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櫻井よしこはなんとなく気になる人だった。他の女性キャスターとは雰囲気が違うなあと思いながら『今日の出来事』を見ていたのだが、この本を読んでその理由がよくわかった。
カバーの経歴を見ると、敗戦直後のベトナムで生まれと書いてある。父親は全財産を失い、家族は着の身着のままで外地からの引き揚げている。それだけでも大変なのだが、引き揚げて来てしばらくすると、父親は家を出ていってしまう。しかし、写真を見ると、母子家庭とか片親という言葉から連想される暗さがないだけでなく、むしろ育ちの良さを感じさせる。
母親は新潟県の山間の村に生まれたのだが、広い世界を見たいと思い、自分で織った着物を売って上京し、美容師になった当時としては型破りな女性である。常に前向きで「何があっても大丈夫」と子供たちを励まし続ける。著者に涙を見せるのは、別居している父親のせいで兄がぐれてしまったときだけだ。だが、そのときも、「モーボサンセン(孟母三遷)」とつぶやき、環境を変えるためにすぐに実家に引っ越す決断をする。自然豊かな環境の中で兄は元に戻るが、今度は子供の教育を考えて長岡市に引っ越す。学歴はないが、常に先のことを考えている聡明な母親なのだ。
著者の生き方もつくづく母親と似ているなあと思う。高校一年のときに、教え方が気に入らないと英語の教師に文句を言いに行くところはかなり型破りだし、大学へ入るために父のいるハワイに行く行動力もある。ジャーナリストになってからもそれは変わらない。『今日の出来事』のキャスターとして成功を収めるが、言論活動に専念したいという理由であっさりとやめてしまう。どこまでも自分に忠実な人なのだ。
面白いだけでなく、いろいろ学ぶところの多い本だった。子供のいる人は子育ての参考になるだろう。90歳を過ぎた今もなお向上心を持ち続ける著者の母親、そしてその教えを意識的、無意識的に実践した著者の生き方は感動的である。