10/03/22 00:37:32
S.S.モンテフィオーリのスターリン伝記二部作を読了。
どちらも幅広い取材と、とくにグルジアの未公開資料を駆使したボリュームのある内容だった。
本書も多くの伝記と同じように歴史書というよりは歴史文学としての側面が大きいようで、
あちこちに作者の推論(暴走はしていないが)を含む一方、かなり面白く読めた。
まず「第一弾」の「スターリン 赤い皇帝と廷臣たち」は主に権力掌握後のスターリンを扱っている。
本書の面白いところは何と言っても本スレの主役たち、つまりスターリンと側近たちの生き生きとした、
そして詳細な描写だろうと思う。妻が逮捕されている間も食卓に彼女の皿を並べさせたというモロトフ、
フルシチョフの頭をパイプで小突いて「中身は空っぽだ」と笑うスターリン、政治将校の悪いイメージを
そのまま具現化したような狂信者メフリス、ベリヤに自分の娘が粛清された彼の妻に似た美人になると
いわれて青ざめるポスクリョーヴィシェフ等など…
スターリン時代の党・国家幹部たちの名前を20人くらい空で言えるなら、本書は必読。
「第二段」の「スターリン 青春と革命の時代」はスターリンの前半生を緻密に描いた大作。
銀行強盗、海賊、みかじめ料の徴収に暗殺といった「汚れ仕事」、意外にもかなり高い評価を受けていた詩作、
カフカース地方の混沌とした環境、両親、妻、取り巻き、そして何人もの愛人たち。
本書はインテリと殺人鬼が同居すしているような不可解な「大悪党」がどのようにして生まれたのかを教えてくれる。
革命前のスターリンに対して退屈な「党の事務屋」というイメージを持つ人が読めば、180度見方が変わるのではないか。
訳者も「スターリンの専門家ではない」と断っているのに本書の誤りと思われる点をいくつか指摘していて、いい仕事だと思う。