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「制限」が創造性を高める理由
2011年11月22日
人間の創造性に関してはたくさんのパラドックスがあるが、そのなかのひとつは、制限があるほど
創造性が高まるらしいということだろう。われわれは、想像力は完全に自由な状態を必要とすると
思いがちだが、実際の創造的プロセスは、厳密な約束事や形式上の条件と深く絡み合ったものなのだ。
おそらくその最もよい例は詩だろう。一見すると詩は、文脈や文法に従う必要はないので、普通の
文章より自由に見えるが、ほとんどの詩人は既存の詩の形式を尊重している。俳句やソネット
[十四行詩]やセステット[十六行韻文]などだ。彼らは、自由に詩を作るよりは、構造的な条件を求める。
それはなぜだろう。
この問いに、『The Journal of Personality and Social Psychology』に掲載されたアムステルダム大学の
ジェニナ・マルグクらによる研究は、興味深い回答を示している。障害物があることによって、人の
精神的な視界が広がるというのだ。
障害物というものは、目の前の問題から途中で逃げ出す気持ちを起こさせるのでない限り、人間に
対して、一歩うしろへ下がって、より全体的でゲシュタルト的な処理方法をとるように促す効果があると
考えられる。その結果、人間は物事を大局的に眺め、一見すると無関係な情報を概念的に結びつけて
考えることが可能になる。
彼らはこの仮説を確かめるため、いくつかの実験を行っている。最初の実験では、学生25人に、
アナグラム(言葉のつづり変え)を使った一連のパズルを解かせた。学生たちの半数は、「障害物」の
ある状況下(アナグラムとは無関係の言葉を淡々と繰り返す声を聞かせる)に置かれた。その後、
学生たち全員に認知テストを受けさせ、物事の全体を捉えた思考をしているか、局所を捉えた思考を
しているかを評価した。
すると事前の予想どおり、音という障害物を与えられた被験者たちのほうが、大局的な視覚的
ターゲットへの反応が有意に優れていた。すなわち彼らは、細かい部分よりも、全体に注意を向けていた。
例えば、「ネイヴォン(Navon)課題」と呼ばれる下のような図を見せられ、どんな字が含まれているか
と問われたとき、学生たちは自動的に(左上から時計回りに)「E」「S」「H」「A」と読む傾向を
示した。これに対し、事前に障害物を与えられなかった被験者たちは、これらの図を「A」「H」「S」「E」
と読み、細部に注意を向ける傾向を示した。研究チームはこの変化を「知覚的視野」の広がりと呼び、
障害物の存在が、被験者が気づくことのできる範囲を広げた可能性を示唆している。
URLリンク(www.wired.com)
また、障害物は知覚的な視野を広げるだけでなく、概念的な視野も広げる。実験において、アナグラムを
解く間、数字をランダムに読み上げる声を聞かされるという不快な障害を与えられた被験者たちは、
概念的分類を柔軟に用いる能力においても優れた成績を示した。例えば、電話は普通、家電やコミュニ
ケーション機器とされるだけだが、障害を与えられた被験者は、電話の概念をより広くとらえ、「家具の
一種」としても認識することができた。こうした柔軟性は、人が新しい概念を思いつくときに必要なものだ。
そういうとき人は、慣れ親しんだ思考の境界を超えなければならないからだ。
(>>2以降に続く)
▽記事引用元 WIRED JAPANESE EDITION
URLリンク(wired.jp)
▽The Journal of Personality and Social Psychology掲載の論文要旨
"Stepping back to see the big picture: When obstacles elicit global processing"
URLリンク(psycnet.apa.org)