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【産経抄】4月8日
満開の桜を眺めながら、つくづく歌心のないのが恨めしい。今年も
各地の花の名所で、新しい歌が生まれているはずだ。〈夕闇の桜花の
記憶と重なりてはじめて聴きし日の君が血のおと〉。2年前の夏、
64歳で世を去った歌人の河野(かわの)裕子さんが、女子大生時代に
作った。
▼後につづったエッセーによると、どこの桜の花を詠んだのか、
記憶は定かではない。「この歌はいい。君が今までに作った歌の
中で一番いい」。そう、ほめてくれた恋人についての記憶は、
はっきりしている。
▼夫となった永田和宏さんは、歌人であり細胞生物学者でもある。
その永田さんと俵万智さんらが選者を務める「~家族を歌う~河野
裕子短歌賞」が、小紙と河野さんの母校、京都女子大学によって
創設された。年齢を問わず広く作品を募集している。
▼ただこの賞の特徴は、中高生を対象にウェブサイトで受け付ける、
「青春の歌」部門だろう。河野さんは大学卒業後、しばらく滋賀県の
中学校で教諭を務めている。小欄で河野さんをしのんだとき、当時の
教え子から手紙が届いた。
▼元気な先生にたくさん短歌を作らされたと、思い出を語った。
「1年に千首くらい、歌の出来栄えは気にせんと、ばーっと作る
んです。作っているうちに、言葉が言葉を引っ張ってくるように
なったら、しめたもの」。こんなふうに短歌教室でも、多作と
若者らしい勢いのある作品を求めた。
▼河野さんは冒頭の歌を含めた「桜花の記憶」で、「角川短歌賞」を
受賞、短歌界に鮮烈なデビューを果たす。やはり受賞後ブームを
巻き起こした俵さんら、多彩な女流歌人が活躍する道筋も作った。
新しい短歌賞がどんな歌人を世に送り出すのか、楽しみだ。