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最初のはがきが届いたのは2003年12月初旬だった。
―被差別部落出身の町役場の職員を辞めさせよ。
はがきには、そうした趣旨のことが書かれていた。
その後、5年にわたって計44通の差別はがきが職員の自宅や勤め先に届いた。
この間、職員は、各地の集会や研修会で差別への怒りと悲しみを訴えた。
「みなさんのこの怒りが、うねりとなって、犯人に届くことを願っています。ハガキの差出人は、
自分の行為がどんなに醜く、恥ずかしく、あなた自身の心や家族を不幸にしているのか
考えてみてください」「不合理な差別をともになくしていきましょう」
涙を流して職員は訴えた。「悲劇のヒーロー」に向けて拍手と声援がわきあがった。
それは、職員の人生において、最も高揚した時だったのではなかろうか。
09年夏、「偽計業務妨害」の疑いで当の職員(52)が逮捕された。
職員は自分にあてて差別はがきを送り続けてきたのだった。
職員は役場を解雇され、懲役1年6カ月執行猶予4年の一審判決が確定した。
部落解放同盟の糾弾学習会で心境を語ったが、人々を納得させる言葉はなかった―。
重いノンフィクションだ。
自分にあてて差別はがきを出し続けるという行為の意味を、どう考えればいいのか。
事実として言えるのは、職員が自分を「被害者」の位置に据えることを自ら選択したということだ。
そのためには自分で差別はがきを出すのが手っ取り早い。そう考えての自作自演ではなかったか。
部落差別をめぐっては多様な見解がある。本書が問うものについて、所属や立場を超えて語り合う場が
広がるなら本書の意義はより深まろう。藤田敬一『同和はこわい考』『「部落民」とは何か』(阿吽〈あうん〉社)、
山下力『被差別部落のわが半生』(平凡社新書)も併せてお勧めしたい。
ソース(朝日新聞):
URLリンク(book.asahi.com)