18/07/13 20:41:04.48 hLfh87pp.net
ゲラゲラ笑いながら、同じ台詞を何度も繰り返している。
それだけでも十分異様だったが、その男の風体も奇妙だった。
着ているものが妙に古い。
時代劇で農民が着ているような服だ。
顔は満面の笑顔。だが、目の位置がおかしい。
頭も妙にボコボコしている。
そして、結構な速度で移動している。
ゴツゴツした石や岩が多い暗い谷底を、ものともせず歩いている。
大体、こんな暗くて距離もあるのに、何故あそこまでハッキリ見えるんだろう?と言うより、
白く光ってないか、あの人?
小学生の俺でも、その異様さに気付き、思わず足を止めてしまった。
「見るな、歩け!」
親父に一喝された。その声で我に返る俺。途端に、恐ろしくなった。
しかし恐がっても始まらない。
後はもう、ひたすら歩くことだけに集中した。
その間も谷底からは、相変わらずゲラゲラ笑いながら呼ぶ声がしていた。
気付けば、俺と親父は獣道を出て、車両が通れる程の広い道に出ていた。
もう、声は聞こえなくなっていた。
帰りの車中、親父は例の男について話してくれた。
話してくれたと言っても、一方的に喋ってた感じだったけれど。
「7,8年位前まで、アレは何度か出ていた。
でも、それからはずっと見なかったから、もう大丈夫だと思っていた。
お前も見ると思わなかった」
「呼ぶだけで特に悪さはしないし、無視してれば何も起きない。
ただ、言う事を聞いて谷底に降りたら、どうなるか分らない」
「成仏を願ってくれる身内も、帰る家や墓も無くて寂しいから、
ああして来る人を呼んでるんだろう」
大体、こんな感じの内容だったと思う。