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時代の風:「初音ミク」と「ステマ」=東京大教授・坂村健
◇求められる常識の再構築
最近、海外で広く認知されるようになってきた日本発の歌姫をご存じだろうか。
米国ではトヨタのCMに起用されて注目を集め、昨年7月にはロサンゼルス最大
のライブ会場「ノキアシアター」でライブを行った。前売り券は2週間で完売。
当日は6000人の観客を熱狂させ大成功。ロサンゼルス・タイムズにも取り上げ
られ、NHKニュースでも紹介されたのでご覧になった方もいるだろう。くるぶしまで
伸びた青緑の髪と、同じ色の大きな目が印象的な少女。
もちろん実在の人間ではない。
彼女の名前は「初音(はつね)ミク」。ヤマハの開発した音声合成システムに、
北海道のクリプトン・フューチャー・メディア社がキャラクター付けして販売した
音声合成・デスクトップミュージックソフトウエアの製品名だ。パソコンでメロディーと
歌詞を入力することで合成音声で歌わせることができる。初音ミクに自作の歌を
歌わせて、ニコニコ動画やYouTubeに発表するアマチュアやセミプロのアーティスト
がたくさんおり、オリジナルだけでも数万曲。人気の発表者がメジャーデビューする
ケースも出てきている。
メーカー側も、作品の配布やキャラクターの利用について2次創作を推奨する
姿勢を取った。その結果、ネットの中で気に入った曲にイラストを付けて
プロモーションビデオ風に仕立ててくれる人が出てくるとか、さらにそれを楽にする
ため3DCGのミクに踊らせるソフトとか、レベルが高い創作支援環境がネットの
中でどんどん整備された。その感じはGoogleのCMによくまとまっている。
コンピューターの現場で今大きな比重を占めているオープンな開発エコシステム
の駆動力と同じものが、アートクリエーションの分野で生まれている。その中心に
シンボルとして存在しているのが初音ミクというわけだ。
ところで最近、初音ミクの海外での広まりを示すニュースがあった。
ロンドンオリンピックのオープニングで歌ってほしいアーティストの電子投票で
初音ミクが1位になったのだ。ただ、これはよく調べていくと、単純な話ではない。
当然ながら当初は海外著名アーティストが上位を占めていたが、いつのまにか
韓国アーティスト、いわゆるK-POPが上位を独占するようになった。ほとんどの
名前が、欧米のネットユーザーには知られていないものだったようで、
「組織票」だろうということになったらしい。
そこで、英語圏の巨大匿名掲示板である「4chan」を中心に対抗しようと
なったのだが、特定の人物を利用したらいろいろ問題になる。分散して各自が
好きなアーティストを挙げても組織票にはかなわないということで、「非実在歌姫」
の初音ミクへの投票を呼びかけることになったらしい。実際、ここまでの動きは、
最近まで日本では知られておらず、日本の巨大匿名掲示板である
「2ちゃんねる」でも反応していなかったので、ほとんど英語圏ユーザーによるもの
のようだ。そして、当初ジョーク的に行われていたものが、本当に1位を取って
しまい日本にも知られるようになった。
1位を取ったからといって、実際に初音ミクがロンドンオリンピックで歌うことは
ないだろうが、少なくともネットの中でそれだけ多くの海外の人が認知する存在
だからこそ、今風に言うと「ステマ」に対抗するネットのシンボルとして皆が共感
する存在になったのだろう。ところで、まったく違う話題になるが、この「ステルス
マーケティング」(略して「ステマ」)。最近ネットの中で多用されているが、ネット
外なら「サクラ」「ヤラセ」と呼ばれる古くからある手法のことだ。最近では、ネット
の中で議論するときに、気に入らない意見はすべて「ステマ、ステマ」と揶揄
(やゆ)して落とすような風潮に利用されており、あまり印象は良くない。
ステマの定義をして法的に規制するのがベストだろうが、
その定義が一筋縄でいかない。
残りは省略しました続きは以下のアドレスで
毎日新聞 2012年1月29日
URLリンク(mainichi.jp)