19/04/28 21:47:14.41 CAP_USER.net
-簡便かつ効率的なDNAの導入に成功-
理化学研究所(理研)環境資源科学研究センターバイオ高分子研究チームのモニルル・イスラム特別研究員(研究当時)、小田原真樹研究員、沼田圭司チームリーダーらの共同研究チーム※は、機能性ペプチドを用いることによって、巨大プラスミドDNA[1]を高効率かつ低ダメージ、そして従来法より簡便に大腸菌細胞内に導入できることを確認しました。
本研究成果は、微生物における物質生産に向けた遺伝子クラスターの導入や、人工細胞の創製に向けた染色体DNAの細胞内への導入に貢献すると期待できます。
従来のエレクトロポレーション法は、電気パルスで細胞膜に孔を開けることで、巨大なDNAを細胞内に導入する方法です。しかし電気パルスが強すぎると細胞へのダメージが大きいため、細胞種に応じた条件の最適化が必要といった欠点があります。
今回、共同研究チームは、細胞膜透過性ペプチド[2]とポリカチオン性ペプチド[3]を融合した機能性ペプチドを用いて、細胞内導入に通常用いられるプラスミドDNA(10kb程度)よりはるかに巨大な205kbのプラスミドDNAの大腸菌細胞内への導入を試みました。その結果、巨大プラスミドDNAをエレクトロポレーション法に匹敵する効率で細胞に導入することに成功し、導入したプラスミドDNAの損傷や分解も少ないことが明らかになりました。また、導入したプラスミドDNA上のレポーター遺伝子[4]からタンパク質が産生されていることも確認され、大腸菌細胞内で機能していることが証明されました。
本研究は、米国の科学雑誌『ACS Synthetic Biology』のオンライン版(4月22日付け:日本時間4月23日)に掲載されました。
URLリンク(www.riken.jp)
■研究手法と成果
共同研究チームはまず、細胞膜透過性ペプチドとDNAとの相互作用が期待されるポリカチオン性ペプチドを融合させた機能性ペプチド(KH)9-BP100を、通常(10kb程度)よりはるかに大きい巨大プラスミドDNA(205kb(キロ塩基対))と混合することにより、ペプチド-DNA複合体形成を行いました(図1)。ペプチドのアミノ基(-NH2)とDNAのリン酸基(H2PO4-)の比率を変化させた結果、約250~500ナノメートル(nm、1nmは10億分の1メートル)のさまざまな大きさの複合体が形成されました。
これらの複合体を用いて、巨大プラスミドDNAを大腸菌細胞内へ導入することに成功しました(図1)。そして、ペプチドとDNAの混合比率を調整することで、この方法によって平均約7CFU[6]の導入効率が達成されました。これは熱ショック法を用いた巨大DNAの導入(約1CFU)よりも有意に高く、エレクトロポレーション法(約9CFU)にも匹敵します。さらに、この方法ではエレクトロポレーション法で必要な電気パルスの強度・時間の最適化といった手順や細胞の事前処理が不要であることから、より簡便に巨大DNAを導入することができます。
また、パルスフィールドゲル電気泳動法[7]で解析した結果、大腸菌に導入された巨大プラスミドDNAに損傷や分解は見られませんでした。
次に、導入した巨大プラスミドDNAが大腸菌細胞内で機能していることを確認するため、共焦点レーザー顕微鏡[8]を用いて、巨大プラスミドDNAにコードされているレポーター蛍光タンパク質mCherryを観察しました。その結果、巨大プラスミドDNAを導入した大腸菌からはmCherryタンパク質に由来する強い蛍光が観察され、導入した巨大プラスミドDNAから遺伝子が発現していることが証明されました
■今後の期待
本研究で、機能性ペプチドを用いることにより、巨大なDNAを損傷や分解が少なく大腸菌内に効率的に導入できることが明らかになりました。
今回明らかにした導入法によって、さまざまな細菌に巨大なDNAを導入することが可能となり、微生物を使った物質生産に向けた遺伝子クラスターの導入や、人工細胞の創製に向けた染色体DNAの細胞内への導入など、合成生物学や応用生物学の研究が加速すると期待できます。
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