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収穫に感謝し、五穀豊穣を祈願する「新嘗祭」が行われた十一月二十三日。この宮中行事に出席する安倍首相が、やはり新嘗祭が
行われている靖国神社を電撃的に参拝するのでは……。永田町にそんなうわさが流れるほど、安倍首相は中国や韓国へのいらだち
を強めている。
首相は二〇一二年九月の自民党総裁選の際の共同記者会見で、「(第一次安倍政権の)首相在任中に靖国に参拝できなかった
ことは私にとって痛恨の極みだ」と述べ、首相として靖国神社を参拝したい意向をにじませた。
ただ、首相就任後は「今の段階で行くか行かないかは差し控えたい」と慎重な姿勢も示し、春季例大祭(四月二十一~二十三日)、
終戦の日(八月十五日)に続き、秋季例大祭(十月十七~二十日)の参拝も見送った。
周辺によると、首相は、秋季例大祭での参拝を真剣に検討したという。しかし、外務省などから「中国指導部は日本との関係改善を
望んでいる兆しがあり、年内の首脳会談開催で合意できる可能性がある。秋季例大祭で靖国を参拝すれば可能性がなくなる」などと
説得され、外交への影響を考慮して我慢を続けることにしたという。
ところが、中国は、首相の参拝見送りを評価するどころか、神前に供える真榊を奉納したことを「迂回参拝だ。自ら参拝するのと
性質は全く同じで何の区別もない」(中国共産党機関紙『人民日報』の社説)などと批判した。韓国外交省の趙泰永報道官も、
「過去の侵略戦争を美化し、戦争犯罪者を合祀した靖国神社に再び供物を贈った」と述べて、中国と歩調を合わせた。
首相はこうした中韓の反応に「何も変わらないじゃないか。外務省は中国、韓国の顔色ばかりうかがって、どうしようもない」と怒りを
あらわにしているという。
(中略)
こうした情勢を受け、外務省内では、「参拝を控えても日中、日韓関係が改善しないのであれば、首相は、参拝に踏み切ってしまえと
考えるのではないか」と心配する声が広がっている。
首相のいらだちは、米国にも向けられている。首相に近い保守派のある議員によると、首相が秋季例大祭での参拝を見送った
最大の理由は、「参拝に踏み切れば、米国から安倍首相が日韓、日中関係を悪化させたと見なされ、オバマ大統領との関係にも
悪影響を与える」という点だったという。
外務・防衛担当閣僚による「日米安全保障協議委員会」(2プラス2)で来日した米国のケリー国務長官とヘーゲル国防長官が
十月三日、そろって東京都千代田区の千鳥ヶ淵戦没者墓苑を訪れ、献花をしたのは首相の靖国参拝を牽制するためだったとの
見方が出ている。
首相としては、日韓、日中関係とも、悪化させているのは韓国や中国の方なのに、米国はなぜそれを理解しないのか、という思い
なのだろう。
欧米では第一次安倍政権以来、安倍首相に対し、いわゆる従軍慰安婦問題などの歴史認識を修正しようとしている「右翼」政治家
だとする見方が根強く残っている。最近は、歴史認識問題への関わりを慎重に避ける姿勢に対し、「安倍首相を『右翼』と批判する
中国や韓国の方がおかしいのではないか」とする論調も出てきているが、首相が靖国を参拝すれば、こうした評価は消え去り、
批判が再燃することは間違いないだろう。
ある在京欧州外交筋は、こう語る。
「第一次政権の時、安倍首相は感情で動く政治家だと判断された。最近は、首相は現実的な判断で動く政治家だと認識されるように
なった。しかし、靖国神社に参拝すれば、首相はやはり感情に支配される政治家だと見なされるだろう」
本来、国のために命をささげた戦没者をいかに追悼するかは内政問題だ。ただ、「中国は首相をあえて挑発して靖国を参拝させる
ことで、日米同盟にくさびを打ち込もうとしている」(外交筋)との見方もある。首相は今、「ならぬ堪忍するが堪忍」を実感しているのでは
ないだろうか。
ソース(中央公論) URLリンク(www.chuokoron.jp)