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8月10日 社会の窓
作家の菊池寛は、着物の帯が解けたまま表を歩くことがよくあった。人から注意を受けると、決まって気分を害したという。知らぬが仏。気づかなければ平気じゃないか―と、『私の日常道徳』の中で不満の筆をとがらせている。
▼現代なら「社会の窓」を開け放つ感じだろうか。大勢に見られたとて、誰が傷つくわけでなし。作家の説には一理ある。これが大学という組織となると、トップが嗤(わら)われるだけでは済まない。恥の巻き添えになる学生や卒業生こそいい迷惑だろう。
▼違法薬物所持でアメフト部員が逮捕された日大である。危機管理のあり方も赤点なら、教育機関としての規範意識も赤点だろう。中身が実にお粗末な林真理子理事長らの会見だった。例えば大学側がアメフト部寮で植物片などを見つけ、警察へ連絡するまでの12日の空白である。
▼運動部を統括する副学長は、件(くだん)の学生に自首を促そうとしたとか。「われわれは捜査機関ではなく教育機関だ」。そう言い放つ面皮の厚さにまず驚き、その人が元検事と聞き2度驚いた。林氏らがどう否定しようと、世の中ではこれを隠蔽(いんぺい)と呼ぶ。
▼大学を私物化した元理事長一派の専横や悪質タックルで、日大の信用は傷ついた。旧体制の非常識と手を切るため、改革を託されたのが林氏である。大事に至る前に、なぜ患部にメスを入れなかったのか。スポーツ界の勝手が分からず「遠慮があった」と言われても返事に困る。
▼解けた帯は、人から言われなくても自分で気づく。「人生の重大事についても、これと同じことが云えるかも知れない」と菊池は言う。日大は…。あの会見がなければ、「窓」の全開に気づけたかどうか。改革が道半ばとしても寂しい。いや、恥ずかしかろう。