12/02/06 06:13:28.62 /LD5gOdAP
産経抄 2月6日
ある科学者をリーダーとする探検隊が、地下の世界でさまざまな冒険を
経験して生還を果たす。SF作家、ジュール・ヴェルヌ原作の映画『地底
探検』は、民族学者の梅棹忠夫のお気に入りだった。
▼昭和44年の刊行以来今もロングセラーを続ける『知的生産の技術』
によれば、おもしろがり方が人と違う。探検隊の歓迎会で、科学者がこ
んなスピーチを行う場面がある。「成功を祝ってくれる会なら、受ける資
格がない。なぜなら、探検の観察記録を途中ですべて失ってしまったか
らだ」。
▼梅棹が膝を打ったのは、どんな経験も記録がなければ無価値だ、と
の思想が打ち出されているところだった。中学入学以来の自分に関す
るあらゆる活字資料をファイルしていた「知の巨人」らしい。
▼東日本大震災に関する政府の会議の議事録がないと聞いて、泉下
の梅棹は腰を抜かしているだろう。失われたのではない。作らなかった
というのだ。これでは、福島第1原発事故への対応をめぐり、政府の誰
がどのように判断し決定を下したのか、検証しようがない。国際社会で、
放射能汚染の情報隠しの汚名を返上する機会も失われた。
▼野党時代は「情報公開」を政府に迫ってきた民主党は政権奪取後は、
「秘密保全法案」の成立をめざすなど、言論統制の動きを強めている。
わざわざ委員会が原因を究明するまでもない。会議の内容が明らかに
なれば、よほど都合の悪い事情があったのだろう。
▼梅棹は初代館長となる国立民族学博物館の創設時、バーで理念を
思いつく。「ふかい学識、ひろい教養、ゆたかな国際性、柔軟な実務感
覚、ゆきとどいたサービス精神」。民主党政権ほどこの理念からかけ離
れた存在もない。