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東北大、超音波+液体金属リチウム+重陽子ビームでDD核融合反応の促進を確認
東北大学は、超音波を作用させた「液体金属リチウム(Li)」に「重陽子ビーム」を照射することにより、「DD
(D:重陽子/重水素)核融合反応」が促進されることが見出され、反応率増大の要因が「超音波キャビ
テーションにより、液体金属Li中に700万度の重陽子プラズマが生成されたことにある」と判明したと発表した。
成果は、東北大 電子光理学研究センター・凝縮系核科学グループの笠木治郎太教授らの研究グループ
によるもの。研究の詳細な内容は、5月24日付けで米物理学会誌「Physical Review C」に掲載された。
恒星内では、プラズマ中での「熱核融合」により、軽い原子核から重い原子核へと核変換が進行し、それに
伴うエネルギーが放出される。熱核融合は、高温ガス中で熱運動している2個の原子核による核融合反応の
ことで、熱運動のエネルギーが、衝突する原子核間のクーロン障壁に打ち勝たなければ反応は起こらない。
よって、通常は1億度Kもの高い温度が必要とされる。
宇宙における元素合成のメカニズム解明や地上での核融合エネルギー利用開発のためには、密度や温度の
異なった広範囲にわたるプラズマ状態での核反応研究が欠かせない。
凝縮系中での核融合反応を増大させる物理的環境を探索している東北大学電子光理学研究センター・
凝縮系核科学グループは、今回、超音波を作用させた液体金属Liに、低エネルギー重陽子ビームを照射
することにより、DD核融合反応が大きく促進されることが見出された。
なお、液体に超音波を作用させると、密度の粗密振動を引き起こす。密度が小さくなった時、液体が気化し
ミクロンサイズの気泡が発生する。生じた気泡、あるいは気泡の生成をキャビテーションと呼ぶ。気泡が急激に
圧縮される時、高温高密度状態になる。
DD核融合反応は、2個の重陽子(D)が衝突することで生じる核反応で、発熱反応である。D+D→p+T(陽子
(p)と三重陽子(T:三重水素)の放出)と、D+D→n+3He(中性子(n)と3ヘリウム(He)粒子の放出)の2つの過程が
ほぼ1:1の割合で生じる。
実験では、液体金属Li標的に30~70keVの重陽子ビームを照射。同時に、液体Liへの超音波照射のON
(照射)/OFF(非照射)を繰り返しながら、ビーム照射中に生じる「D(d,p)T反応」からの陽子の収量とエネル
ギースペクトルを測定した。なお、D(d,p)T反応は、D+D→p+T反応の別の表記で、この場合、原子核反応は、
標的核(入射粒子,放出粒子)残留核という順で表記されている。
この結果、超音波ON時にのみ、陽子収量(反応率)が増加(画像1)および、陽子のピークの裾が高エネルギー
側に広がる(画像2)という現象が観測されたのである。
画像1は、超音波ON/OFF時の反応収量の比較で、重陽子照射中に液体Li標的で生じるD(d,p)T反応
からの陽子収量(反応収量)の測定例を示したグラフだ。赤丸が超音波を作用させた時(ON)、黒丸が作用
させない時(OFF)の収量である。超音波ONがOFFに較べて大きいことが分かる。
画像2は、D(d,p)T反応からの陽子スペクトルを解析したグラフで、超音波ON時に測定された陽子ピークの
形状が黒丸で示されている。黒色点線は同時に測定した超音波OFF時のピーク形状で、ON時のピーク
形状は、高エネルギー側に裾が広がっているのが確認できる。また、標的重陽子の熱エネルギーが686eVと
1250eVの場合に期待されるピーク形状が、それぞれ赤色実線と青色点線で示されている。温度約700万
度Kに相当する赤色実線が実験値をよく再現していることが確認できる。
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画像1。超音波ON/OFF時の反応収量の比較
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画像2。D(d,p)T反応からの陽子スペクトルの解析
収量とピーク形状に関して運動学的な解析が行われた結果、標的重陽子は、超音波ON時に液体Li中に
生じる超音波キャビテーションにより約700万度Kの高温プラズマ状態にあることが判明した。
>>2辺りに続く
デイビー日高/マイナビニュース 2012/06/01
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