10/03/07 13:54:09
私は医師であると同時に薬剤師である。管理薬剤師を3年ばかりやっていたこともある。
ここで述べることは、業界内の人間にとっては、ほとんど常識とも言うべき事柄であるが、
マスコミやWebに流れることはない。業界にとって不利な事柄だからである。(テレビ
業界にとっての電波利権のようなものだ)
50年前の医薬品は不均一で不安定だった。また、薬は、製薬会社から供給される形態の
ままで患者に使うことができず、増量剤を混ぜて分包したり、打錠機で錠剤としたり、
カプセルに詰めたり、ワセリンに混ぜて軟膏にしたり、溶かして水剤とする必要があった。
輸液も、製品の種類が少なく、めんどうな調製を必要とした。そのためには、専門技術者
が必要だった。
そのような時代の技術水準を反映して、厚生労働省令(昭和36年制定)により、薬局
には、以下のような設備の設置が、現在でも義務付けられている。この規定は、個別の
薬局に機器を置かなくても、外部機関に委託するという形でクリアすることができるが、
薬剤師はこれらを使用できるよう訓練を受けている。しかし、実際に使うことはない。
イ 顕微鏡、ルーペ又は粉末X線回折装置
ロ 試験検査台
ハ デシケーター
ニ はかり(感量一ミリグラムのもの)
ホ 薄層クロマトグラフ装置
ヘ 比重計又は振動式密度計
ト pH計
チ ブンゼンバーナー又はアルコールランプ
リ 崩壊度試験器
ヌ 融点測定器
ル 試験検査に必要な書籍
製剤技術の進歩によって、医薬品取り扱いに技術は必要なくなった。現在の医薬品は、
特殊な操作を経ることなく、患者に使用できる。薬剤師が医薬品を取り扱うのは、
歴史的遺制だ。 一般に、技術の進歩は、それまでの専門技術者を不要にする。
和文タイプがワープロに進歩することで、専任オペレーターが不要になったように、
電算写植機やDTPの進歩により写植工がいらなくなったように、銀塩カメラがデジカメ化
されたことでDPEが不要になったように、かつての専門技術者は不要になってきている。
単なるキーパンチャーは消滅したが、他のOA業務に進出する形で命脈を保ったとも言える。
技術者は絶滅したのではなく、別の仕事に移動していったのだ。
ところが、法的規制があると、このような柔軟な職能の変化は起こらない。いつまでも、
教育と不釣合いな単純作業に技術者が張り付けられてしまう。
薬剤師は、「単なる販売や調剤業務から脱して、医薬品情報業務に進出しつつある」など
と言われることがある。わかりやすく言えば、店頭でレジを打ったり、薬のシートを
ハサミで切って袋に詰める作業だけでなく、医師の書く処方箋を監査したり、医師の
コンサルトに答えたり、患者に服薬指導をしたり、医薬品情報収集(DI業務)をしている
というのである。
ところが、依然として、OTC販売(第一類)や調剤業務は彼らが独占している。そのために、
薬学教育における実験化学教育の割合は現在も高く、薬に直接関係する薬理学や薬物
動態学は多くはない。薬剤師は、一般人が漠然と想像しているような「薬の専門家」では
ない。(中途半端な)実験化学者なのだ。
※続く
◎ソース URLリンク(news.livedoor.com)