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2012.2.29 03:07 [産経抄]
日本で映画が大衆化するのは、日露戦争のころだった。国の存亡をかけた戦いの様子を
「実写」した映画が作られた。直接戦争に加わらなかった「銃後」の国民は争うようにそ
れを見て拳(こぶし)を握った。そこから映画を楽しむ人が増えたのだという。
▼内田百●の短編『旅順入城式』は、そんな上映会の模様を書いている。ドイツの観戦
武官が撮影した映画で、難航を極めた旅順攻略戦や、乃木希典大将とステッセル将軍の
「水師営の会見」の場面などが出てくる。終わると「私」もみんなも大粒の涙を流してい
た。
▼明治37~38年の「実写」だから当然、音声のない映画だったのだろう。だが百●
の耳にはそれが伝わってきたようだ。大砲を山の上に運ぶ兵士たちの喘(あえ)ぎ声や、
昼夜を分かたず響きわたる敵味方の大砲の音を、まるで聞いたかのように表現しているの
である。
▼戦争の実写という緊迫感がそうさせるのだろう。一方でチャプリンの初期の作品のよ
うな無声(サイレント)映画となると、音や声を必要としないほどの演技や演出が観客を
ひきつける。いまだに無声映画に一定のファンがいるのもそのせいだ。
▼今年の米アカデミー賞に選ばれた「アーティスト」は、そんな無声で白黒の映画だと
いう。落ち目の映画スターを以前世話になった女優が助ける物語だ。大半はいわゆる「口
パク」で進行する。だが実際に見ると、何の抵抗もなくストーリーや会話が伝わってくる
そうだ。
▼選ばれたのは、無声、モノクロで描かれた「古き良きアメリカ」が郷愁を誘ったため
との見方もあるらしい。だがそれだけではあるまい。すべてが科学技術頼みという現代社
会への「挑戦」が評価されたように思えてならない。
●=間の日が月