23/10/14 23:44:07.90 tUzIZ5aJ0.net
いかなる賤いやしい、路傍ろぼうの乞食こじきでも、腹が空すいているときに握飯にぎりめしを与えると、「三日も食わずにいたが、これは結構」といってありがたく頂戴ちょうだいする。も一つ与やろうとすると今度はそうありがたく思わない。
「塩加減が悪いから塩をまいていただきたい」「香こうの物をつけていただきたい」
という注文が出る。
三つめには、「握飯にぎりめしばかりではなんですから塩引しおびきでも」という。
四つめには「塩物ばかりでは喉のどが乾かわく、刺身さしみを」といいだす。乞食こじきのごとき者でさえも、その欲望を満たそうとすれば、どこまで行っても満足せぬ。
「八百膳やおぜん」の料理を奢おごられても、三日続けて食わさるれば、不足を訴える。帝国ホテルの御馳走ごちそうでも、たび重かさなればいやになる。食物だけのことを望めば、人間はいかなる酒池肉林しゅちにくりんに入いれても永く満足はせぬものである。