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師走の総選挙。東京・永田町の自民党本部に赤いバラが咲き乱れていたころ、千五百キロ離れた那覇市で蟻塚(ありつか)亮二
(65)は少々、不安を覚えていた。
気掛かりは二つ。「オキナワ」そして「フクシマ」-。
蟻塚は沖縄協同病院・心療内科の医師。臨床のかたわら、太平洋戦争の沖縄戦体験者の心的外傷後ストレス障害(PTSD)
を研究している。
夜中に肉親の死を夢見て跳び起きたり、死体を踏んで逃げた記憶がよみがえり、足が痛みだす…。蟻塚らの調査では、
戦後七十年近くがすぎた今も体験者の半数近い44%が心身のストレス症状に苦しんでいるという。
米軍が上陸し、住民のほぼ四人に一人、十二万人が犠牲になった沖縄。戦後も米軍基地を押しつけられ、頻発する米兵の
犯罪や、新型輸送機「オスプレイ」の配備に悩まされる。蟻塚は言う。「心の傷を癒やす暇(いとま)がない」
蟻塚は一昨年三月の東京電力福島第一原発事故で、福島から沖縄へ避難した被災者の心理ケアにも携わってきた。
三十代の女性の被災者から「胸がかきむしられる」というメールが届いたのは昨夏。関西電力大飯原発3、4号機が再稼働した
直後だった。
蟻塚は不安だ。「原発がある限り、福島の人たちも苦しみ続けるんじゃないか」
自然豊かな東北の大地を汚した福島事故。最大六百平方キロメートルもの国土が「警戒区域」として区切られ、七万七千人の
住民が避難を余儀なくされた。多くは古里に戻れぬまま二度目の元旦を迎えた。
「今こそ原発を廃止するべきだ」。そう話すのは新右翼を標ぼうする「一水会」代表の木村三浩(56)だ。
木村には不思議でならない。新首相の安倍晋三は「美しい国」を欲し、尖閣諸島や竹島問題では「国土を守る」と勇ましい。
その首相がなぜ原発ゼロには口をつぐむのか。「原発は美しい日本の自然や風土を穢(けが)したではないか」。人々の暮らし
を奪った警戒区域は、尖閣諸島と竹島を合わせた面積の百倍に及ぶ。
「安全神話」の欺瞞(ぎまん)が明らかになりながら、経済的な「豊かさ」を求め原発を捨て切れない。「カネこそすべてという
拝金主義に支配され、原発をコントロールできると信じ込もうとしている」。木村にはそうみえる。
あの戦争で日本は「不敗神話」を信じ込んで引き際を誤り、犠牲を拡大していった。沖縄は戦後の痛みに今も苦しみ続ける。
日本人は沖縄を犠牲にした「偽りの平和」を甘受していると指摘する沖縄大元学長の新崎盛暉(76)はこうも言う。「土地や
人を犠牲にして成り立つ原発は偽りの豊かさしかもたらさない」。だから「こんどこそ日本人は引き返すべきだ」。
沖縄には「ちむぐりさ」という言葉がある。だれかの痛みをわが身のこととして深く寄り添うこと。本土に相当する言葉はない。
昨年末、福島県いわき市の菩提(ぼだい)院。沖縄の鎮魂の踊り「エイサー」と、福島のじゃんがら念仏踊りの踊り手たちが、
ともに舞い、太鼓とかねの音を絡み合わせた。
エイサーは、いわき出身で同院を建立した江戸時代の僧、袋中上人(たいちゅうしょうにん)が沖縄に伝えた念仏踊りが起源
とされる。ずっと昔から、つながっていたきずな。踊り手たちは震災二年に合わせ、ここで再び、共演するつもりだ。沖縄と福島、
心ひとつ、ちむぐりさを願って。
(以下略)
ソース(中日新聞) URLリンク(www.chunichi.co.jp)
写真=同じルーツを持つ沖縄の「エイサー」(右)と福島の「じゃんがら念仏踊り」。年の瀬の福島に、鎮魂の舞と音色が重なった
URLリンク(www.chunichi.co.jp)