12/02/05 06:46:15.05 Qi9ftqEzP
産経抄 2月5日
「宿かせと刀投(なげ)出す雪吹哉(ふぶきかな)」。恐らく街の宿屋なんか
ではない。孤立したような雪国の民家だろう。そこに二本差しの侍が強引
に入ってきて一泊させるよう求めてくる。そんな凄(すさ)まじいばかりの雪
の夜の光景を詠んだ蕪村の句である。
▼高橋治氏は著書『蕪村春秋』で、この句に「動きが一瞬止まる」のを感じ
る。「転がりこんで来た武士の方ではない。蕪村がひと言も触れていない
家の人々の、凍りついたような表情と動きが眼に浮かぶ」という。確かに
入ってこられた方の驚愕(きょうがく)は尋常ではなさそうだ。
▼しかしここ何日かの豪雪のニュースを見ると、つい武士にも「同情」した
くなる。1メートル先も見えないような吹雪の中、行き暮れたところにかすか
な灯(あか)りを見つけた。えいままよ。強盗ではないと刀を投げ出すように
転がり込んだ。とそっちの側からも読める気がする。
▼この季節、秋田の「かまくら」や合掌造りで知られる白川郷の雪景色の写
真を見ると、灯りが心にしみるように温かく感じられる。周囲の風景がモノ
クロであまりに冷たいからだ。だがそんな一条の灯りや温かさを求めてい
るのは、雪の中の旅人だけではない。
▼昨年の大震災で宮城県は年間処理量の19年分、岩手県は11年分の
がれきを背負い込んだ。復興への道にとって最大の障壁である。他の自治
体にがれきの受け入れと処理への協力を求めているが、東京都や静岡県
島田市などを除き、断られてばかりである。
▼拒否の理由は住民の放射能汚染への不安だ。しかし、すでに処理を続
けている東京都の調査では、焼却灰などの濃度は全く問題がないという。
それでもなお断るというのなら、雪の夜に宿を求める人を追い返すような
ものだ。