11/11/14 14:20:54.13
「とりとめのない夢想」と創造性
人間が「とりとめのない夢想」にふける時間は、起きている時間の半分にものぼる。覚醒と夢の
中間にあるこの状態は、うまく使うと創造的なものになりうる。
URLリンク(www.wired.com)
Image: Chandrahadi Junato/Flickr
刺激の欠けた退屈な状態は、価値がない時間と思われやすい。詩人のヨシフ・ブロツキーは、
「退屈な状態」は「精神のサハラ砂漠」だと呼んだ。けれども彼は同時に、退屈とは「精神の窓だ」
とも述べた。「もしこの窓が開いたら、閉めようとするな。大きく開けてみろ」と。
秘訣は、退屈それ自体ではない。退屈がどのようにわれわれを思考に向かわせるかだ。人は、
刺激のない単調な状態に陥ると、脳が自動的に、特別な行動に入るようになっている。「とりと
めのない夢想にふける」状態(Mind-wandering)だ。
効率にとりつかれた現代社会では、この状態は怠け者的な習慣だと思われやすい。フロイトは
この状態(白昼夢)を「幼稚な」思考の一例とみなした。生産的ではなく、問題を先送りする
姿勢のあらわれというわけだ。しかし最近の神経科学は、この状態に関するわれわれの見方を
劇的に変えている。
まずは、われわれは非常に頻繁に、「とりとめのない夢想にふける状態」に陥ることがわかっている。
2010年にハーバード大学の研究チームが『Science』に掲載した論文はこのことをよく示している。
研究チームは『iPhone』用のアプリケーションを開発して、ボランティアの被験者2,250人にランダム
な間隔で連絡し、「いま何をしているか」「どのくらい幸せか」を答えてもらった。その結果、とりとめ
もないことを考えているという回答は全体の46.9%にものぼった。実際、彼らがとりとめもないことを
考えていなかったのは、セックスをしているときだけだった。
とりとめもない状態の時、脳では何が起こっているのだろうか。2009年、ブリティッシュ・コロンビア
大学のカリナ・クリストフと、カリフォルニア大学サンタバーバラ校のジョナサン・スクーラーが率いる
研究チームは、「経験サンプリング法」を用いた研究を行った。被験者をfMRI(機能的磁気共鳴
画像)装置に入れ、脳の状態を調べるというものだ。
「とりとめのない夢想にふける状態」は簡単に作り出せる。厄介な作業を大量にさせられると、
被験者は数秒でこの状態に入るのだ(スクーラー氏らは、『戦争と平和』の退屈な章を読ませる
などの作業をさせた)。
この状態では代謝が活発になっていることは、以前から知られてきた。夢想にふけっているときの
大脳皮質は、実は多くのエネルギーを消費しているのだ。スクーラー氏らは、そのような状態にある
ときの脳の一連の活動を、さらに詳しく解明してみせた。
これまでは互いに対立して働くと考えられていた脳の2つの領域、すなわち、実行ネットワーク
[複雑な問題を解決するときのような意識的なネットワーク]とデフォルト・ネットワーク[覚醒度が
低く、外界に焦点をあてていないときのネットワーク]の、同時活性化が観察された。このことは、
とりとめのない夢想状態においては、通常は対立しているネットワークが共同して働くような、
ユニークな精神状態が生じている可能性を示唆するものだ。
ここで重要なことはふたつある。ひとつは、デフォルト・ネットワークへの言及だ。われわれは、いとも
簡単に夢想に陥ることから、夢想は思考の「デフォルト・モード」だと考えられる。そしてもうひとつは、
実行とデフォルトの両領域が同時に活性化したことだ。これは、夢想というものが、これまで考えら
れてきたほど「無心」の状態ではない可能性を示唆している。夢想は、睡眠時の夢と、覚醒した
意識の中間にある、境界的な空間に存在しているようなのだ。それは、起きてはいるが、十分に
現在に焦点をあててはいないような空間だ。
TEXT BY Jonah Lehrer TRANSLATION BY ガリレオ -高橋朋子/合原弘子
WIRED日本語版 2011年11月9日
URLリンク(wired.jp)
>>2辺りに続く