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正社員と同じ仕事をしながら安い賃金、不安定な条件で働く非正規の労働者たちがバブル崩壊後、急激に増えていった。
非正規が増え、疲弊しているのはなぜか。同じ「就職超氷河期」世代として彼らの置かれた厳しい実態や拡大していく格差に早くに気付き
、2004年から「週刊エコノミスト」の特集記事でその危うさを警告し続けた労働経済ジャーナリスト、小林美希さんに話を聞いた。
【聞き手・尾村洋介、荒木功/デジタル報道センター】
??非正規で働く社員が増えている現状を書こうと思ったきっかけは何でしたか。
小林さん サービス残業だったり土日も会社に出勤したりと、長時間働く若者たちの姿は当時、業界、職種、大企業、中小企業を問わずどこでも
見られました。でも、なんだか若者たちが疲れ切っていると感じるようになった。03年ごろからです
「自分たちの世代は疲れ切っている。何かがおかしい」。そう感じたことが取材の始まりでした。
??そのころは、バブル崩壊後の不況が一服し、企業が長く続いた苦境からようやく脱した時期でしたね。
小林さん 当時、「エコノミスト」の記者だった私が決算説明会に行くと、必ずといっていいほど「当社はこれだけ人件費を引き下げました」
などと財務の担当者が話していました。民間アナリストから提案された通りに人件費の圧縮を図った会社の株価が反発したなんてこともあり、
「構造改革イコールリストラ」という時代でしたね。でも、営業利益の回復といっても、人件費削減で出しただけじゃないかって思っていました。
??00年代の初めまでは不況の中で正社員切りのリストラばかりが注目されていた。
小林さん 正社員が少なくなり、契約や派遣など非正規雇用の存在が目立ってきた。正社員と同じように働いているように見えるんですけど、
賃金はもちろん抑えられていて、将来の見通しは立たない。契約はいつ切れるか分からない。気になって調べてみると、
労働者派遣法が度重なる規制緩和を受けて拡大し、労働基準法も改正された。派遣も非正規も二つの法律で同じ時期に3年を上限にするいわゆる
「3年ルール」ができて、3年たつと契約が更新されずクビになることが起こり始めていた。この構造的な問題があったから、
非正規の人たちが疲弊していたことに気付いたんです。だったら、この現実をきちんと取材して問題提起しなければいけないと思いました。
??企画はすんなり通りましたか。
小林さん そのころ、非正規雇用の人たちは「フリーター」と呼ばれていました。フリーランスとアルバイターを掛け合わせた造語の軽いイメージから、
「フリーターは何となく甘い」とか「えり好みをしているから仕事がない」など、当人の意識に問題ありと見る風潮があって、
編集部でも私の企画はなかなか通らなかった。何度か出し直して、初めて記事が掲載されたのが04年5月の特集でした。
??ルポが主体の、そのころの経済誌ではあまり見たことがない企画でした。
小林さん このころはまだ非正規労働の統計データがそろっていませんでした。現場の取材を積み重ねていくしかなくて。
実証するために、いかに大勢の若者を取材できるかが重要でした。データについては民間シンクタンクのエコノミストに試算をしてもらって、
たとえば税収や経済損失はどうなるのかといったマクロ経済への影響なども同時に提起していきました。それまでこの問題に気付いていなかった人にも
客観的なデータで納得してもらえるように努力してきた。
??取材でどんなことが見えてきましたか。
小林さん とにかく大勢の人から話を聞きたいと思いました。知り合いに紹介してもらったり、労働組合に相談に来た人を紹介してもらったり、
ハローワークの前で職探しに来た人たちをつかまえたりと。とにかくより多くの人の話を聞いていきました。取材を進めていき、
これは国全体の問題だと確信しました。現場の状況を書き示すことで、やっと国も実態調査をするなど動きだしました。