12/07/29 15:55:35.34 +z47ZjDd0
―最近あの人来ないな。
父親の声ではっとした。昼時の仕込みの最中、ふと備え付けのTVのニュースをぼんやり眺めているときだった。
―あの人って誰よ。
―ほら、真にカブトムシ持って来た人いたろう。
―ああ。
なんとなく風体は覚えているが顔のつくりまではうろ覚えだった。あのカブトムシ、どこで採ってきたんだろう。
男はいつまでたってもそんなものに興味があるものなのか。
―あの人、そこの大学病院の先生なんだってさ。
―先生?医者なの?
―ああ、お客さんでかかったことがあるって言ってる人がいるんだよ。
医者。真の面影からにじみ出るものと10年以上前のことが心を揺さぶった。