15/08/30 18:34:21.77 .net
企業が従業員に支払う賃金の最低ラインとなる「最低賃金」について、厚労省の審議会は7月末、
2015年度分は全国平均で18円値上げして、798円を目安にするよう厚労相に答申した。引き上げは労働者に
とって歓迎すべきことのようにみえるが、ネット上では様々な意見が飛び交っている。
東京都議のおときた駿氏は、引き上げ支持派だ。最低賃金の引き上げによって、最低賃金ギリギリで
なければ従業員を雇えず、経営を維持できない「ゾンビ企業」を淘汰できると主張する。ゾンビ企業が
なくなれば、雇用が流動化して、世代間や性差などの格差が解消されるというのだ。
一方、雇用問題の論客として知られるコンサルタントの城繁幸氏は、引き上げで淘汰されるのは、経営の
苦しい地方の零細企業で、地方衰退を招くと指摘。地方の雇用を支える零細企業が倒産すれば、従業員
たちが職を求めて都市部に移り住むと予測している。
さらに、最低賃金が引き上げられれば、企業は「この金額に値しないような、生産性のない労働者は淘汰
されろ」という考えになるため、弱者が切り捨てられるとみている。そこで城氏は、引き上げというよりも、
むしろ最低賃金自体を撤廃して、低所得者向けの支援制度を充実させるべきだと主張している。
最低賃金の引き上げによって、企業や労働者、そして地方の淘汰が進むことになるのだろうか。
山田長正弁護士に聞いた。
●日本では外部労働市場が不十分で、解雇も困難
「おときた氏は、『ゾンビ企業』の淘汰を進め、新興産業に労働者を集中すべきであると主張しています。
『ゾンビ企業』の定義が明らかではありませんが、現在日本の企業の7割が赤字です。仮に、それら企業の多くが
倒産してしまいますと、日本の経済自体が危うくなるでしょう。ですから、この意見は、現実的ではないように感じますね」
おときた氏は「雇用の流動化」が必要だからゾンビ企業が淘汰されるべきだと言っているが、どうだろうか。
「年功序列・終身雇用・正社員という特権を排除し、解雇を容易に認められるようにすることなどが必要だとも
主張されているようです。個人的に『雇用の流動化』自体には、反対はしません。
しかし、そもそも日本では、転職をするためのいわゆる『外部労働市場』が整備されていません。また、解雇が
困難であるという裁判実務の運用を踏まえると、実現は困難であるように思います」
では、城氏の主張についてはどうだろうか。
「たしかに地方の雇用機会が減ってしまう恐れはあるでしょう。ただし、最低賃金制度下では、全国的に賃金が底上げ
されるので、地方の最低賃金額は都市部よりも低くなる関係は残ります。ですから、減りこそすれ、地方の雇用機会は
守られるでしょうね」
では、「低生産性の労働者が淘汰される」ことになるのだろうか。
「そもそも企業活動そのものが、本来は利益追求を目的としている以上、どの企業においても労働者の生産性が
賃金を上回る必要があります。最低賃金が上昇すると、どの企業においても低生産性の労働者が解雇されるリスクは
高まるでしょう。しかし、これは、あくまで、理論上の話です。
実際は、日本の裁判実務上、解雇は安易に認められていません。ですから、最低賃金引き上げが即解雇につながる
という流れにはならないでしょう。また、最低賃金が上がることで、労働者の消費が増え、企業の売上増につながる
面もありますから、この点でも、ただちに解雇のリスクが高まるとは言えないと思います」
山田弁護士はこのように話していた。
(弁護士ドットコムニュース)