22/08/05 07:48:57 C7WFDGbe0.net
8月5日
トラックやバスなど商用車メーカー大手、日野自動車の前身は東京瓦斯(ガス)電気工業である。名前の通り、ガスや電気の器具を製作していた会社が、自動車製造に乗り出すことになった。そこで大正6年に迎え入れたのが、伝説の天才エンジニア、星子勇である。
▼星子はまもなく独自設計のトラックの試作に成功して、翌年には日本で初めて量産を果たす。航空機エンジンの開発にも取り組んだ。昭和13年に周回航続距離で世界記録を樹立したプロペラ飛行機「航研機」製造の指揮を執ったことでも知られる。過労がたたって昭和19年に亡くなった。
▼戦後、日野の技術者たちは「星子イズム」を受け継いで、数々の傑作を世に送り出してきた。昨年3月期の売上高1兆4984億円、グループ従業員約3万5千人の巨大企業が、何という体たらくだろう。エンジンの排出ガスと燃費性能に関する国の検査についてデータを改竄(かいざん)していたと発表したのは、今年3月である。平成28年以降に始まったと説明していた。
▼ところが今月2日になって、不正は約20年間続いていた事実が判明した。国土交通省に虚偽の報告をするなど、悪質さが浮き彫りになった。親会社として社長を送り込んできたトヨタ自動車も見抜けなかった。外部の弁護士らによる特別調査委員会は、パワハラ体質や風通しの悪さなど、企業体質の問題点を指摘している。
▼星子の揮毫(きごう)が残っているそうだ。中国の哲人の言葉が書かれている。元副社長の鈴木孝さんによると、技術者の心得のようにも解釈できる。技術とは挑戦である。挑戦には失敗と挫折とが常に待ち構えている。それらに遭遇した時、明鏡の境地に解を求めよ。
▼まさに曇りのない鏡に会社のあるべき姿を映し出す時である。