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■危機克服へ重要な示唆
今、金融危機に端を発した世界同時不況を克服すべく、日本の1990年代の経験が様々に
注目されている。日本での「失われた10年」は一体何だったのか。
経済学者が多角的に分析し、「失われた10年」の原因や、経済停滞から脱却しようとして
講じられた政策の成否などについて研究成果が徐々に蓄積されてきた。すべてについて
結論が一致しているわけではないが、「失われた10年」について、経済学の分析により
何が明らかにされ、どういう論点がカギであったかを一望するには、本書は最適である。
経済学に裏打ちされた研究成果を、一般読者にも理解できるように工夫されている。
本書の特長は、「失われた10年」の日本経済を、高度成長期、石油ショック期、バブル
経済期にまでさかのぼって鳥瞰(ちょうかん)しているところである。戦後日本経済史を
振り返りながら、メインバンク制の形成と時代錯誤となった経緯、バブル期までに構造
転換がなかなかできなかったために、バブル崩壊後の低迷を助長した点など、当時の
実物経済と金融システムの関係をデータとともに描いている。
「失われた10年」の原因は、バブル期の過剰貸出が元で大量の不良債権が生じた
ためとする金融要因説、バブル期の企業の設備投資が過剰で、以後の投資需要を
抑制したためとする需要要因説、企業の生産性が鈍化したためとする供給要因説が
ある。本書は、この3要因は、どれかが唯一正しいというわけでなく、それぞれに
連関し合って生じたと見る。
経済低迷からの脱却策として用いられた量的緩和政策は、積極的な不良債権処理策が
講じられて初めて有効に機能したことを明らかにしている。これは、今般の金融危機の
克服に向けて重要な示唆となろう。
本書を読むと、経済学とは先読みするより後知恵を見出すのが得意な学問で、過去を
振り返って教訓を引き出すところで威力を発揮するものだと、しみじみと感じさせてくれる。
◇おがわ・かずお=1954年生まれ。大阪大学教授・応用計量経済学。
東洋経済新報社 2800円
評・土居丈朗(経済学者)
(2009年3月30日 読売新聞)
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