15/06/15 09:47:27.82 .net
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よほどのお金持ちでないかぎり、高価な商品を買うときは盛大に迷うものだ
最先端の機能を満載したこのパソコン、自分は本当に使いこなすだろうか。試着したジャケット、
雰囲気はいいのだがデザインがちょっと大胆すぎやしないか、帰宅して頭が冷えた瞬間シマッタとなるのではないか。
このように思い悩んだ末、購入の先送りや断念にいたった経験は誰にもあるだろう。
だが、アメリカ人はそうした悩みとはほぼ無縁と言っていい。気に入ったらとりあえず買ってみるのが米国流。
大変大胆な消費行動だが、その背景には独特のビジネススタイルがある。
理由も商品の状態も一切問わない「無条件返品」
パソコンの購入から数日後、やはり自分にとっては無駄に高性能だと悟ったとき、
ジャケットを奥さんに酷評されて心が折れたとき、アメリカ人はどうするか。
多くの人は店へ持っていって返品する。アメリカではたいていの店がたいていの商品について、
理由を問わず、また使用済みであっても返品・返金に応じてくれる。
理由と商品の状態が問われない返品を本稿では「無条件返品」と呼ぶ(ただし店と商品ごとに定められた返品期限はある)。
日本では「お客様のご都合による返品」には応じず、未使用・未開封の場合に限り返金または交換に応じるといった店がほとんどで、
買い物のリスクはもっぱら客の側が背負っている。だがアメリカではリスクを負うのは店の側だ。
「商品に納得できなければ、どうぞご自由に返品を。お客さまには1セントも損をさせません」
このように言われてもなおグズグズと迷い続ける客はどれほどいるだろうか。
無条件返品で消費者の支持を得たシアーズ
アメリカで無条件返品が一般化したのはいつ頃のことか。19世紀の末、
アメリカの人口の大半は広大な国土に散らばって住む農民だったが、自動車が普及する以前のこの時代、
彼らの買い物はもっぱら近所の商店に頼っていた。だが品物のバリエーションは乏しく、値段は割高だった。
そこに目をつけて、全米の家庭にカタログを送り、通信販売を始めたシアーズという男がいた。
豊富な品物を安く売る商法は大当たり。のちの大手百貨店シアーズの礎となった。
シアーズのカタログには、客にとって極めて重要な文言が記されていた。
「ご満足いただけなければ返金します」
この一言があればこそ、人びとは商品の現物を見ることなく安心して小切手を送ることができたというわけだ。
シアーズが掲げた「究極の満足保証」は消費者から熱烈に支持され、事業は急成長。20世紀に入ってからは
独自ブランドの乗用車や住宅までをカタログで売りまくった。
このシアーズ商法がその後のアメリカ小売業に大きな影響を与えたことは間違いないだろう。
アメリカでは単にモノを売るだけではなく、満足を保証しなければ商売にならないといっても過言ではない。
だが、無条件返品は企業にとって軽い負担ではないだろう。ビジネス誌「Adweek」によると、
全米で年間に返品される商品の額は2840億ドル(2014年)で、売上総額の9%にあたる。およそ10個に1個の商品が返品されてくる勘定だ。
返品のすべてが企業の損失になるわけではなく、未開封の商品など良好な状態のものは売り場に戻されることが多い。
だが再包装が必要な商品や、専門業者に安値で売り渡される商品、廃棄される商品も少なくない。
小売業の営業利益率は中堅百貨店メイシーズで9%台、家電量販の最大手ベストバイは3%満たない(ともに2014年)。
こうした経営にとって、返品をめぐるコスト負担がかなりの重荷になっていることは想像に難くない。
意外に“ウェット”なアメリカ人の消費行動
そうまでして企業が勝ちとろうとしているものは何か。
目先には、買い物のハードルを下げることによる売り上げ増という効果があるが、どうやらそれだけにはとどまらないようだ。
はからずもこれについては筆者自身にもささやかな経験がある。去年のことだが、家電量販店ベストバイから買ったばかりのパソコンを返品した。