08/12/03 11:04:13
終点の停留所は山あいの限界集落にある。兵庫県豊岡市の但東町薬王寺地区。48世帯125人が
暮らし、高齢化率は55%。車を持たないお年寄りにとって、路線バスは欠かせない「足」
だった。
そのバスが9月末でなくなった。同県北部で運行していた全但(ぜんたん)バスが4市町の
赤字21路線を休止したためだ。豊岡市内にはこのうち11路線が走る。会社が休止を打ち出した
昨秋、市には住民からの不安の声が相次いだ。
自治体は急きょ代替交通手段の確保に奔走し、豊岡市は10月から「イナカー」と名付けた
コミュニティーバスを導入。それでも便数減や利便性の低下は避けられなかった。
「乗り継ぎが悪くなって、2時間待たされたこともある。元気なうちはここで暮らしたいけれど、
出かけるのがおっくうになってねえ」。バス停の約300メートル先に住む大月さん(79)は
畑仕事の手を休め、つぶやいた。1人暮らしで、白内障や歯の治療のため月2回ほどバスで
通院している。以前は路線バスで病院まで直行できたが、今は乗り継ぎが必要になり、
弱った足腰には応える。
イナカーは運行を業者に委託しており、委託料は半年間で4600万円。運賃収入を除く半額は
国が補助するため、市の実質負担は半年で1800万円程度と見込まれる。しかし、国の補助は
3年が限度で、利用者が増えないと廃止される恐れがある。
バス業界の規制緩和や自治体の財政難を受け、全国で赤字路線が消えている。国土交通省によると
06年度の廃止路線は距離換算で約1万2000キロ、前年度より4000キロ増えた。
廃止後のコミュニティーバスすら赤字という所が大半だ。
高齢者の足を守る方策はあるのか。公共交通に詳しい首都大学東京の秋山哲男教授は「効果の
期待できない定額給付金より、2兆円はST(スペシャル・トランスポート)サービスに使えば
いい」と提案する。
STサービスとは、バスや鉄道の利用が難しい高齢者・障害者のために小型車両などを運行し、
通院や買い物に利用してもらう施策だ。秋山教授によると、国内ではNPOなど約2000団体が
取り組んでいるが、「他の先進国とは対照的に公的な補助がほとんどないため、普及しない。
欧米では人口の2~5%が利用している」と指摘する。
例えば米国のサンフランシスコ市。78年からSTサービスを実施し、配車センターに連絡すると
自宅まで迎えに来てもらえる。利用者は人口の約2・3%に当たる約1万7000人。年間の
利用回数は1人平均約70回。運営費は約23億円(05年)で、うち9割近くは連邦政府と
州政府の負担だ。日本ではほぼ同じ人口の東京都世田谷区でも12団体が実施しているが、
区の補助は約2000万円だ。
秋山教授の試算では、人口の2~3%が移動困難者で、このうち最も移動が困難な1%、
約120万人が週1回ペースで3000円分のSTサービスを利用した場合、総額で1800億円
かかる。2兆円あれば11年間は全額補助が可能だ。
介護予防など波及効果も期待できそうだ。兵庫県立福祉のまちづくり工学研究所の北川博巳
(ひろし)主任研究員も「高齢者の外出機会が増えれば生きがい作りになる。地元商店街も
活性化し、運転が危なくなった高齢ドライバーによる事故も減るでしょう」と話す。
ソースは
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