09/01/03 11:55:09
防女の年の瀬(1)
「今年も終わっちゃいましたね…」
暖房が落とされた寮室の寒さに耐えかねた寮生のたむろする畳敷きの部屋の隅に積み重ねられた、段ボール箱から、痛んでなさそうなみかんをより分けながら、居残り組の統合科生がつぶやいた。
学生寮の『共用棟』の40畳程の和室は、1、2号生による下級生の『指導』の場所として用いられる事が多いが、時間が来ると空調(暖房)が落ちる寮の中では例外に空調が効いている。
居残り組は(補習組も含めて)ほぼ全員が、書籍や雑誌を持ち込み、ある者は部屋の隅の15インチのテレビに向かい、めいめいが年末の時を過ごしていた。
「ま、帰っても居場所がないっていうか、息苦しいっていうか…しっかし…ヒマねぇ~」
壁にもたれ、足を投げ出して、山岳系の雑誌を開いていた強襲科1号生が怨嗟とも、雑感とも言えない言葉を吐いた。訓練のない年末年始休業は彼女達…特に1号2号生にとっては退屈な時間が延々と続くように感じられるのだろう。
2人の言葉を聞いていた両用1号生がポツリと漏らした。
「俺なんて帰る家すらねぇ~ぜ…一家離散して早や5年かぁ~分かっちゃいるけど、年末は侘びしいよなぁ~」
「…」
文句を吐いた2人は黙り込む。ここに居残っている連中の家庭事情は普通ではなかろう。
彼女達よりも複雑な家庭環境の人間は少なくはない。
「オイオイ!何落ち込んでるんだよ。お前等も居残ってるんだから一緒じゃんか。気にするこたぁ~ね~よ」
「ゴメン…」
みかんを手に取った統合科生は、両用科生にみかんを放り投げた。
「よせよ…おっ、サンキュ。しっかし…みかんも喰い飽きたな…富樫恩賜品かぁ…ウチ(両用)の2号の調達品だけど…喰いすぎで腹がユルくなっちまう…馬鹿げた量は統合に脅されたらしいけど…あんまりウチ(両用)を虐めんなよ…」
「何言ってんの?両用から『実家が果樹栽培やってる学生はいないのか』なんて照会がウチ(統合科)に来てるのよ?ウチは興信所じゃないんだけどなぁ~」
「けっ、味しめてんのか…ま、富樫2号の顔立てて礼状は送っておいたから、来年も冬場のみかんには困らんかもな…この量は困るけど…さてと…ぼつぼつ始めっか?」