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6月16日 産経抄
作家の野呂邦暢(くにのぶ)は、昭和49年に『草のつるぎ』で芥川賞を受賞している。高校卒業後、故郷に近い長崎・佐世保の自衛隊に入隊していた時代を描いたものだ。主人公が戦闘訓練で、ベニア板の人形を小銃で狙い引き金を引く場面がある
▼すると中隊長がヘルメットをたたいて聞いてきた。「お前は何を狙って撃っておるのか」「あの人形ば狙うとります」と答えると行ってしまった。訓練の後、中隊長はいった。「お前たちの中には何を狙って射撃しているのかわきまえておらん者がおる。いいか、壕(ほり)に立っとるのはベニア板の人形じゃない。敵だ…」
▼衝撃的な事件である。14日朝、岐阜市の陸上自衛隊日野基本射撃場で、自衛官候補生の男(18)が訓練中に近くにいた隊員に自動小銃を発射し、52歳と25歳の2人が死亡した。岐阜県警の取り調べに対して、男は25歳隊員への殺意を否認した。一方、52歳の教官には「叱られた」という趣旨の供述をしている
▼野呂が自衛隊にいた昭和32年には、青森県八戸市にある陸上自衛隊の駐屯地で、23歳の陸士長が27歳の上官を自動小銃で撃って殺害する事件が発生している。市内の酒場で遅くまで飲んでいた陸士長を巡察中の上官が見つけ「遅いから帰れ」と注意した。それを恨んで、帰隊してから犯行に及んだものとみられる
▼自衛官候補生の訓練は4月に始まったばかりだった。短い期間に一体何が起こり、教官を「敵」と見定めて発砲するに至ったのか。陸自の調査委員会が徹底的に原因を究明するのは当然だ
▼五ノ井里奈さんに対する性加害事件、沖縄県宮古島付近で起きたヘリコプター事故に続いて、陸上自衛隊を激震が襲う。自衛隊全体の士気に及ぼす影響が何より気にかかる。