08/11/28 20:02:38
「株式市場の下落は、そろそろ終わりじゃないですか」
何事も明快に、しかもさりげなく言い放つのがこの人の流儀だ。サブプライムローン
(低所得者向け高金利住宅ローン)問題に端を発した米国発の金融危機で、世界中の
株価が暴落した。たしかに最近になって、各国とも株価は小動き状態で落ち着いている。
それにしても、楽観的ですね。今回の危機は、丹羽宇一郎・伊藤忠商事会長に言わせれば、
「(金の裏付けのない)ペーパーマネーとしてのドルが膨らんで、金融資産経済と実体経済とが
乖離(かいり)したために、バブルがはじけたんです」。だから、国内総生産(GDP)と
株式時価総額の関係に注目する。米国では、バブルでない時期、たとえば1970年の
株式時価総額はGDPの60%だった。99年ごろのITバブルでは120%にふくらみ、崩壊後は
70%に戻った。今回の住宅バブルでも再び120%ほどに上昇。それが、今回の株価暴落で、
米国の株式時価総額は60~70%くらいまで落ちている、というのだ。
株価の暴落は止まったとしても、実体経済が悪化するのはこれからだから、楽観的とは
いえないかもしれない。だが、「1929年(大恐慌)とは違いますよ」と丹羽さんはいう。
「当時の約4倍の人口が生きている。経済はゼロにはならない。いまの世界経済は
それほどヤワではない。そのうち戻りますよ」と。やはり楽観論者なのだ。
ところで、バブル崩壊、金融危機、株価暴落とくれば、なにがしかの感慨が頭をよぎりませんか?
97~98年に起きた日本の金融危機は、その渦の中に、いろんな業界を巻き込んだ。
総合商社もそのひとつ。多くの総合商社は不動産を中心に大量の不良資産を抱えて苦しんでいた。
伊藤忠も例外ではなかった。
98年に社長に就任した丹羽さんの最初の仕事は、不良資産の洗い直しだった。その結果、
3950億円という前代未聞の特別損失を一括処理することにした。そのことを市場が
どう評価するか。財務が健全になったとして株価が上がればいいが、大赤字(最終赤字額は
1630億円)で株価が暴落すれば会社がつぶれるかもしれない。先送りしながら、
小出しに処理する方法もあった。丹羽さんは数カ月、体調を崩すほど悩みに悩んだ。
とはいうものの、悩んでいるうちに体調は自然に戻り、結局「血の小便は出ませんでした。
よほど神経が鈍かったのでしょう」と著書「人は仕事で磨かれる」に書いている。
社長を辞めればどうせ「タダの小父(おじ)さん」になるのだからと、社長の間も
電車通勤を続けた、この人らしい表現だ。
最後の最後に決断したのは、ゴルフ場で真っ青な空に雲が浮かんでいるのを
みたときだったというから面白い。そのとき、「生きている『うれしさ』のような
ものを感じて、よしやろう」と決めたのだとか。日本中に「不良債権」という名の、
後ろ向きの暗い雲がかかっていた、あの時期。青い空と白い雲をみて前向きになる
―なんとなく、わかる気がする。今、不良債権に苦しんでいるであろう米国の
経営者にも教えてあげたい話だ。【以下>>2以降に続く】
毎日新聞 URLリンク(mainichi.jp)