、国家のリーダーが下す決断に役立つものでなければ
ならない。
小説は形のうえではフィクションなのですが、雑多な一般情報、つまり「インフォメー
ション」から選り分けて精選した「インテリジェンス」を基に描かれた像は、近未来に
生起する出来事をくっきりと映し出している。それが「インテリジェンス小説」と言われる
ゆえんでしょう。
2月に手嶋氏が上梓した『スギハラ・ダラー』(新潮社刊)は、9・11テロやリーマン
・ショックなどの大暴落前に、危機の到来を知る何者かが、株価指数の先物金融商品を
大量に売っている疑惑を追う展開になっている。
今年4月、米証券取引委員会は金融大手のゴールドマン・サックス(GS)を証券詐欺の
疑いで民事提訴した。07年のサブプライム危機を前に、後に暴落するサブプライム関連
商品を顧客に買わせながら、自らは価格の下落を見込んで売り浴びせ、巨額の利益を手に
していたという疑惑だ。国債の大量売りは、ギリシャなど欧州の国家デフォルト危機を
深化させ、信用不安を拡げている仕掛けの一つだと指摘されている。
現実の出来事が物語を追いかけている。作家はどこまでこの現実を予見していたのだろうか。
私は、国家の枠を超えて新しい金融商品が世界を駆け巡る現実の世界では、このような
仕掛けを組み込んだ取引を当局が規制するなど不可能に近いと考えています。
なぜなら「スギハラ・サバイバル」つまり国家の軛を脱して世界規模で自由なマーケットを
築き上げてきた人々の力量が優っているからです。「スギハラ・サバイバル」とは、第2次
大戦中に外交官の杉原千畝氏が欧州で発給した「命のビザ」で救われた6000人のユダヤ
難民を指すのですが、彼らこそ戦後世界を創った革命児です。
彼らはヒトラーとスターリンに追われる苦難の道程で、自由の尊さを知り、やがて約束の地
アメリカに自由な金融マーケットを命がけで生み出していったのです。
※続く
◎ソース SAPIO
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