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【産経抄】3月4日
「貧乏人は麦を食え」というのは、戦後の政治史上に残る
「放言」のひとつとなっている。昭和25年12月、当時の
池田勇人蔵相が参院法務委員会で米価値上げを追及されたときの
答弁である。実際は、それほど乱暴な物言いではなかった。
▼「日本人は皆同じものを食べているが、古来の習慣に戻り、
所得の多い者は米本位、少ない者は麦本位としたい」。
これがマスコミや野党によって「翻訳」されたのだった。
とはいえ、当時まだまだ深刻だった食糧問題をすりかえた
と批判されても、仕方なかった。
▼この例を持ち出すまでもなく、国民に食糧を安定的に
供給することは政治の最大の仕事だ。できないと政権の
命取りにもなる。独裁国の北朝鮮でも同じである。いや
経済発展で大きく後れをとっている独裁国だからこそ
「食糧」は常に首脳たちの頭を離れないはずだ。
▼その北朝鮮が食糧支援を受ける代わりに、ウラン濃縮活動を
一時停止することで米国と合意した。慢性的食糧不足が伝えられる
国である。しかも4月の金日成主席生誕100周年などの
記念日には、国民に特別配給する計画だといわれる。
▼だから新しい金正恩体制としては国民を食べさせるため、
膝を屈し「火遊び」をやめたという美談めいた見方もある。
だが一方で、食糧はすでに中国から大量の支援を得ており、
今はさほど深刻ではないとの指摘もある。米国から譲歩を
引き出す狙いは別にあるというのだ。
▼それにウラン濃縮停止といっても、寧辺の施設に限られて
いる。ここは核開発の「ショーウインドー」にすぎず、
他の場所で秘密裏に続けられる恐れは残っているとされる。
「見せかけ」に惑わされず気を引き締めていくしかない。