16/07/02 10:20:41.49 CAP_USER.net
そのうえで、キヤノンが新株予約権100個をすべて行使し、TMSCを完全子会社化する―これが図の第5段階である最終形だ。
焦点となったのは、MSHのキヤノンからの独立性である。
MSHは売上高ゼロなので、独禁法上の審査(クリアランス)をせずにTMSCを完全子会社化できる。これにより東芝は売却益を3月末までに計上できる。
しかし、MSHにキヤノンからの「独立性」がなければ、キヤノンには医療機器部門の売上高が200億円以上あるので、キヤノンがクリアランスを申請しなければならない。そしてキヤノンがクリアランスを関係国すべてで終了するまで、東芝は本来の目的である売却益の計上ができない。
独立性とは何か。
独立性とは、TMSCの親会社であるMSHが、他社の指図を受けずにTMSCの役員を代えたり、TMSCを他社と合併させたりすることができるということだ。
これらの重要な判断に、キヤノンが口をはさめる状況にあるならば、MSHには独立性がないということになる。口をはさめる状況にあるかどうかの判断は、文書などの証拠がなくても、口約束による密約、金銭の貸借関係が認められれば、成立しうるという。
キヤノンは、上記の理由とは別に、最終的には新株予約権を発動してTMSCを完全子会社化するつもりなので、4月中旬に、公取に申請していた
30日の審査期限が来るたびに、5月中旬、6月中旬と「クリア&リファイル(申請の取り下げ・再申請)」を繰り返し、今回の審査終了となった。
クリア&リファイルは、審査を長引かせないために一般的に取られる手段である。1次審査の期限が過ぎると、自動的に2次審査に移行する。
すると、追加で提出する資料が増えるほか、パブリックコメントを取ることになり、結果として審査期間が長くなる。
それを回避するために、1次審査の状態でとどまろうとするのがクリア&リファイルだ。
公取がグレーだと指摘したのは、要するに最終的にはキヤノンが買収するつもりなのに、途中にSPCを挟んで申請義務を一時的に回避した点だ。
一方で今回、クロだとしなかったのはなぜか。
それは、キヤノンとTMSCの明確な結合関係(すなわち親子関係)が認定できなかったこと、今回は初のケースであり、明確なルールがなかったことの2点を、公正取引委員会の品川武・企業結合課長は挙げている。
今後同様のスキームが出たらクロだと明言したのは、「すでにキヤノンと同様のことがしたい、という問い合わせが企業からあるからだ」とも述べた。
ライバル・富士フイルムは口惜しさひとしお
TMSCの入札で残り、最後はキヤノンに敗れた富士フイルムホールディングスも、以下のコメントを即日発表した。
「この買収にフェアな姿勢で臨んだ我々にとって、アンフェアな競争であった。これが許されるなら、競争法が形骸化する。(中略)これが悪しき前例となり、
日本国内で競争法の手続きを無視した、海外企業を含む企業買収が行われることが懸念される。このようなスキームを、
今後は認めないが今回は認めるということであれば、なぜ今回は認めるのか明確に説明されることを望む」
富士フイルムの古森重隆CEOは、かつて東洋経済の取材に対して、「クリアランスが通らず、東芝とキヤノンのディールがなくなったとき、
富士フイルムが買いに出る選択肢はあるのか」との問いに「それはウエルカムだ」と明言していた。それだけに、今回のグレー判定に口惜しさはひとしおだ。
ただ、今回の公取の判定が最終判断というわけでもない。今回は「密約が認められなかったとはいえ、今後証拠が出てくればクロに覆る」と品川氏は説明する。
しかも、他の国での審査はこれから。海外の判断次第では、まだキヤノンは「一安心」とはいかないのである。