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10月14日 コラム 産経抄
リニア中央新幹線の開業に向けて、始発駅となる品川駅周辺では大規模な再開発工事が進んでいる。その過程で見つかったのが、明治時代の鉄道遺構「高輪築堤」である。
▼明治5(1872)年10月14日、150年前の今日、日本初の鉄道が新橋―横浜間に開通した。新橋から品川にかけての高輪海岸沖には、築堤がつくられレールが敷かれた。つまり蒸気機関車は海の上を走っていた。背景には、鉄道建設をめぐる明治新政府内の対立があった。
▼積極的に推進したのは民部・大蔵省の役人だった大隈重信と伊藤博文である。旧薩摩藩の西郷隆盛と大久保利通は、軍備の充実が先だと主張していた。兵部省(陸海軍)も同じ立場である。都合の悪いことに、鉄道の想定ルート上には、薩摩藩の下屋敷と兵部省の施設があった。用地確保が困難と判断した大隈が「海に通せ」と指示したという。
▼ところが、いざ汽車に乗ってみると大久保をはじめとする反対派は、一斉に鉄道ファンに転じる。「幕末の風雲児たちにとって鉄道体験は、価値観を一変させるほど強烈だった」(『日本鉄道事始め』高橋団吉編著)
▼東海道新幹線の開業式が行われたのは、鉄道開業から92年後の昭和39年だった。やはり、懐疑的な声が大きかった。自動車と飛行機の発展に比べて鉄道はもはや時代遅れだというのだ。しかし、東京―大阪を3時間余りで結ぶ「夢の超特急」は、まもなく高度成長の象徴的な存在となる。
▼リニア中央新幹線では、日本が誇る超電導技術により時速500キロが実現する。ただ静岡県工区の工事未着工など問題山積みで、未(いま)だ開業のめどが立たない。いざ走り出せば、世界中の鉄道ファンの価値観を一変させるほどの乗り物だと、信じたい。