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>>38-41
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Voice 2019年2月号
移民問題は「リベラル」の幻想を超える 岩田 温
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ダグラス・マレーの『西洋の自死』(東洋経済新報社、町田敦夫訳)は、ヨーロッパの移民問題についてミネルヴァの梟が
飛び立とうとする様を克明に綴った力作である。
第二次世界大戦後に、ヨーロッパ各国は外国人労働者の入国を積極的に認めてきた。労働力不足を補うためである。彼らは
「労働力」を求めていたが、移民はたんなる「労働力」ではなくそれぞれの宗教や文化に根差した価値観を持った人間であった。
彼らは周囲に同化することなく、独自の価値観を保ったままヨーロッパに存在し続け、その数は増加している。
マレーが恐れるのは「大置換」だ。すなわちヨーロッパの住民の数が減少する一方で、移民の数が増加し、いずれの日か
ヨーロッパの多数派は移民であり、従来のヨーロッパの住民の数が少数派となってしまう「大置換」が起こるのではないかと
いう恐怖である。
2010年10月、メルケルのポツダムの地における演説は画期的な意味があった。
「私たちは『彼らは永住しない。いつかはいなくなるだろう』と考えたのです。でも現実は違いました」(前掲書、158頁)
「多文化社会を築き、隣り合わせに暮らし、互いの文化を享受するというアプローチは、言うまでもなく失敗しました。完全な
失敗です」(前掲書、159頁)
優れた歴史家であり、思想家でもあったトニー・ジャットは、「信頼の共同体」の重要性を語った際、異なる他者との関係に
ついて次のような厳しい指摘をしている。
(続く)