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産経抄 2月24日
テレビは相変わらずグルメ番組が花盛りだ。何とかブログで評判を勝ち
取ったレストランには、たちまち行列ができる。近頃の流行の食べ物は、
ダイエット効果があると報じられたトマトだという。
▼そんな日本で、本物の飢えを知っている人がどれくらいいるだろう。数
少ない一人が、作家の野坂昭如さんだ。神戸空襲で孤児となり、敗戦の
1週間後に栄養失調で死んだ妹を、一人で火葬にした体験を持つ。その
野坂さんの持論が「日本人は再び餓死する」だ。
▼豊穣(ほうじょう)な大地と農にふさわしい気候に恵まれているという
のに、自給の仕組みを徹底的に壊してしまった国にとって、避けられな
い道だというのだ。野坂さんの予言は違った形で当たってしまった。
▼東京都立川市のマンションで、45歳の母親と知的障害のある4歳の
男児の遺体が見つかった。母親が病気で急死した後、男児は何も食べ
られないまま衰弱したらしい。さいたま市のアパートでは、60代の夫婦
と30代の息子が、餓死していた。
▼室内にはまったく食料がなく、一円玉が数枚残っているだけだったと
いう。飽食に浮かれる世の中の片隅で、誰にも助けを求められないま
ま飢餓地獄に苦しむ人たちがいる。日本人は豊かさへの階段を駆け上
がる途中で、何を見失ってしまったのだろう。
▼「うとうと寝入る節子をながめ、指切って血イ飲ましたらどないや、い
や指一本くらいのうてもかまへん、指の肉食べさしたろか」。野坂さんは
『火垂(ほた)るの墓』で、骨と皮にやせ衰えた妹に呼びかけている。後
年「小説ほどかわいがってやれなかった」と語っているが、妹には看取
(みと)ってくれる兄がいた。たった一人でひもじさに耐えた、男児が哀れ
でならない。