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2月19日
こう暖かい日が続くと今年の花見は、いつどこでしようかと、今から気もそぞろになる。花のお江戸には、靖国神社や千鳥ケ淵という桜の名所があるが、そこからほど近い隼町にもいいところがある。
▼正確には、あったというべきか。昨秋、建て替えのため閉場した国立劇場の前庭である。8種約20本の桜が植えられ、ソメイヨシノとは一味違う艶(あで)やかな競演が見られた。駿河桜から自然交配してできた駿河小町という「劇場生まれ」の桜もある。
▼この桜を今は亡き十二代目市川團十郎が、歌舞伎「一谷嫩軍記」の主役、熊谷直実ゆかりの熊谷市に寄贈した。感激した同市は、返礼として「熊谷桜」を贈り、團十郎自ら前庭にお手植えしたという。そんな名園も「廃虚感が漂い、日本の状況と重なるものがあって悲しい」と古曲の都一中さんは嘆く。
▼建て替えが暗礁に乗り上げているのだ。政府は、何年も前にホテルや商業施設を併設する方針を決めたが、入札は2度も不調に終わり、劇場再開のめどは立っていない。「大変ゆゆしき問題だ」と、都さんや中村時蔵さんをはじめ伝統芸能の第一人者たちが先週、日本記者クラブで会見を開いた。
▼既に公演数が減った芸能も少なくない。「空白期間が大きい恥ずかしさを知ってほしい。文化施策が後に回ってよいのか」という日本舞踊の人間国宝、井上八千代さんの訴えは、重い。
▼そもそも国立劇場にホテルや商業施設を併設しようという根性が卑しい。何百年も続いてきた伝統文化が令和で途絶えたとあっては、末代の恥である。幸い、校倉(あぜくら)造り風の建物は取り壊されていない。それを大規模補修すればいいじゃないか。岸田文雄首相も後世に残る仕事を一つはしてほしい。
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