14/03/27 02:21:24.36
(>>2の続き)
将来的に台湾の通常戦力による抑止力が中国に対し有効でなくなるのであれば、米国の「核の傘」を台湾に提供する選択もあるよう
に思えるが、中国によって台湾が侵略されたからといって米国は戦争を核使用のレベルまでエスカレートさせようとはしない。全面的な
熱核戦争のリスクを冒すほど台湾の価値は高くないからだ。台湾は日本、さらに韓国とは違うのである。だから、米国は台湾に拡大
抑止を適用することはしないだろう。
もう1つ、米国が最終的に台湾を見放すことになる理由は、台湾が米国にとって利益にならない米中戦争を引き起こす危険な
フラッシュポイントであることだ。
米ソ冷戦の時のベルリンはソ連の領土ではなかった。その意味でも台湾の戦略的価値はベルリンの比ではない。米中戦争の
フラッシュポイントとしての台湾の危険性に加え、将来的に強大化した中国を前に、米国が最終的に台湾を防衛できなくなる事態を
迎えるとするなら、米国にとって台湾を放棄し、中国が台湾に統一を強いることを許容することが、良い戦略的センスということになる。
■いずれ日本も台湾と同じ立場に?
以上、ミアシャイマーの観点を大まかに紹介してみたが、米国の現実主義学派であるクリストファー・レインの言う「オフショア・
バランシング」の議論と類似していることにまず注目したい。
レインによれば、「米国が中国の攻撃から台湾を守るという事実上のコミットメント(誓約)は冷戦の名残である。1950年6月に朝鮮戦争
が勃発していなければ、米国は65年近く前に台湾から手を引いていたであろう。中国にとって再統一は最重要課題である。米国に
とっては、それを防ぐことに切迫した利害はない。米国はオフショア・バランサーとして、台湾を守るために軍事力は行使しないという
立場を明確にする。そうなれば、台湾の政策担当者は、中国との妥協を検討せざるを得なくなるだろう」(「パックス・アメリカーナの
終焉後に来るべき世界像─米国のオフショア・バランシング戦略」、「外交」2014年1月号)ということになる。
ミアシャイマーの、台湾の戦略的価値を評価した上で、それでも中国との戦争を避けるために台湾を放棄しなければならないとする
議論と比べると、レインの議論は身も蓋もない印象があるが、政策的結論は一致している。
その一方で、米国の戦略家であるエドワード・ルトワックによれば、「中国がその台頭する力を周辺国に対する領有権の主張という形
で表現すると、それが敵対的な反応を発生させることになり、影響力(ソフト・パワー)を破壊することになって全体のパワーを減少させる
ことになる」(『自滅する中国』)と論じている。
ミアシャイマーの議論が、中国の将来的な強大化を前提にしているのに対し、ルトワックは強大化し対外的に強硬な姿勢を取る中国に
「自滅」の影を見ている。中国に対抗し中国とのバランスを取るための関係国による連携を予想する点では両者は共通するが、ルトワック
は中国内部における民衆の不満や軍の発言力増大が政権への圧力となり、政権担当者が外部世界で中国がどう受け止められているか
について十分配慮できていない点を指摘している(実はミアシャイマーも、中国の成長減速や深刻な国内問題が地域覇権国家への道を
妨げることになるとの指摘をしている)。
ミアシャイマーの議論は、中国がこのまま大国としてパワーを増大していけば、台湾が中国に統一されることは避けがたいという
「大国間政治」の論理によるものである。そこで問題となるのは、台湾を日本に置き換えた時、やはり同様の論理で日本が見捨てられる
ことにもなりかねないということだ。
日本の立場は台湾と基本的に違いがあるのか。米国の軍事力をアジアから排除しようと中国が考えるならば、日本こそがそのための
ターゲットとなるのではないか。われわれにとって、東アジア情勢の目前の変化に目を奪われがちになるのは仕方がないにしても、
長期トレンドをしっかり把握し戦略的に将来を見据えることもまた重要である。
(終わり)