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特に道に迷うことも無く、目的の山に到着したMさんは、山道を更に奥へと上っていった。
しばらく進むと、山道の右側が斜面、左側が崖の様になっており、
その崖下数メートルに川が流れていた。 この辺りにしようか…
道路から外れ、停車すると車を降りた。耳を澄ませば川のせせらぎが聞こえてくる。
どこから川まで降りようか… Mさんは崖に近づいた。
少々雑草やら木々が邪魔しているものの、傾斜は緩やかであり、
川まで降りるのはそれほど苦ではなさそうだった。
視線を木々の間に見える渓流へと移したMさんは、ある物を目にした。
少々流れの速い渓流だが、それほど深くは無いのだろう。
直径40~50センチ位の石が、所々に水面から顔を出していた。
岸から2メートル位離れているだろうか?
その石の上に、山中には不釣合いなスーツ姿の男性が立っていた。
こんな山の中でスーツに革靴かよ…。
男性は直立し顔を下に向けたまま動かない。 何してるんだ…?
Mさんは足元に気をつけながら少し崖を下り、再び川に目をやり驚いた。
男性はさっきと同じ直立した姿勢だが、立っている石が違う。
先程男性が立っていた石から1メートル程離れた、別の石の上に移動している。
………。
しばらく眺めていると、おそらくは苔等で滑りやすくなっているであろう別の石の上に、
俯いたまま男が飛び移った。 しばらくするとまた別の石の上へ…。
あぁ…やばそうだな…。 何度か『そういうもの』に遭遇したことのあるMさんは、
渓流に立つ男性が、この世の人ではないかもしれないと思った。
Mさんは釣りに行く道中、地元の人を見かけると必ず声を掛けるようにしている。
近くに河川があることは調査済みなのだが、あえてこう聞くのだそうだ。
「この辺りに釣りの出来そうな所はありますか?」と。
ほとんどの場合、近くの河川を教えてくれるか、
「川はあるだがそんなに釣れねだよ」 とか、そんな返答があるのだが、
中には「この辺りにはないずら」とか、
「近くにはあるがんけど…あそこは地元の人でも近よらんから、よしておいたほうがいいげん」
ということを言われる事がある。
そういった返答の場合、Mさんは余計な詮索はせず、早々に引き上げるようにしているのだそうだ。