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英国のエリザベス女王が今月6日、即位60年を迎えた。英王室の
ホームページによると、女王は即位翌年(1953年)の戴冠式後
から本格的な外国訪問を開始し、これまでに訪問した国は延べ330カ国を
超える。女王ほど世界を回った国家元首はいない。
その女王が最近まで行けない国があった。目と鼻の先の人口450万人の
小国アイルランドだ。両国の間にあったのは歴史問題である。
日韓は35年間の併合だが、英国は800年間、アイルランドを過酷な
支配下に置いた。土地没収や収奪、虐殺が相次ぎ、人々は餓死するか、
抵抗して殺されるか、欧州や米大陸に逃げるしかなかった。アイルランドの
歴史は英国に対する反乱と抵抗の歴史だ。
アイルランドが自治権を獲得(1922年)した際、南北に分裂したことも
両国に大きな亀裂を残した。この込み入った問題が解決して、アイルランド独立(37年)後
初めて、女王の国賓訪問が実現した。昨年5月である。
4日間の滞在中、女王は独立のために命を落とした人々の追悼記念碑などを訪れ、
黙とうした。最大の焦点は、晩さん会のスピーチで女王がどこまで謝罪に
踏み込むかだった。その核心部分である。
「苦しみを味わったすべての人に対して、私は心からの思いと深い同情を
ささげます。歴史を振り返ると、私たちは『別のやり方をすればよかった』
とか『あのようにしなければよかった』と言うことができます。ただ未来を
予想した昔の人たちが、両国が今日のような固い絆を結ぶとは考えもしなかった
ことも事実なのであります」
過去や未来について判定を下すことの難しさを諭しているようでもあり、
巧みな表現だ。BBC王室担当記者は「謝罪の言葉ではないが、それにかなり近い」
と論評した。
英国にはナショナリストも多い。彼(彼女)らにとって自国の歴史が
おとしめられることは許せない。和解との間で、女王には細心の注意が
求められた。日刊紙アイリッシュ・タイムズの編集局次長は女王の訪問後、
英オブザーバー紙に文章を寄せた。
「女王には地雷原の中の細い一本道を行くがごときものがあったが、
驚かされたのは女王がそれを優雅にやってのけたことだ」「多くの
アイルランド人は女王の気高い姿から、自分たちの成熟度が試され
ているのだと悟った。しかしそれは同時に英国の成熟度を試すものでもあった」
女王60年の業績でアイルランド訪問を欠くことはできない。
日本の皇室と同様、英王室は英外交にとって最大の資産である。(専門編集委員)
ソース:毎日新聞
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