09/02/01 15:54:50
ロビーで夕方まで自習した後、受験コースをあんぱん1個でこなすのは、結構ハードだ。
もう6年生の秋。本番まであと半年である。すっかり暗くなった街を、やはり走って家
まで帰る。
(今日はカレーだったっけ……ちょっとおなか空かしていくか!)
二つのバス通りを直角に曲がっていくだけで家に着くのだが、愛子は少し遠回りすること
にした。いつもの曲がり角を通り過ぎ、昔は刑務所だったという公園まで行ってぐるりと
回って帰ることにした。大通りに比べれば暗いが、何度も走っているコースだ。
(今日の算数は難しかったけど、山本くんあたりはわかってるみたいだったなあ、
やっぱり開成とか受ける子は違うなあ)
たったったったっ、大通りからコンクリートで固められた川沿いの道に入り、薄暗い公園
の外周を回って少し走ったところで(あ……)愛子は立ち止まった。
バイクが3台、しかも暴走族みたいな改造バイクだ。柄の悪そうな若者が3人、
そして彼らに取り囲まれるように若い女が立っている。女はブラウスにジーンズ、
スニーカーといったシンプルな服装だが、なにか舞台女優のようにしなやかな立ち姿だ。
愛子はあわてて公園の立ち木の陰に隠れる。
(なんだろう……、インネンとかいいがかりとか、そんな感じ?)
しかし、女の態度は落ち着いているようだ。
(それとも友達なのかな……)
「なんだよ、あんまり冷たくすんなよぉ」へっへっと笑いながら鼻に銀のピアスをした男が言う。
(やっぱりインネンつけてるんだ!)ぞっと鳥肌が立つ。
「減るもんじゃなし、ちょっと付き合ってくれてもいいんじゃね?」これは裸に革の
ベストを着た大男だ。腕には刺青がびっしりと刻まれている。恐怖、嫌悪感、軽蔑、怒り、
いろんなイヤな感情がいっぺんに押し寄せる。
(あんなバカそうな連中が……許せない……!)
「オラァ、気取ってねえでこっち来いよ!」3番目の金髪の男が女の肩をつかんだ。