09/01/31 23:04:53
卒業試験の様子
足跡一つ無い、稜線から続く雪の斜面に純白の落下傘が舞い降りた。
落下傘の、小柄な女性らしいライダーは、基本に忠実に5点着地を決めようとしたが、敢えなく雪の中に潜り込む。この季節、大地は揺るぎないものではない。
ほぼ全身を雪中に埋没させた彼女は、稜線を吹き抜ける風に半ば煽られながら自分自身が作った穴から這いだし、身体を踏ん張ってサスペンションラインを手繰りよせはじめた。
彼女の頭上…煌々と光る月明かりの空に輸送機のエンジン音が冷たく響き、夜空にまた落下傘が開いた。
「…さぶっ!セレブやら社長の影武者やってたから、肉体労働はキツイな…」
たぐり寄せた落下傘のサスペンションラインを特別に携行を許可された柄頭の長い無反りの短刀で手早く切り離しながら、彼女はつぶやいた。
大雑把にラインとキャノピーとを分離し、キャノピーを折りたたむ。貴重な物資だ。無駄にはできない。緊張が解け、やっと寒さに気がついたらしい、彼女は身震いすると、稜線を見上げた。風は微風とはいえ、体感温度を低下させるには十分な風量だ。
「こりゃ雪崩が来たら一発だわ…やっぱ、ここはヤバいよねぇ~ほ~ちゃん…あ…居なかったんだ…」
防女統合運用諜報科1号生、中沢瑞樹は寒さのせいか、それとも自嘲なのか判りかねる笑みを浮かべ、雪崩をさけるべく、雪の斜面をかき分けていった。